池田屋先陣選び事件
【登場人物】
[新選組・近藤隊の面々]
・近藤…局長。やや理屈っぽい。
・沖田…一番隊隊長。超マイペース。
・永倉…二番隊隊長。奇怪な言動が目立つ。
・藤堂…八番隊隊長。この面子の中では一番のヘタレ。
・周平…勇の養子。先輩たちの争いに困惑。
[新選組・土方隊の面々]
・土方…副長。滅茶苦茶な行動で場をかき乱す。
・原田…十番隊隊長。無駄にテンションが高い。
[尊王攘夷派志士の面々]
・北添…土佐藩士。
元治元年六月五日〈新暦:1864年7月8日〉夜、京都の旅籠『池田屋』の前に新選組の面々が集結していた。
近藤「よし。この中に尊王攘夷派の侍どもが潜伏している可能性がある。我々近藤隊は、この中に乗り込み、奴らがいれば罪人として粛清する!」
沖田「り。」
永倉「一狩りいきますか!」
藤堂「ハァ…ハァ…緊張してきた…」
周平「行きましょう義父上!」
近藤「よし!気合は十分だな。皆の者、行くぞ!」
沖田&永倉&藤堂&周平「おう!!」
(池田屋の入り口の戸を前に刀を構える一同。)
一同「………」
近藤「何をしとるんだお前たち?」
沖田「は?」
藤堂「いやいやいや、こっちのセリフですよ。近藤さん行かないんですか?」
近藤「行くよ!だから待ってたんだ。」
永倉「何かが降臨するのを?」
近藤「誰か、戸を開けて突入してくのを。」
藤堂「僕らが先に行くのを期待してたってことですか?」
周平「義父上?」
近藤「な、何を言ってるんだ! 俺は局長だよ? 指揮する立場だよ? そういう立場の人間が最前線に行って、万が一討死でもしたらどうすんの? 誰もお前たちに指示できないぞ?」
沖田「始まったよ…」
周平「口数多いですよ!こういう時だけ。」
藤堂「あのう近藤さん、一応僕らも『隊長』という立場なんで、指示されずとも僕らの判断で動き続けることは出来ます。」
近藤「…じゃ誰が先頭に行ってもいいってことだよな?」
周平「あ、核心突かれた。」
藤堂「ちょちょちょ!そういうことではないです!あくまで事実を提示しただけなんで!」
近藤「何を尻込んでんだよ。お前のその『事実』とやらに照らし合わせたら、沖田でも永倉でも良いということだぞ?もしや隊長じゃない周平が行くべきとでも思っているのか?」
藤堂「僕は…筆頭格の近藤さんが先頭に立ってバッ!って戸を開いて、ウオーッ!って突入していって、僕らがその背中を追いかけるっていう…よくある展開になるのかな~と思って…。」
周平「二人とも必死だな。」
近藤「お前も俺が先に行くのを期待していたということだな?」
藤堂「待ってください…待ってください!」
近藤「よし藤堂行け!」
(藤堂の手を引っ張る近藤)
藤堂「ちょっと待って!ちょっと待って!」
近藤「土方に言いつけるぞ藤堂!」
藤堂「それはヤダー!あの人鬼だからヤダー!」
(グイグイと池田屋の入口の前に押し出される藤堂)
周平「二人とも!醜いです!」
沖田「しょーもな…」
永倉「エヘヘヘヘ…二人ともいい顔してるw」
藤堂「あーっ!そうだ!」
(永倉を指さす藤堂)
藤堂「この前、永倉さんが近藤さんのことを『屁理屈ネズミ』って言ってました!!」
周平「小学生か!」
近藤「何!本当か!?」
永倉「本当です。」
周平「早!」
(藤堂を離して永倉と相対する近藤)
近藤「俺のどこが屁理屈でネズミだ!」
永倉「先陣を切ることを忌避するネズミの体くらいの気の小ささを長々と屁理屈を並べて隠しているところです。」
周平「清々しい…」
近藤「俺は別に気が小さくて先陣を切れないのではなくて、組織の長として正常運営を保つために内部統制の乱れを防ぐという目的で、自分の立場を考慮してこういった場では一歩身を引いた立ち位置にいるわけで…」
永倉「ほら!屁理屈並べてる! 並べてるよねみんな?ね?ね?」
藤堂「並べてます!」
沖田「並べてる。」
周平「並べてますね。」
永倉「これを我々の上司である会津藩に言いつけたらあなた更迭ですよ?」
近藤「理屈じゃなくて説明だ!説明!」
周平「ちょっと義父上、かっこ悪いですよ。土方さんが見たら怒りますよ?」
近藤「よしわかった!周平、行け!」
周平「はぁ!?」
近藤「親の命令だ行け!」
沖田「ダッさ…」
近藤「何?」
沖田「さっきから全部ダサい。」
近藤「…んんっ!!」
永倉「見て。これが『何も言い返せない人の図』だよ?」
藤堂「拳を握って、その場で地面を見つめて立ち尽くしてる…。」
周平「万策尽きた時のリアクションだ…。」
近藤「さっきから沖田もなんなんだ。ずっと高みの見物でもするかのように。お前も何か言うことないのか?」
沖田「早いとこ終わらせて。」
(羽織の袖から千歳飴を取り出して舐めだす。)
近藤「お前なにしに来たんだよ…。」
周平「じゃぁもう、公平にじゃんけんで決めます?」
永倉「あ、いいね~それ。ゾクゾクするし。」
藤堂「もうそれが早いですね。」
近藤「待て待て待て。お前たち、四人で示し合わせるわけではないだろうな?」
周平「義父上~!」
藤堂「あんた本当にろくでもないな!」
永倉「ネズミからドブネズミに降格です。」
沖田(千歳飴を舐めながら軽蔑した目で近藤を見つめる。)
近藤「さっきからお前たちは俺が先陣を切ることを期待していたよな? なら四人で同じ手を出す八百長をしようとしている…とも考えられる。どうする…どうする俺…。」
(千歳飴を折る音が響く)
沖田「もうガタガタ言ってないで早くやるぞ!」
藤堂「武士らしく受け入れてください!」
永倉「武士の誉れ、討死じゃんけんいきますよ~!」
近藤「よーしわかったいくぞ!」
周平「いきますよ!」
一同「最初はグー!じゃんけん…」
一同「ポン!」
近藤→パー
その他→グー
近藤「よし勝った!」
一同「よぉぉぉぉぉし!! 負けたー!!」
近藤「なんで喜んでんだ!?」
藤堂「だって回避できたから…」
近藤「なんでお前たちが回避なんだ!?」
永倉「誰が負けが行くって決めたんですか?」
沖田「フッw」
近藤「ハメたな…」
周平「義父上、受け入れてください。武士らしく。」
近藤「うーん…ぬぬぬ…」
(ゆっくり池田屋の入り口の前に移動し、戸と相対する。)
近藤以外「いーけ、いーけ、いーけ…」
近藤「ぬんっ!!」(サーッ!)
(両手で戸を左右に開く)
近藤「……………」(パタンッ!)
(しばらく中を見渡した後、なぜか戸を閉める。)
周平「は? なんで?」
近藤「だって誰もいないんだもん。」
周平「声掛けなさいよ!」
近藤「なんか、人の家に勝手に入るのはなんか悪いし、主人が寝てたりしたら声掛けるの悪いな~と思うし、営業終了してるかもしれないし…なんか、緊張するっているか…」
周平「人見知りかよ!」
近藤「こりゃもう留守だな行こう。」
周平「ちょっと待ってちょっと待って!奥に誰かいるかもしれないでしょ?」
近藤「奥にいるならもう寝てるな。行くぞ!」
周平「だーかーらー!」
沖田「はいもう終わり。」
周平「沖田さんまで!」
永倉「今度ここに廃墟探索に行こ。」
藤堂「助かったー」
周平「みなさん!ちょっと」
(ここで中から戸が開かれ、武士が顔を出す。)
北添「何者だ?」
永倉「おっと!」(ジャキンッ!)
北添「ギャァァァァァ! 新選組…千歳飴?」(バタリ)
藤堂「こいつは!土佐藩士の北添というやつでは!?」
近藤「永倉!お前なにやってんだよ!」
永倉「廃墟に棲みつく地縛霊だと思って…」
藤堂「これ、中に他の尊攘派もいるってことですよね…?」
近藤「ヤバいぞ。今の悲鳴で完全に気づかれたぞ!」
周平「どうしますか?」
近藤「永倉!お前責任取って最初に行けよ!」
永倉「は?さっきのじゃんけんで近藤さんって決まりましたよね?」
周平「もう揉めてる場合じゃない!」
藤堂「なんか二階から足音がたくさん聞こえますよ!」
沖田「終わった…」
近藤「もうどうすんだよ!どうすんだよ!」
周平「義父上…いや局長!ご指示を!」
近藤「俺に頼るな!」
永倉「ん? なんからあっちからも何か来るぞ?」
(路地の遠くからたくさんの足音が聞こえてくる。)
土方「土方隊参上! 四国屋の方に尊攘派がいなかったからちょっとだけ酒飲んで10分チャージしてきたぜ!」
原田「おいコラ長州~幕府に代わってお仕置きよォォォォォ!!」
近藤「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!ヤバいの来た!」
周平「あの人たち目が怖い!」
土方「近藤さん!大丈夫ですか!?なんだコイツ(北添の亡骸)は!さては近藤さんに井戸の押し売りをしたな!」
原田「マジすか!? 我らが近藤局長の懐の深さを良いことにその銭を貪り食おうとするなど万死に値する!! ムキィィィ!!」
近藤「尊攘派!尊攘派だからコイツ!」
土方「おい永倉!藤堂! 悪徳水路商人を蹴散らしに行くぞ! そして二八そばに奴らを練りこむぞ!」
永倉「ちょっと…それじゃ二八の比率じゃなくなる!」
藤堂「ちょっと待って!心の準備!心の準備が!」
原田「沖田ー!周平ー! これが終わったら報酬で富くじ大量購入するぞぉぉぉ!!行くぞぉぉぉぉぉ!!」
沖田「うわっ!原田口臭っさ!!」
周平「ひゃぁぁぁこの人たち苦手ー!」
(土方、原田を始めとする土方隊によって池田屋へと押し込まれていく近藤隊の面々)
近藤「ぎゃぁぁぁ行くっきゃねぇぇぇ!!絶対生きて局長の退職代行頼んでやるぅぅぅ!!」
その後、なんやかんや新選組らは多くの尊王攘夷派の武士たちを斬り捨てもしくは捕縛。そして近藤らもなんやかんやあったが生還した。
これがきっかけとなり、新選組の知名度が向上。今風に言えば、「全国区でブレイク」するのであった。
「池田屋先陣選び事件」ー完ー
※史実を基にしたフィクションです。
※登場する歴史上の人物の人格・行動・言動はすべて作者の空想であり、ご本人様とは関係ありません。




