筋トレについて
騎士団の食堂。昼食の時間。
ナターリヤは同僚の騎士、ルカの向かいで、スープをかき混ぜながらため息をついていた。
「最近、鍛錬しても筋肉がつかないのよ。ちゃんと筋トレもしてるのに……」
ルカはパンをちぎりながら、少し考え込む。
「トレーニングも大事だけど、一番は実戦で使える筋肉をつけることだと思います。
レオニードは基本的な剣術訓練と馬術で体を作ってるって聞きました」
ナターリヤは、食堂の隅で黙々と食事をするレオニードに目を向けた。
彼は無表情のまま、鶏の丸焼きを丸々一羽、骨だけになるまで平らげていた。
(また肉……!)
しかも、付け合わせの野菜には一切手をつけていない。
肉、肉、肉。まるで筋肉のために生きているような食事だった。
レオニードは、2人のの視線に気づき、静かに顔を上げる。
「……いるか?」
ナターリヤは、骨しか残っていない皿を見て、呆れたように答えた。
「もう骨しかないでしょ」
ルカは苦笑しながら、レオニードに声をかけた。
「ナターリヤに筋肉の付け方を教えてくれませんか?」
レオニードは、少しだけ首を傾げて考え込む。
「……勝手に付くから、わからん」
そのまま、隣に置かれた二羽目の鶏の丸焼きに手を伸ばした。
ナターリヤは、スプーンを握ったまま固まった。
(全く参考にならない……!)
サラダ好きのナターリヤは頭を抱えつつも、好物のコブサラダのおかわりを皿いっぱいに移した。
そのとき、レオニードが黙々と鶏肉をかじりながら、ナターリヤの腕をまじまじと見つめていた。
「……だが、胸はあるほうだな」
「ぶっ!!」
ルカが飲んでいた葡萄酒を盛大に吹き出した。
ナターリヤはサラダの皿を落とし、顔を真っ赤にして硬直する。
レオニードは、無表情のまま続ける。
「手足や腰は細いのに、胸はあるし、尻も安産型だ。男みたいな筋肉のつき方はしないが、身体が引き締まっていて、それはそれで――」
「やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
叫びを上げ、周りのエリート騎士達がチラチラとナターリヤの体を見て「なんだ?」「安産型?」「やばくないか?」と話している。
「さ…さすが、恋人同士です…ね?」
「やめてよ!!!関係ないからっそういうことは!!」
まるで身体をよく知り尽くしているようなルカの物言いに、異議を唱えた。
レオニードは周りのざわめきなど気にせず、新しい鶏肉に手を伸ばしていた。
「事実を言ったまでだ」
「あんた…事実言ったら何でもOKじゃないのよ…!?」
「女はよほどストイックに筋トレと食事管理をしなければ、男みたいな体にはならない。そのままで何の不都合がある?」
褒められてるのかもしれないが、筋肉をつけたいという願望は無視している。
二人に挟まれた生真面目なルカは「まぁまぁ…」となだめ、柔和な顔立ちを困ったように歪めている。
「あの…じゃあ、レオニードさんがナターリヤさんに筋トレ教えてあげてちょっと手伝ってあげたらよいのでは…?」
レオニードはら他の男がナターリヤに近づくとあからさまに不機嫌となる。
ごく当たり前の提案に、レオニードは肉を頬張りながら納得した。
「…教えてやる」
「偉そうに…」
3ヶ月後、ナターリヤは少しだけ理想の体に近づいたという。




