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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第5章 冒険者

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最終話 家族

「お祖母様…… これ、本当にやらなきゃ駄目かな?」


 メイは両手を胸の前で組み、震えていた。許されるなら、今すぐここから逃げ出したかった。


「当たり前です! あれだけファンを心配させたのですから」


 しかりつける祖母に負け、メイは諦めてステージ袖からライトの当たるステージへと足を踏み出した。震える足でステージ中央まで進むと客席に向かって一礼する。


 割れんばかりの拍手が会場中から湧き、メイは驚いたように顔をあげた。


 大きなホールで、客席には沢山の人たちが座っていた。中には見知った顔も見える。ウィル、リンド、ティナ、アイニ、エイネ。少し離れた所にオルガとセヴェリとソニヤと祖父のシバ。ロンとアンナにゴードンとローラ。


 メイは皆の顔を見ると、少しだけ勇気が湧き、緊張していた呼吸を整えて、そっと歌い始めた。


 家族や友人たちへの感謝の気持ちを歌に込めて歌った。




 メイは歌いながら、ここ数日の出来事を思い出していた。




* * *




 魔王城で、互いの家族を助けたメイとユオは、一緒にヴィーエラ家に帰ってきた。


 アルトもオルガに会ったらいいのではないかと声をかけたのだが、アルトは首を横に振って断っていた。


「元気なメイに会えただけで、充分だ…… オルガには悪いことをしたから、合わせる顔がない…… 俺は死んだことにしてくれていい。何処か違う国にでも旅にでるよ」


 アルトは付き物が落ちたように晴れ晴れとした顔で旅立っていった。



 実家の扉をノックしたメイは怯えていた。

 セヴェリに怒られるであろうことを想像すると怖かった。

 執事長のランパンが扉を開け、メイとユオがいる事に驚き腰を抜かした。


「お、お嬢様……」


「ただいま、ランパン…… お父さんとお母さんいるかな?」


「ひとまず中にお入りください。お二人は仕事で外出していますが、すぐにお嬢様が戻られたことの知らせを出します」


 メイとユオはヴィーエラ家の客間に通されて、オルガとセヴェリが戻ってくるのを待った。


 しばらくすると誰かが走っている足音が聞こえて、オルガとセヴェリが客間に入ってきた。


「メイ!」


「お母さん……」


 メイはオルガと抱き合った。


「怪我はなかった?」


「はい。お母さんの薬のおかげです」


「良かった……」


 メイはセヴェリも見た。セヴェリは、今にも泣くのではないかというような顔で涙を堪えていた。

 メイはセヴェリにも抱きついた。セヴェリはメイの頭を撫でてくれた。


「勝手にいなくなってごめんなさい……」


「あぁ……ほんとだよ……どれだけ心配したか……」


 セヴェリは堪えきれなかったらしく、少しだけ涙を流した。


「あぁ、ひとまず座って、落ち着いて話をしましょう」


 オルガが声をかけてくれて一同は客間のソファに座って話をした。メイはこれまでの冒険をオルガとセヴェリに話して聞かせた。


「問題は解決したんだな? これからはもう危ないことはしないと約束してくれないか」

 

 セヴェリの問いにメイはしっかりと頷いた。


「家族を心配させるのは私も嫌だから、もう冒険はしない。冒険者は引退するよ。

 それで、お願いなんだけど……ユオと結婚したいの」


 セヴェリは頭を抱えた。


「どうせ、反対したら、また逃げ出すんだろ……分かった……結婚を許そう……

 但し、心配だから二人の家は王都の何処かに建ててくれ。これだけは譲れない」


 メイとユオは手を取り合って喜んだ。


「お父さん、お母さん、ありがとうございます」


 ユオはセヴェリとオルガに頭を下げた。


「その、魔国の方は大丈夫なの? ユオは魔王の息子なんでしょ?」


 オルガがユオを気遣って聞くと、ユオは頷いた。


「父が元気になったので、しばらくは心配いりません。弟と二人で父の仕事を手伝おうとは思いますが、新しく家を建てたら、自宅から魔国に通えるように転移魔法陣も用意します」


「それはいい事を聞いた。これからは魔国にも商売に行けると言う事だな」とセヴェリは不敵な笑みを浮かべた。メイは商売を理由にセヴェリがしょっちゅう家に来るのではないかと少し不安になった。


 ユオはそこまで気が付いていないらしく、「ぜひお願いします」と答えてしまった。



* * *



 魔国では、荒れてしまった国を元に戻すために毎日が大忙しだった。

 獣人族の新族長になったトゥフカは獣人の里の整備を助けた獣人たちと一緒に進め、ヨーツェンたち鳥族も魔国に戻り、荒れてしまった魔王城の掃除からテキパキとこなした。

 魔王の席にはリュフトがおさまり、キサとムスタもリュフトの仕事を手伝った。



* * *



 思い起こせばきりが無いが、メイにとって毎日がかけがえのないものだった。辛くて挫けそうになった事もあったが、家族や友人、ユオに支えられて乗り切ることができたことに感謝の気持ちでいっぱいだった。




 メイは歌い終わるとほろりと一粒涙を流した。




 曲が終わると観客は拍手喝采でメイを讃えてくれた。メイは客席に向かって、深々と礼をした。




 ステージの袖に下がるとユオが待っていた。

 メイはユオの腕の中に飛び込み、ユオと唇を重ねた。




終わり

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