第96話 エンケリ
「あーあ……せっかく見つけた逸材だったのに」
エンケリはパタパタと飛んできて、優香のいた場所に名残惜しそうに降り立った。
「お前は何のために優香を手伝っていたんだ、エンケリ。お前は一体何者なんだ?」
結界を解除できたユオたちがメイの所まで駆け寄ってきた。
「僕は創世の女神に仕える天使さ。元だけどね」
「天使……?」
メイは信じられないといった表情だ。
「本当さ。そうだな、どうしたら信じてもらえるかな? そっか! スキル【EasyMode】」
「キャ!」
メイは悲鳴をあげて倒れ込んだ。頭が割れるように痛み、頭の中でカチカチと音がするのが聞こえた。
「こっちにおいで、メイ」
メイは驚いた。勝手に自分の意思とは関係なく体が動いた。メイはエンケリを抱き上げ、エンケリの鼻先にキスをした。
ユオは怒りで震えている。
「お前……メイに何をした!!」
エンケリは嬉しそうに笑った。
「聞いてくれる? これは僕が天使だった時に作ったスキルなんだ。この世界の生き物なら、なんでも自分の都合の良いように動かせるスキル。すごいだろ? 僕が元天使だって分かってくれた?」
ユオは昔父親に教えられて知っていた。人の過去を覗く【記憶の水鏡】は本来、神が人間たちの生活を観察するためのスキルだと。そういった人間に干渉するスキルは本来、神か神に権限を許された者しか使えないと言うことをだ。
エンケリは話を続けた。
「僕は、元々は天界で、この世界のスキルを作ったり、生き物にスキルを授ける仕事を女神から任されていたんだ。
最初は女神に言われれた通りに仕事してたんだけど、段々つまらなくなっちゃってね……
だって、この世界って平和そのものだから。国も魔王も勇者もいるのに、全然争いに発展しないんだもん! それって、スキルのバランスが良すぎるんだよ。何処かの国に偏った強さの強者が生まれないように調整されてるの。僕の言ってること分かる?」
「お前の言う通り、強さが拮抗していれば争いは起きにくいかもしれない」
「そう、そうなんだよ! 僕はもっと人間たちのバトルが見たいんだよ!! 圧倒的な強者が現れて、どんどん敵を倒していって、異性にもモテまくるみたいな、人間の欲が見たいんだよ!
だから、僕は女神の命令に反して、強力なスキルを作ったんだ。さっきの【EasyMode】もその時に作ったスキルの一つさ。
でもね、女神に気が付かれちゃってドラゴンの卵にされて、この世界に転生させられちゃったんだ。
女神的には、少し頭を冷やせって感じで、僕の覚えていたスキルまでは取らなかったんだけど、焦ったよね…… 卵だから、温めてもらわないと生まれないし。そのまま死んじゃうのかなと思ったんだけど、運良く聖女様が僕の卵を見つけて温めてくれたんだ。それで僕は生まれたの。
魔王城を占拠したのは、ここが魔力溜まりになっていて、聖女様が元の世界とこっちを行ったり来たりするのに都合が良かったから。
彼女は本当に面白かった。まさに欲の塊。自分の事しか考えていなかった。僕が見たかったのは、こういうことだって再確認できたよ。すごくゾクゾクして楽しかった……」
エンケリはメイの腕の中で過去の出来事を思い出しているのかうっとりしている。
ユオは拳を強く握った。
「お前の目的は分かった…… お前がこの世界にいてはいけない存在だということもだ」
ユオは剣を抜いた。
ムスタとトゥフカとヨーツェンも臨戦体勢だ。
「いいよ……それもまた一興…… お相手してさしあげよう……」
エンケリはメイの腕から降りると、体が膨らみ始めた。ぐんぐんと大きくなり、玉座の間の天井に頭がつきそうな位の巨体へと変化した。
「さぁ……遊んであげようか……」
エンケリは口から炎を吹かせながら、そう言った。




