第94話 弟
「では、皆様。こちらの転移魔法陣に入ってください。魔国内にある、旧鳥族の里へとつながっています」
ヨーツェンの案内で隠れ里の中にある転移魔法陣に、一行は入った。
魔法陣が光り出した。隠れ里の鳥族は皆で翼を振り、見送ってくれた。
* * *
転送された先は大きな木の下だった。先ほどの隠れ里と同じように大きな湖が近くにある。
「キャー!!」
メイ達の後ろから、女の叫び声のような音が聞こえた。
急いで後ろを振り向いたメイはすぐに剣を抜いた。メイ達の後ろに一匹のハーピーがいたのだ。ユオも水魔法を出したが、トゥフカがユオの肩を掴んだ。
「殿下、お待ち下さい。このハーピー何か言いたい事があるようです。俺のスキルで通訳します」
ハーピーは甲高い声で何かを伝えているようだった。
ハーピーが鳴きやむのを待ってからトゥフカが通訳した。
「このハーピーは我々を主人の元へ案内したいと言ってます。敵意は感じません……いかがいたしましょうか?」
「お前の主人とは、新しい魔王のことか?」
ユオがハーピーに聞くとハーピーは頷いた。
「行こう。私も弟と話がある」
一行は馬に跨り、ゆっくり上空を飛ぶハーピーを追いかけた。しばらく馬を走らせると一軒の家が見えてきた。石膏を固めたような不思議な素材でできた四角い家だった。
家の入口から白いエプロンを身につけた少年が出てきた。ハーピーは少年の隣に降り立ち、少年はハーピーの翼を撫でた。
「はじめまして……… その……ムスタと言います。兄上、姉上会いたかった……」
ムスタは照れくさそうに頭をかいている。
「か……かわ……」
メイの母性本能は激しく揺さぶられた。
可愛すぎる!
ムスタの姿は数年前のユオを思い出させた。
メイは馬から降り、少年に駆け寄ろうとしたが、ユオの方が速かった。
ユオはメイよりも先にムスタを抱きしめていた。
ムスタは驚いていたが、嫌ではないらしくされるがままにしていた。ユオはメイを一睨みしてからムスタに声をかけた。
「私も会いたかった……」
ユオの言葉がよっぽど嬉しかったのか、ムスタはぽろぽろと涙を流した。
メイもムスタに近づき、かわいい弟の頭を撫でた。
「泣いてしまってごめんなさい……ずっと二人に会いたかったから、嬉しくて……」
しばらく泣いて落ち着きを取り戻したムスタは、一行をムスタの家へと招き入れてくれた。
「近くに兄上と姉上の魔力を感じたから、今日あたり会えるのではないかと思って焼き菓子を用意してみました」
部屋の中は外観と同じ様な石膏の様な素材で出来ていた。椅子やテーブル、棚に至るまで同じ素材だ。メイ達はひんやりと冷たい石膏の椅子に座って、ムスタが用意してくれた焼き菓子とお茶を楽しんだ。
「美味しい! ムスタが自分で作ったの?」
「はい。お口に合ったようで良かったです」
「ムスタは……ずっとここで暮らしているの?」とメイはムスタを気遣いながら質問した。
「実は……」
ムスタは前までは魔王城にエンケリという子竜と一緒に住んでいたことや聖女である母親が魔王城に戻ってきたので城を出た話をしてくれた。
メイはムスタの寂しい幼少期を知り、目が潤んだ。
「一人でずっと頑張ってきたんだね……」
メイに優しい声をかけられたムスタは又しても泣きそうだった。
「どうして、イーリスの砦を襲ったんだ?」とユオが目を細めながら聞く。
「ごめんなさい……考えが足りていませんでした。一人の寂しさ埋めたくて、遊びの延長線で…… イーリスの人たちには本当に申し訳ないことをしました……」
「反省しているならいい。エーデンの王族に知り合いがいるから、聖女の問題が片付いたら一緒に謝りに行こう」
「ありがとう……兄上」
「しかし、そのエンケリといい、聖女といい、何故魔王城に居座るのでしょうか?」
ヨーツェンが話に入ってきた。
「魔王城は歴代の魔王が長い間住んできた城だから、大量の魔力が溜まっているんだ…… エンケリと聖女はそれを利用しているんだと思う。最初から、それが目的で先代魔王に近づいたんじゃないかなって僕は考えてるよ」とムスタは眉をしかめながら答えた。
「何にせよ、聖女に問い質さないとはっきりしたことは分からないな……
エンケリという子竜が何のために聖女の味方をしているのかも分からない……
私達は聖女とエンケリを討とうと思っている。ムスタはどうしたい?」
ユオはムスタに聞いた。
「僕も兄上と姉上に協力します。聖女は姉上のことを酷く恨んでいるようでした……姉上、気をつけてください……」




