第91話 【番外編】魔王ムスタ
半年ほど前になるだろうか。母を名乗る女は急にムスタの前に現れた。あちこちに火傷を負い、肌は爛れ醜かった。ムスタに声をかけることはなく、母は自室にこもって数日出てこなかった。
何日か後に部屋から出てきた母は、一皮むけたように若く美しい女になって出てきた。ムスタは驚いた。
「ムスタ、会いたかった……」
母はムスタに優しく微笑んだ。
ムスタは幼い頃こそ母に会いたくて仕方なかったが、十年以上会わない内にそんな気持ちはとうになくなってしまっていた。
「今さら何をしにきたんだ? 僕はお前を母とは思わない」
「えぇー、じゃあ恋人にでもしてくれるの?」
「気色の悪いことを言うな。数日、城に置いてやっただけでも有難いと思え。用がないならさっさと出ていってくれないか」
「用ならあるわ。メイを殺さないと…… 私をこんな目にあわせておいて…… 絶対に許せない」
どうやら、母は城を出ていく気は無いらしい。
「じゃあ、僕が出ていく」
もっと早くこうしていれば良かった。エンケリの言いなりになって城に留まる必要なんか無かったんだ。
エンケリはどうやら、母と城に残るらしい。あんなに一緒にいたのに薄情なドラゴンだ。元よりムスタの為や魔国のためではなく、母の為に城が欲しかったのか。ムスタがいた方が族長会への大義名分ができ、都合が良かっただけなのかもしれない。
城を出るムスタにエンケリは見送りにも来なかった。
「これからどうしようか……」
ムスタは隣を歩く、ハーピーのクーシに声をかけた。
『私たちは、ご主人さまに付き従うだけでございます』
ムスタが使役している魔物は従順だったが、自分の意見を言う事はなかった。それがムスタにとっては悲しかった。仲間はたくさんいるはずなのに孤独感が消えることはなかった。
兄と姉に会いに行こうかとも思ったが、足がすくんだ。もし、兄と姉にも受け入れてもらえなければ、ムスタは今度こそ立ち直ることは出来ないと感じたからだ。
母は姉を殺すと言っていた。実際には会ったことの無い姉であったが、ムスタの幼少期の寂しさを埋めてくれた姉が傷つくのは嫌だとムスタは感じた。
ムスタは遠くに魔王城が見える開けた土地に家を建てることにした。ムスタは母が姉に何かしないように見張ることにしたのだ。
「皆、聞こえるかな」
ムスタの影の中に無数の目が浮かび上がり瞬きした。
「ここに家を建てて、母を見張ることにした。皆手伝ってくれるかな?」
『御意』
魔物たちは【影飛び】を使い散り散りに飛んでいった。多くの魔物が母を見張る為に魔王城へ向かい、少数の魔物だけムスタの新生活の準備の為に近くで作業を始めた。
ムスタはクーシの羽を撫でた。クーシはムスタの隣に腰を下ろし、ムスタと一緒に家が出来上がるのを見守った。




