第87話 【番外編】幼い日の弟
「エンケリ、どうしてこの城には僕とエンケリしかいないの?」
エンケリと呼ばれた子竜は大きな欠伸をした。
「どうしたのです? ムスタ様」
ムスタは漆黒の魔王城の中に、エンケリと二人で暮らしていた。ムスタの記憶に残っている限り、他に誰かがいた記憶はない。
「だって、不思議だよ。外にいる魔物だって、子供のうちは親と一緒に過ごしているよ」
「お父上でしたら、前にも言いましたが、そこにおられますよ」
エンケリは玉座の間に並ぶ石像を翼で指した。
三体の石像が並んでいる。その内の一番右端の石像がムスタの父親なのだとエンケリは言う。
「それは前にも聞いたよ……母上が石にしちゃったんでしょ……
どうして、そんな事するのかな? 石になっちゃったらお話できなくてつまらないよ……」
ムスタは寂しかった。エンケリはムスタの最低限の身の回りの世話はしてくれるが、遊んでくれたりはしなかったからだ。
「さぁ……聖女様の考えることは私には理解できません」
あくびを噛み殺しながらエンケリは答えた。
「母上はいつになったら会いに来てくれるの?」
「さぁ……どうでしょうね……
また、向こうの世界でむしゃくしゃすることでもあれば来るのではないでしょうか。
聖女様は、こちらの世界にはスマホもインターネットもゲームないから、つまらないとよくおっしゃいますから。当分は来ないのではないかと思いますよ」
「さみしいよ…… 他に兄弟はいたりしないの?」
「御兄弟なら二人おられますよ。兄が一人に、姉が一人です」
「え! ほんとに! 会いたい!」
「会うことは叶いませんが、姿だけなら」
「それでもいい! 見せて!」
エンケリはパタパタの空中に飛び上がり、宙に大きな輪を描きながら飛んだ。エンケリが飛んだ所が膜を張ったよう波打ち、二人の映像が映った。制服をきた男の子と女の子が二人で隣り合って座り話をしている。ムスタより少しだけ年上のようだ。
「黒髪の方が兄上で、フードを被った方が姉上です」
「へぇ……これが、兄上と姉上……
いいなぁ……二人は一緒にいるんだね。僕もいつか会えるかな?」
ムスタはエンケリに聞いたが、エンケリは黒の大理石の床の上で寝てしまっていた。




