第86話 馬
「ふぅぅ! よく寝た!」
メイが起きるとユオはまだテントの中で寝ていた。
昨日、よっぽどトゥフカとの話が盛り上がったのか、いつもメイより早く起きるユオが今日は寝坊していた。
メイがテントから出ると、いい匂いがした。焚き火の周りには串に刺さった魚が並べられ、いい具合に焼けていた。
メイは思わず涎が出そうになった。ここ最近移動続きでまともな食事を取っていなかったからだ。
「メイさん。おはようございます」
起きてきたメイにトゥフカが挨拶をした。今日は頭巾を被っておらず、グレーの髪と猫耳が見えた。
「おはようございます。これ、トゥフカさんが用意したんですか?」
「はい。数日追い回してしまいましたから、そのお詫びです。調度焼けていますから、どうぞ」
トゥフカは魚の串焼きを取ってメイに渡した。
メイはしっかり味わいながら串焼きを食べた。
「おいしいです。塩加減も抜群ですね!」
「喜んで頂けたようで良かったです。昨日、殿下とは話したのですが、俺も旅にお供させて頂くことになりました。よろしくお願いします」
「あ、そうなんですね! それは嬉しいです! こちらこそ、よろしくお願いします」
匂いに釣られたのかユオも起きてきた。メイの隣に座り、メイの頬にキスをした。まだ寝ぼけているらしい。
「殿下、おはようございます。魚が焼けていますので、どうぞ」
ユオは何も言わずに受け取り、器用に寝ぼけながら食べ始めたが、口に入れた瞬間に目が覚めた。
「うま!」
久しぶりに食べたちゃんとした料理にユオの目も覚めたらしい。
「殿下、慌てなくても沢山焼きましたから」
ユオの様子を見て、トゥフカは尻尾を振って喜んだ。
フンフン
メイは後ろから動物の鼻息を感じ、びっくりして振り向いた。茶色の馬がメイに鼻を近づけ鼻を鳴らしていた。
「ルーホ、こっちにおいで」
ルーホと呼ばれた馬はトゥフカの方へ移動した。トゥフカはアイテムボックスから林檎を出して馬に与えた。馬はバリバリと音を立てながら、器用に林檎を食べていく。
「かわいいですね。トゥフカさんの馬ですか?」
「そうです。長距離移動に自分の馬は必需品です」
「そうなんですね…… 私たち馬を持っていなくて、しかも乗合馬車にも乗れなくなってしまって困っていたんです」
「では、メイさんと殿下の馬を捕まえてきましょう。確かこの辺りにも野生の馬がいたはずなので」
「え!? そんなに簡単に捕まえられるんですか?」
「俺は【動物言語】というスキルが使えるので、動物と意思疎通ができるんです。ちょっと探してきますね」
そう言うとトゥフカは森の中へ入っていった。
小一時間程すると、トゥフカは二頭の馬の手綱を引いて現れた。
「予備の馬具があって良かったです。これで、すぐに御二人も使えますよ」
「私、馬に乗ったことないんですが、大丈夫でしょうか?」
「では、教えて差し上げます」
「トゥフカ……私がやるからいい」
ユオがメイとトゥフカの間に割って入った。
「出過ぎた真似を致しました」
トゥフカはユオに頭を下げて、焚き火の後始末をしに行った。
「ユオ、馬に乗れるの?」とメイは訝しんだ。
「子供の頃によくヨーツェンと乗り回していたから大丈夫だ。ちょっと待って」
ユオはメイの馬の顔をじっと睨んだ。何かを察したのか、馬はユオに頭を下げた。
「よし、これでいい」
ユオはメイを抱き上げ、メイを馬に乗せた。
「そのやり方ほんとに合ってる? なんか馬さん、怯えてない?」
「私は父親から、こうするように習った」
ユオはメイの馬の手綱を引いて、メイの練習に付き合った。




