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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第5章 冒険者

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第83話 持久戦 ‐2‐

「徒歩で進むと時間かかるね…… ヨーツェン、次の街までどのくらいかかるの?」


 メイの行方不明が世に知れ渡る前は乗合馬車を使い移動できたが、新聞に記事が載ってからはそうもいかなくなってしまっていた。


「そうですね。徒歩だと一週間といったところでしょうか……」


「一週間…… まぁ、でもダンジョンでも一週間潜り続けることもあるもんね。切り替えよう」


 メイは自分で自分を励ました。





 辺りが暗くなってきたので一同はテントを張って野営の準備を始めた。焚き火を囲み食事を済ませた。


「アサシンさん、あれから何もしてこないね……」とメイ。


「獣人は夜目が利く。こっちが休憩している間を狙うつもりなんだろうな。三人で交代しながら見張ろう。メイは先に休んでくれ」


「大丈夫?」


「大丈夫だ。オルガの薬籠を貸してくれるか?」


 メイはユオに言われるがままに薬籠をユオに渡した。ユオは薬籠の一番上の蓋を開けた。


「約束の薬はできているだろうな」


 二匹の鼠はユオに睨まれ、互いに抱き合って震えた。


「も、勿論でございます……他の薬と混ざらぬように、私共で保管しておりました。どうぞ、お納めください」


 鼠の一匹が震える前足で一本の薬瓶をユオに渡した。


「ご苦労。しばらく毎日使うから、用意しろ」


「猫さん、大変申しあげにくいのですが、毎日の服用はお体に障ります。どんなに良い薬でも万能ではないのです」


「分かっている」


 そう言うとユオは薬籠の蓋を閉め、薬を一気に飲み干した。


「それ何の薬? 見たことないけど……」


「ただの疲労回復薬だ」

 

「なんで、そんな物を作らせてたの? 流石のユオでも準備が良すぎるよ」


「これは………メイは知らなくていい」


 ユオはメイには知られたくない不都合なことがあるらしく、それ以上は教えてくれなかった。




「じゃあ、先に寝るから、時間になったら起こしてね」


 メイはそう言うとテントに入った。

 ユオとヨーツェンで夜の番をする。


「こんな事になるなら、土の上に魔法陣を描ける石灰の粉を準備しておくんだったな…… チョークは硬い地面じゃないと描けないから不便だ」


 防御の魔法陣を描ければ、もう少し安心して過ごせただろうが、柔らかい土や草の上でも描ける道具は持ち合わせていなかった。

 焚き火のパチパチいう音と虫の声以外、森は静まり返っていた。





「ユオ様、眠くなってしまうので何か話でもしましょう。メイさんのどこがそんなに好きなのですか?」


「なんで、その話題なんだ?」


「目が覚めたでしょ?」


 ヨーツェンは翼で嘴を隠しながら笑った。


「で、どこが良いのですか?」


「………そうだなぁ…… かわいいところだろ…… 明るいところだろ……

 ちょっと抜けてるところも好きだし、肌が綺麗なのも好きだ。言ってたらキリがないな……」



 シュン



 ユオの首筋目掛けて小さな針が飛んできた。ユオは体を屈めて避けた。


「な、なんです!」


 ヨーツェンは驚いて飛び上がった。


「毒針か…… 嫌な攻撃だ……」


「奴を探して参りましょうか?」


「お前は暗闇は何も見えないだろ。殺されるのが落ちだ。向こうは集団戦は嫌みたいだな。近づいてこない」


「何か手があればいいのですが……」


「今のが当たらなかったから、もう近くにはいないだろう。まだ一日目だから、無理して攻めてこないんだろうな。念の為【気配察知】も使ってみる」


 ユオは意識を研ぎ澄まして【気配察知】を使ったが、相手も【気配遮断】を使っているのか見つけることはできなかった。


「駄目だ……見つからない」



* * *



「メイ、交代だ」


 ユオがテントで寝ていたメイを起こした。


「了解。何もなかった?」


 ユオが首を振った。


「毒針が何度か飛んできた。メイも気をつけろ」


「分かったよ…… ユオ、ありがとう。しっかり寝てね」


 メイと入れ替わりでユオはテントに入った。



 メイはテントを出てすぐにシールドの魔法を自分とテントを囲むように張った。


「メイさん、シールドなど使って大丈夫ですか? 夜はまだまだ長いですが……」


 ヨーツェンは心配した。シールドは短時間使う分には問題ないが、魔力消費が激しく長時間の使用には向いていないからだ。


「大丈夫。私、魔法の持久力には自信があるの。朝までどころか、一週間くらいなら何とかなるよ。毒針防ぐくらいなら、薄いシールドでも大丈夫でしょ」


 ヨーツェンはメイのシールドに近づいて観察してみた。とても薄いガラスのようなシールドだった。


「お見逸れ致しました。これほど薄いシールドは見たことがございません。魔力操作が得意なのですね」


「それより、ヨーツェンは寝なくて大丈夫なの?」


「私は昼間寝させていただきます。その時は肩を貸してください」


「分かった」


 メイは焚き火に枝を足しながら見張りをした。






「アサシンさん。少し話をしませんか?」


 メイは暗闇に向かって話しかけた。返事は返ってこなかったが、メイは気にせず話し続けた。


「私、【真実の瞳】っていうスキルがあるので分かるんです。アサシンさんは悪い人ではないですね。お互いの話をすれば分かり合えませんか?」


 やはり返事は返ってこなかった。





 トゥフカは、勿論メイの声が聞こえていたが返事はしなかった。

 暗殺の仕事中は死から逃れるために多くの暗殺対象が命乞いをした。真面目に聞いていては心が持たないので、心に蓋をして何も聞かないことにしているのだ。

 今回はメイを殺す必要はなかったが、情が移ってしまっては仕事に支障をきたすことは目に見えていたので、いつものように心を無にして、メイのシールドが解けるのを待った。


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