第82話 持久戦 ‐1‐
アサシンがいなくなってから、しばらく臨戦体勢を続けた一行であったが、アサシンは何処かに隠れているのか出てこない。
メイが口火を切った。
「持久戦ってことは、これからずっとこの緊張状態を保たないといけないってこと?」
ユオは暗い表情で頷いた。
「ひとまず、先に進もう。このまま、ここを動かない訳にはいかないだろう」
「そういえば、ユオ! さっき、切られてたよね? 大丈夫?」
メイはオルガの薬籠からポーションを出して、ユオに飲ませた。傷はすぐに回復した。
「ありがとう…… 向こうの強みは気配がないことと、近接戦に強いことだ。近づかれないように警戒しながら、進むしかないだろうな……
一旦街道まで出よう。森の中では見通しが悪い」
ユオは不安を感じていた。さっきアサシンがメイの後ろを取るのに全く気づくことができなかった。あの時、アサシンが本気を出していれば幾らでもメイを連れていくことができただろう。
ユオの不安そうな顔に気がついたメイがユオの肩を叩いた。
「大丈夫、なんとかなるよ。
私、楽しくなってきちゃった。あの人、すごく強かったね。私も是非手合せしたいよ」
メイは笑顔だった。ユオが深刻に考えてしまう時はいつもメイの笑顔に励まされた。
「ありがとう……メイのそういうところ好きだよ。行こうか」
* * *
アサシンは離れた所に待たせておいた愛馬に跨った。
「待たせたな、ルーホ。持久戦だ。少し先にいる三人組に気づかれないように追いかけてくれ。俺は少し寝る」
アサシンの名前はトゥフカ。魔国出身の獣人だった。父親は先の内戦で亡くなってしまったが、母親と命からがら魔国から逃げ出し、今ではアサシンとして暗殺の仕事をしていた。
普通に冒険者をしてもよかったのだが、獣人を奴隷にする商売をしている奴隷商も少なからずいたので、極力目立たないこの仕事を選んだ。
仕事の傍ら、奴隷商に攫われた仲間を助けるのにも、裏の世界の情報が入りやすいこの職業は都合が良かったのだ。
ルーホはトゥフカが特別な訓練をした馬だった。上手く気配を消しながら、対象を尾行することができる。暗殺はどれだけ気が付かれずに対象を処理するかを求められる仕事だった。昼夜問わずの監視や尾行には相棒の存在が不可欠だった。
ルーホはメイ達に気が付かれない距離を保ちながらゆっくり森の中を進んだ。




