第81話 アサシン
国境の入国審査場をメイとユオは猫の姿のまま何食わぬ顔で通過した。入国審査の列に並んでいた人たちは二匹の猫が自分たちの足元をすり抜けて行くのを不思議そうに眺めるだけだった。
エーデン王国に入ると大きな森が広がっていた。街道は整備されていたが、その周りには手付かずの自然が残っていた。
メイは猫の姿ではあったが、自分が裸で歩いていることに強い抵抗感を感じ、エーデンに入ると走り出した。
薬の効果が切れる前に人目のない所に行かねば!
街道から外れた森の中をメイは進んでいく。ユオとヨーツェンも後ろから付いてきているようだ。
街道が見えなくなるくらい森の奥まで進んでメイは木の陰に隠れた。
* * *
「ふぅ…… 猫になってみたいって思ってたけど、思いのほか恥ずかしかったなぁ……」
木陰で着替えを済ませたメイが出てきた。
ヨーツェンが翼で人型のユオの目を隠している。
「別にここまでしなくても……いつも見てるんだから」
ユオはブツブツ文句を言っていた。
「ユオ様、それではメイさんに嫌われてしまいますよ」
ヨーツェンに言われてユオはビクッと体を震わせた。
「はい、お待たせ。さぁ、出発しようか」とメイが声をかけた時にそれは突如として現れた。
「見つけた」
「きゃ!」
メイの首元にダガーが突きつけられていた。メイの後ろに誰かいる。背後を取られたのに全く気配を感じなかった。
「メイ! お前、誰だ!」
ユオは慌てて水魔法で水球を自分の手の上に出した。ユオもこの人物の気配に全く気が付かなったらしい。
メイの後ろにいる人物は黒尽くめの格好をしていて、顔は頭巾で隠れていて見えないが腰からはグレーの尻尾が生えていた。メイより背が高いのと声の感じから男のようだ。
「俺はヴィーエラ家に雇われたアサシンだ。ヴィーエラ家の長女を連れ戻すように依頼を受けている。
お前……鳥族を連れているということは魔国の出身か。しかも、その目……獣人だな。耳と尾はどうした?」
アサシンはユオの見た目だけで、ユオの情報を容易に引き出した。ユオはそれに驚いたように目を見開いた。
「――なぜ獣人だと分かったんだ? 耳と尾は変身術で隠している……」
「え!? ユオって獣人なの!?」
メイは新真実に驚いた。長年一緒にいるのに、全く知らなかったからだ。
「ハーフだけど、獣人だ。目立たないように隠してるんだ」
アサシンはユオの質問に答えた。
「目が獣人の目をしている。獣人は普通の人間とは目のつくりが違うからな。次変装する時は目も隠しておくんだな。
ヴィーエラにはお前を消すように依頼されたが、同郷のよしみで見逃してやる。早く行け」
「同郷? お前は魔国の獣人か?」
「元だ。先の内戦で脱国した。お前もだろ? いいから早く行け」
「お前も獣人なら分かるだろ…… 獣人が惚れた女を置いて逃げる訳無いだろ」
「……それもそうだな」
アサシンはメイの背中を強く押して倒した。ユオはすぐに水魔法を展開し、アサシンの脳天を突こうとしたが、アサシンは両手に一本ずつ構えているダガーでそれを防いだ。
アサシンはユオとの距離を詰めて、ダガーで斬りかかる。ユオも剣を出して斬撃を防ぐが、二刀流のアサシンの方が手数が多い。ユオは腕を切られて後ろに飛び退き、アサシンと距離を取った。
「分かっただろ? 俺の方が一枚上手だ。このまま続けてもお前に勝ち目はない」
ユオは悔しそうに歯を食いしばった。
「そんな事ないよ!」
メイは剣を抜いて立ち上がる。
「そうです! 私の事も無視されては困ります!」
ヨーツェンも自分の周りに氷の礫を浮かべて臨戦体勢だ。
「あなたも相当強いみたいだけど、三対一ならこちらが有利でしょ。諦めて帰るのはあなたの方だよ」
アサシンはふっと笑い声をこぼした。
「いいだろう……
言っておくが、俺は依頼されたことは必ずやり遂げる。ここからは持久戦だ。先に集中力が切れた方が負けだ」
そう言うとアサシンは高く飛び上がって木に登り、森の中に消えた。




