第8話 薬屋のセヴェリ
森の家の近くの木の蔭に隠れて、メイはオルガと薬屋の様子をうかがうことにした。
薬屋はオルガに綺麗にラッピングされた箱を渡そうと必死になっているようだった。しばらく押し問答をして、オルガが断固として受け取らなかったため、薬屋はとぼとぼ綺麗な箱を小脇に抱えて帰るようだ。
(面白そうだから、話しかけちゃおう)
メイは興味本位で、薬屋に声をかけることにした。
オルガはメイを薬屋に会わせたくないのは分かっていたが、メイは思い立ったことは衝動的に行動してしまうタイプなのだ。
メイはオルガに見つからない場所を選んで、薬屋に声をかけた。
「こんにちは!」
「わ!」
薬屋は急に飛び出してきたメイに驚いた。薬屋はメイを見て、狐のような細い目を見開いた。
「驚いた!もしかして、メイかい?」
「私のこと知ってるの?」
メイも驚いた。薬屋とは一度も会ったことが無かったので自分のことを知っているとは思っていなかったからだ。
「勿論さ。覚えていないと思うけど、こんな小さい赤ん坊の頃に会ったことがあるんだよ」
薬屋は優しい口調で教えてくれた。
先生もギルド長も薬屋のことが嫌いみたいだけど、メイには薬屋がいい人のように思えた。面と向かって見ると、背も高いし、目は細いが鼻筋が通っていて、顔も美男の部類に入るのではないかと、メイは薬屋の容姿をしげしげと観察した。
「そうだったんだね! ねぇねぇ、その箱はなぁに?」
メイは綺麗にラッピングされた箱を指差して、薬屋に聞いた。
「あぁ、これかい? オルガにプレゼントしようと思ったんだけど、断られたんだよ」
メイはどきどきしながら「プ、プレゼント!! もしかして薬屋さんは先生のことが好きなの!?」と単刀直入に聞いてみた。
「そうだよ」
薬屋は照れることなく、当たり前のことだと言わんばかりにすっと答えた。
メイは嬉しくなって、頬をピンクに染めて喜んだ。メイはオルガのことが大好きなので、イブリ書店の奥さんみたいにオルガも早く結婚すればいいのにと勝手にオルガの嫁入りを心配していたからだ。
メイは直感で、このよく知りもしない薬屋の好意を応援することに決めた。
「先生はね、甘いものに目がないんだよ!」
にこにこしながら、薬屋にアドバイスすると薬屋は大いに喜んだ。
「ほんとに!? ありがとう! いつも何を持っていっても断られて、どうしたもんかと思ってたんだ! 来週は甘いものにしてみるよ!」
(何のこれしき!先生の幸せを考えたら、お安い御用ですよ!)
「そうだ、名乗っていなかったね。セヴェリだ。オルガには薬屋って呼ばれているけど、セヴェリでも、薬屋でも、おじさんでも、好きなように呼んでいいよ」
セヴェリはメイにさわやかにほほ笑んだ。




