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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第5章 冒険者

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第73話 五十一階層

 ユオの案内で、メイはソッケロの51階層に来ていた。なんでも、ユオ一人で50階層のボスまでは倒してあるらしい。


「私、いきなり51階層からで大丈夫かな?」


「問題ない。メイなら大丈夫だ。

 エルメルさんに51〜60階層の攻略法は教えてもらった。51〜60階層は遺跡の中のような石壁の迷路らしい。魔物は主にスケルトンやアンデッド、ゴーストの類の魔物が出る」


「アンデッド系なら、聖水とか光属性が効くよね。私、光属性の魔法剣使えるから、相性抜群だね! じゃあ、ユオにはこれを授けよう」


 メイは魔法カバンから何本か小瓶を出してユオに渡した。


「お母さんが貸してくれたスキルの鼠たちが作った聖水だよ。使ったら使った分だけせっせと作ってくれるから、じゃんじゃん使っても大丈夫だよ」


「ありがとう」


 ユオは聖水の小瓶をアイテムボックスに入れて、残った一本だけ開けた。聖水はぷよぷよと小瓶から重力に逆らって出てきて、流れ落ちる事なく、ユオの周りを漂っている。


「それ、どうやったの!?」


「魔力付与と同じ要領だ。聖水に自分の魔力を流して、操作している。この方が何度も使えるから便利なんだ。自分の魔力で作った水じゃないから、少しコツがいるけどな」


「なるほど、便利だね!

 それよりユオ、今日は私が前衛やりたい。

 学校ではいつも後衛だったから、ほんとはずっとやってみたかったんだ!」


 メイの提案にユオは頷く。


「よし! じゃあ、じゃんじゃん進もう。ユオ、マッピングお願いね……」


「了解」


 ユオは何も言わなかったが、メイは致命的にマッピングが苦手だった。方向感覚がないのか、上手く書けないらしい。トーヤ在学中はいつもウィルがマッピングをしていたのをユオは知っていた。

 少なくとも遺跡ゾーンはユオがマッピングをする必要がありそうだ。


「メイ、一応全部の道を見たいから、左手を壁につけて進んでくれ」


「オーケー、まかせろ」


 メイは右手に剣を持ち、左手は壁伝いで進んでいった。




* * *




 た、楽しい………


 メイは前に大量に湧いたスケルトンをばったばったと切り進んでいた。

 スケルトンたちは鎧を着ていたり、武器を装備していたが、光属性を付与したメイの剣の前では全く意味をなさなかった。


「ユオ……一匹残らずやっつけよう……」


 メイは前衛に立つと人格が変わるらしい。

 ユオは気にせず、マッピングしながらついていった。たまに壁をすり抜けて現れるゴーストは聖水を得意の水魔法のように使い処理した。



 二人は難なく、51階層のフロアボスがいる大きな部屋までたどり着いた。


 51階層のフロアボスは赤い鎧を着たアーマースケルトンだった。長剣を騎士のように構えて、こちらの動きを伺っている。


 メイはゴクリと生唾を飲んだ。


「ユオ……ひとりでやってみたいんだけど、いいかな?」


 メイは振り返らずにユオに聞いた。


「いいよ。でも、危なそうだったら手出すから」


「オッケー、それでいいよ……」



 さっきの雑魚たちと違って、この大きいのはもっと楽しそうだ。



 メイは剣を抜きながら走って一気にアーマースケルトンに剣を振り下ろした。

 アーマースケルトンは自分の持っていた剣で、メイの攻撃を防いだ。鍔迫り合いの状態になったが、メイはすぐに姿勢を低くして、アーマースケルトンの足元に回し蹴りを入れた。

 アーマースケルトンは一瞬体勢を崩しかけたが、飛び退いてメイの攻撃をかわした。



 上手にかわしてくる。やっぱりさっきの雑魚たちより面白い。



 メイはにやりと笑った。


 メイは剣を縦に構えて魔法を使った。剣からまばゆい光が放たれ、薄暗かった部屋が一瞬明るくなった。

 光が消えて、元の暗さに戻った時メイの姿はなかった。アーマースケルトンは辺りを見渡してメイを探す。


「ここだよ」


 メイはアーマースケルトンの背後に音もなく回り込んでいたのだ。

 メイは光属性を付与した剣で、アーマースケルトンの首をはねた。光属性の魔力の影響か、切られた所からちりちりと骨が砂になっていく。

 アーマースケルトンは首のない体で最期の足掻きをした。剣を振り回して攻撃してきたが、メイには当たらなかった。

 メイはアーマースケルトンの剣を持っている方の手も首と同じように切り落とした。

 アーマースケルトンは膝から倒れて、塵になって消えた。


 アーマースケルトンが倒れた所に宝箱が一つ現れた。


「やったーー! ユオ、見て! 宝箱出た!」


 メイは飛び上がって喜んだ。開けてみると中から黒いマントが出てきた。メイは【真実の瞳】を使ってアイテムの名前を見た。


「『静けさのマント』だって」


「着てみたら?」とユオが言うので、メイはさっとマントを羽織ってみた。


「あぁ、いいね。メイの存在が薄くなったみたいだ」


 どうやら認識阻害の効果があるらしく、メイの体がうっすら透けているように見えた。


「ユオも着てみる? しばらくユオが後衛なら、ユオが着てもいいんじゃない?」


 ユオは首を横に振った。


「これは、メイが手に入れた装備だからメイが使うべきだ」


 ユオはメイの頭を撫でた。


「ありがとう! 黒でかっこいいなぁと思ってたんだ!」


 メイはマントをいたく気に入ったらしく、羽織ってくるくるまわった。



 これで、またメイが目立たなくなった……



 言葉にはしなかったが、ユオも満足気であった。




「全部の道を見て歩いたから、時間がかかった。今日はここに野営しよう」


 そう言うとユオはメイに後ろから抱きついた。


「え、なに!」


 メイは不意打ちをくらって驚いた。


「二人パーティ最高…… メイを独り占めできるから」


 ユオはメイの首筋にキスをした。

 メイはじたばた暴れて、抵抗した。


「ちょっと、ユオ! 他の人が来たらどうするの!? さかりのついた猫じゃないんだから、やめなさい!」


 ユオは渋々メイから離れた。かなり不満そうな顔をしている。


 メイは身の危険を感じた。


 魔法カバンから、魔法陣を描く用のチョークを出して、メイは自分を囲う魔法陣を地面に描いた。


 ユオはメイの対応に愕然とした。


「そんなことしなくても……」


 メイが描いたのは自分以外が魔法陣の中に入れなくなる防御魔法陣だった。


 これで安心して眠れる。


 メイは地面に座り、魔法カバンから食料と飲物を出して食べた。

 ユオは少し怒った顔をしながら、魔法陣の隣で同じように食事を取った。

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