第70話 反対
「ただいま!」
「お母さま! お父さま!」
メイとソニヤは馬車が止まると迎えにきていたオルガとセヴェリの所へ走った。
ソニヤは勢いよくオルガに抱きついた。
「メイ、ソニヤ、おかえり。メイは卒業おめでとう。今年でトーヤを卒業するって手紙で聞いたときは驚いたよ」
セヴィリはメイの卒業を祝福してくれた。
「うん。クラスは元々飛び級してたから、卒業の単位は足りてたんだ。今年から冒険者やりたいから、卒業してきちゃった」
「メイは本当に優秀ね。嬉しいわ」
オルガもまるで自分のことのようにメイの卒業を喜んでくれた。
「私も、姉さまみたいに飛び級して早く卒業したいです!」
ソニヤは、自分もメイみたいになると意気込んで、拳を握った。
「ええと……メイ。後ろにいるのは誰か紹介してもらってもいいかな?」とセヴェリはメイの後ろを見ながら言った。
メイは、ばっと後ろを振り返るとユオが人型で立っていた。メイはユオは猫になって馬車から降りてくるものだと思っていたので目を見開いた。
「お父さま、ユオですよ。ユオは学校ではいつもあの姿なのです。姉さまとつ――」
メイはソニヤが余計なことを言う前に、寸前で口を塞いだ。
「え!? ユオって、あの黒猫のユオ?」
オルガが当然だがびっくりしている。変身できることや喋れることを一切伝えていなかったので、正常な反応だと思う。
ユオが一歩前に出て、ヴィーエラ一家に礼をした。
メイは嫌な予感がした。
「はじめましてではないですが……お久しぶりです。ユオです。
今日はご両親にお願いがあって、この姿で来ました」
「なにかな?」
セヴェリは腕を組み、怖い顔をしている。
メイは自分の血の気が引いていくのを感じた。
「メイさんを私にください!」
メイは頭を抱えた。
こやつはまたどうしてそういう大事なことを相談なくやってしまうんだ……
それ以前にプロポーズされてないぞ……
「メイは物ではないから、君にはあげられないかな。じゃあ、皆家に帰ろうか」
セヴィリは何もなかったことにしたいらしく、家族を連れてヴィーエラの馬車に乗った。
ユオは頭を下げたまま動けなくなっていた。
「あの……ユオは置いていくの?」
メイは、恐る恐るセヴェリに聞いた。
「あれは、最早ペットの猫ではないので我が家に連れ帰ることはできない。
メイ、詳しい話は馬車の中で聞かせてもらおうか」
「…………はい……」
無情にもヴィーエラの馬車はユオを残して走り去ってしまった。
「メイ、あれは何なんだ?」
セヴェリは珍しく怒っているようだった。
メイはいつもとは違う雰囲気のセヴェリに恐怖を感じ、体を小さくした。
「ええと……」
メイが口ごもっていると、困っている姉を助けようとソニヤがまた余計なことを言った。
「父さま、ユオは猫から人型に変身ができるのです。ユオは姉さまの事が大好きで、いつも一緒にいるんですよ」
「ほぉ………そうなのか、メイ?」
「あ、はい……そうです……」
オルガも気になるようで、メイに質問した。
「ユオは猫の方が本当のユオなの? それとも人型の方なの?」
「ええと……どちらが本物といいますか……どちらも本物なんですが……
生まれた時は人型だったと、ユオからは聞いてます………
彼は魔国出身の魔族なんです……
色々事情がありまして、森の家に住んでいた時は猫の姿でしかいられなかったのですが、時間とともに魔力が回復しまして、人型で過ごせるようになりました………」
「で、さっきのあれは……メイをくれと言っていたが?」
セヴェリは苦々しい顔をしながら聞いた。
「あの……冬くらいから付き合ってます……」
馬車の中が静まり返った。
「あの男はやめなさい」
「へ?」
セヴェリの言葉にメイは変な声が出た。
「メイには、他に合う相手をヴィーエラ家の伝手で探すからやめなさいと言っているんだ。
去年の夏休みにお祖母様に言われて、メイの歌を録音したのを覚えているかな?」
確かに去年の夏休み、祖母に頼まれて歌を録音していた。
「はい……」
「あの歌をお祖母様が勝手に録音魔石にして量産してね。メイの姿絵とセットにしたらかなり売れたんだよ」
「え!?」
メイは鳥肌がたった。
「それで、家に大量の見合いの申し込みが来ている。だからその中から、家族で相談していい相手を選びなさい。気に入る相手がいなければ、無理して結婚することはない。ずっっっとヴィーエラ家にいればいい。むしろその方がいいかもな。
あと、冒険者になることも私は反対だ」
「えぇぇぇ!?」
「当たり前だろ! 大事な娘に怪我をさせるかもしれない仕事をさせる親が何処にいる! 何か仕事がしたいなら、ヴィーエラの仕事を手伝うか、お祖母様が勧めるように歌手になりなさい。もう十分に売れて実力も証明されているのだから、それでいいじゃないか。なぜ、わざわざ冒険者なんか……」
「…………」
メイはかなりショックだった。いつも優しいセヴェリが全く違う人に見えた。
ユオのことも、冒険者になることも優しく受け止めてくれると思っていたが、メイの考えは甘かったらしい。
その後、馬車の中は重苦しい空気が流れた。メイの気持ちを察したのか、ソニヤはメイにぴったりくっついて離れなかった。




