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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第4章 高等部

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第67話 秘術【番外編】

「はぁ……何処にいらっしゃるのかしら……」


 キサはリュフトを探していた。




 先ほど、リュフトの思いを知ったキサは嬉しくて舞い上がり、どうやら少しやり過ぎてしまったらしい。




 キサがリュフトの手に頬ずりすると、ただでさえ赤いリュフトの顔が更に赤くなるのにキサは興奮した。


 キサはリュフトの手の親指を舌でぺろりと舐め、親指を軽くくわえた。


「キサ! それは駄目なやつだ!」


 リュフトは手を引っ込めてしまった。


「なぜです? リュフト様は私のことが好きなんですよね? 私、リュフト様と仲良くしたいです」


 リュフトはさっと立ち上がった。


「どこへ行かれるのですか?」


「厠だ。絶対についてきてはいけないからな!」


 そう言うとリュフトは逃げていってしまったのだ。


 キサはしばらく待ってみたのだが、リュフトは戻ってこなかった。



 仕方がないので、キサはリュフトを探すことにした。最近いつもリュフトが使っていた庭のすぐ前の部屋を覗いたが誰もいなかった。



 キサは一階から順番に全ての部屋をチェックすることにした。キサは鼠を探す猫の様にわくわくしていた。



 何かを追いかけるのがこんなに楽しいなんて知らなかった。


 キサは尻尾をふりふりさせながら、城を探索した。





* * *





 リュフトは自分の書斎の更に奥にある隠し部屋に逃げこんでいた。


「ふう………ここなら、見つからないか。ヨーツェン!」


「はい! なんでしょうか陛下!」


 ヨーツェンはすぐに現れた。


「今日はこの部屋で仕事をするから、書類を持ってきてくれ」


 ヨーツェンは久しぶりに仕事をする気になった魔王を見て喜んだ。


「承知致しました! 直ちに持って参ります!」


 ヨーツェンは先程のリュフトとキサのやり取りを見ていた。仲良く追いかけっこをしている様子を見て、大変満足していた。世継ぎができるのも時間の問題だと思った。そして魔王は仕事もしたいと言い出した。ヨーツェンは創世の女神とキサに感謝の祈りを捧げた。


 書類を持っていくと、魔王は黙々の目を通し、判を押していく。


 ヨーツェンは仕事に励む上司にお茶を入れていたが、窓の外から部屋の中を覗くキサに気が付き、食器を落として割った。


「き、キサ様!?」


 リュフトはびっくりして窓の方を振り返った。


「キサ! どうしてここが分かった!?

 というか、どうしてそんな所にいるんだ!? ここは4階だぞ!」


 リュフトは窓を開けて、キサを引っ張り上げようとしたが、キサは自分でひょいとジャンプして入ってきた。


「リュフト様見つけましたよ!」とキサは得意げにしている。


「どうやってこの部屋が分かった?」

 

「一階から全ての部屋を覗いたのですが、リュフト様が見当たらないので、窓を見たんです。四階の部屋の数より窓が多いなと思って登ってきたら正解でした」


 キサは笑顔で尻尾を振っている。


「壁はどうやって登ってきた?」


「私、登るのは得意なんです! ちょっとでも引っかかる所があれば登れますよ」


 流石は獣人の身体能力と言うべきか。リュフトは感心を通り越して、少し呆れている。


「それより、どうして逃げてしまわれたのですか?」


 キサはさっきリュフトが逃げ出したことに文句を言った。


「し、仕事がたまっていたからだ……」


 リュフトは苦しい言い訳をした。


「では、リュフト様とたっぷり仲良くできる休日を教えてください」


「魔王に休日はない……」


「でも休憩時間はありますよね? 教えてください」


「……」


 困っている魔王をヨーツェンは裏切った。


「ランチの時間にはいつも休憩をはさまれますよ」


 リュフトはヨーツェンを睨んだが、ヨーツェンは口笛を吹いて誤魔化した。


「では、昼餉の時間まで、他のことをして待っています」


 キサはリュフトに近づいた。


「なんだ?」


「なんだではありません! 大人しく待っていますので接吻してくださいませ!」


「なぜそんな事を!?」


「私の父は母にいつもしております!」


 リュフトはキサの父を恨んだ。



 いつまでも動かないキサを見てリュフトは諦めた。

 体を屈めて、キサの額にキスをした。



 キサは満足げに尻尾を振った。


「では、昼餉まで待っていますね。この部屋、出る時はどうすれば?」


 ヨーツェンが隠し扉を開けるとキサはスキップしながら出ていった。




 リュフトはぐったりと椅子に座り込み溜息をついて愚痴を言った。


「キサはどうしてしまったんだ?

 ついさっきまで、天使か妖精のように可愛かったのに、今ではサキュバスのようだぞ…… 誰があんな事教えたんだ……」


「サキュバス?」


 ヨーツェンはリュフトに聞き返した。


「そうだ。キサが………なんでもない……」


 リュフトはキサに親指を食べられた件を話そうとしたが思いとどまった。

 ヨーツェンは頭を傾げた。


「でも、嫌ではないのでしょう?」


「嫌ではないが……… 昼間からすることじゃないな。心臓に悪い」


「人型の生き物の求愛は難しいのですね。

 私たち鳥族の求愛はダンスですから、人型の生き物の求愛は分かりません」


 そう言うとヨーツェンはキビキビと踊り始めた。





* * *





 昼休憩の時間になったので、リュフトは重い腰をあげて庭に向かった。


 ガーデンテーブルには、今か今かとリュフトを待つキサがいた。


 二人は昼食を食べながら話をした。


「午前中のあれはどこで覚えてきたんだ?」とリュフトは眉間に皺を寄せながら聞く。

 キサは何のことを言っているのか分からないようで首を傾げた。


「…………手のやつだ……」


 リュフトは顔を赤らめながら付け足した。


「あぁ、あれですね。あれは里のオババが年頃になると教えてくれる秘術の一つです」


 獣人の里にはとんでもないことを教えている年寄りがいるらしい。


「秘術?」


「そうです。他の種族では閨は殿方にお任せするといった教えもあるようですが」


 リュフトは飲んでいたお茶を吹き出し、むせた。


「すまない……つづけてくれ……」


「獣人はお任せではいけないと教えられています。女子も男子もです。

 なので、秘術の書を使ってオババが教えてくれるのです。

 私も子どもができて成長したら教えなければと思って、秘術の書を持ち歩いております」


「ちょっと見せてみなさい」


 キサはアイテムボックスから秘術の書を取り出してリュフトに渡した。


 リュフトは眉間にしわを寄せながら、パラパラと中身を見たが、やはりとんでもないことが書かれていた。

 リュフトは炎の魔法で秘術の書を消し炭にした。


「あ! 秘術の書が!!」


「こんなもの子どもに教えなくていい」


「えぇ、でも――」


「教えなくていい」


「……はい」


 キサは不満そうに耳を下げた。



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