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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第4章 高等部

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第65話 考える人【番外編】

「キサ様、おはようございます」


 キサの耳元で煩い声がした。キサは耳をパタパタさせ、耳元にいる生き物を追い払ったが、今度は耳をツンツンとつつかれた。

 ムクリとキサが顔を上げると、窓から日の光が差し込み、部屋は明るくなっていた。

 昨日は泣きつかれていつの間にか寝てしまっていたらしい。

 キサを起こした生き物は、昨日魔王が連れて歩いていた白い鳥だった。


「お目覚めですか?

 はじめまして、ヨーツェンと申します。陛下の忠実な部下の一羽です。

 あぁ、目が腫れてしまっていますね。今、冷やすものをご用意致しますね」


 ヨーツェンはアイテムボックスからガラスでできた洗面器を取り出し、中に氷魔法と水魔法で作った氷水を入れた。小さなタオルを洗面器に入れ、魔法を使い丁寧に搾った冷たいタオルをキサに渡してくれた。


「ありがとう……」


 キサは冷たいタオルで目を冷やし、顔をふいた。目がスッキリし、気持ちが良かった。キサは親切にしてくれたヨーツェンに笑顔でお礼を言った。


「体をふいたり、着替えをしたいですよね?

 今、妻のピルビと交代しますので、お待ちください」


 そう言うとヨーツェンは宙に空いた黒い穴に吸い込まれて消えた。

 しばらくするとコンコンと扉を叩く音が聞こえ、キサが「どうぞ」と返事を返すと扉に空いていた小さな覗き窓から、一羽の白い鳥が入ってきた。


「ヨーツェンの妻のピルビと申します。キサ様の身の回りのお世話を担当させていただきます。よろしくお願いしますわ」


 白い鳥は翼を広げて、丁寧にお辞儀した。見た目はさっきのヨーツェンとほぼ変わらなかったが、声がピルビの方が高く、上品で聞き取りやすかった。


「キサです。分からないことが多いので、色々教えてください。夫婦で同じ職場で働いているなんて、仲がいいんですね」


「私たち夫婦は、この城で働いていて出会って結婚したのですよ」


「わぁ! すてき! いいな……」


 恋愛結婚に憧れていたキサはヨーツェンとピルビの馴れ初めが羨ましくて仕方なかった。


「何を言いますか! キサ様にも陛下という素敵な伴侶がおられるではありませんか!」


 ピルビはキサの様子に驚いているようだ。


「あ………そうですね………」


 ピルビは少し曇ったキサの顔を不思議そうに眺めていた。



「あら、やだ! こうしちゃいられませんわ!

 陛下が朝食を一緒にとキサ様のことを呼んでいるのでしたわ! 急いで準備しませんと」


「え?」


 魔王がキサのことを呼んでいると聞いて、キサは益々表情が曇った。キサの顔を見て、ピルビは励ました。


「キサ様、大丈夫でございます。陛下は顔が怖いのと態度がデカいだけで、中身は優しい方ですから。頭から食べられる様なことは決してありませんからご安心ください!」


 ピルビはせっせとキサの服を脱がせて、濡れたタオルでキビキビと全身をきれいにふいた。

 ピルビはアイテムボックスから美しい白のワンピースを出してキサに着せた。

 首元が深めのVネックになっていて、ノースリーブ、スカートはストンと落ちたシンプルな形のワンピースだったが、透け感のある生地が上品でとても着心地が良かった。


「あぁ……やっぱり私の見立てに間違いはなかったわ……

 このワンピースがキサ様に絶対似合うと思って用意しましたのよ」


「ありがとう。着心地もいいし、楽で気に入りました」


 キサは笑顔でピルビに礼を言った。


「いえいえ、美しい方に美しい服を着て頂くのは私の趣味のような物ですから、礼には及びませんよ。

 さぁ、髪も結って差し上げます。ドレッサーの椅子に座ってくださいませ」





* * *





 準備の終わったキサはピルビの案内で、昨日城に入ってすぐに見た庭へと連れてこられた。魔王城は何処も黒色が多いが、ここだけは緑や花があり、キサは故郷を思い出して落ち着いた。

 庭にあるガーデンテーブルの席に魔王はすでに待っていた。足を組んで座り、何かの報告書の様な紙に目を通していた。肩にはヨーツェンがとまり、一緒に報告書を読んでいるようだ。


 ピルビが陛下に声をかけた。


「陛下、お待たせして申し訳ありません。キサ様を連れてまいりました」


 キサはカーテシーをして、魔王に挨拶をした。


「陛下、朝食の席に御招きいただきありがとうございます」


 魔王はキサに気を取られて、手に持っていた報告書をバサバサと落とした。

 キサは礼をしていたので、状況がよくわからなかったが気になって耳だけピコピコ動かした。


 魔王はキサの動く耳もツボだったらしく、眉間に手を当てて考える人のポーズをした。


 魔王の肩にとまったヨーツェンが魔王の頭をつついた。


「陛下! キサ様が礼をしたままで苦しそうです」


「あぁ、そうだな……

 楽にしてくれ。こちらへ」


 魔王は立ち上がり、キサの座る椅子を引いた。

 キサはちらっと魔王を見て、「ありがとうございます……」と小さな声で礼を言った。

 その間、魔王はそっぽを向いて眉間にしわを寄せていた。


 キサは魔王が本当に自分の事が嫌いなのだと感じ、耳と尻尾を下げたが、当の魔王はかわいいキサを直視できないだけなのであった。


 キサが座るとすぐに朝食が運ばれてきて、魔王とキサは静かに朝食を食べた。その間、ヨーツェンは魔王の頭をつんつんつついて何かを催促していたが、魔王が動くことはなかった。


「陛下……お願いがあるのですが……」


 朝食を食べ終わったキサが重い口を開いた。


「ああ、なんでも言いなさい」


 魔王は少し食い気味で返事をした。


「この庭がとても気に入りました。たまに遊びに来ても構いませんか?」


 キサはここでなら、少し落ち着いて過ごせるような気がしたのだ。


「たまにと言わず、好きな時に来なさい。

 この城の全ては、もうあなたの物なのだから」


 キサは耳を立てて、尻尾を振って喜んだ。


「あぁ、ありがとうございます、陛下! 早速探検してきます!」


 キサは走り出し、庭の探索に繰り出した。

 魔王は又しても考える人のポーズをしている。


「ヨーツェン………

 庭が見える客間を私の仕事部屋にしたい」


「え? 陛下の書斎の物を全て移動するということですか? それはちょっと、め――」


 面倒な……と言う前にヨーツェンは言葉を止めた。

 魔王が恐ろしい僥倖でヨーツェンを睨んでいたからだ。


「あぁ……可能な限り早くやります……」


「頼んだぞ………

 それまで、私は動けそうにない……」


 キサが捕まえたテントウムシを指に乗せて遊んでいる姿から、魔王は目が離せなかった。


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