第64話 魔王【番外編】
「はぁ……」
魔王は自室にある一人掛けのソファに沈むように座った。近くにある水晶玉を覗くと、北の塔の上に置いてきたキサが映っていた。キサはベッドに顔を埋め泣いているようだ。魔王はその姿を見て眉間にしわを寄せた。
魔王は怒りのこもった大声で、ヨーツェンを呼んだ。
「ヨーツェン! 早く来い!」
「はい、只今!!」
ヨーツェンは魔王が怖いのか、弾丸のようなスピードで飛んできた。
「これはどういうことだ」
「陛下、どういうこと――と言いますと?」
「あの娘だ。なぜ泣いている」
ヨーツェンは魔王が座っているソファとは反対側のソファの肘掛けの上にとまって水晶玉を覗きこんだ。
「私に嫁いでくる者は喜んで嫁いでくるものだと思っていた……」
魔王は今度は落ち込んでいるようだ。
ヨーツェンは困ったように首を傾げる。
「あぁ……本当ですね。泣いておられる……
そうですね……どうしてでしょう……」
「まさか、あの娘、想い人がいる訳ではなかろうな」
魔王はヨーツェンを鋭利な眼光で睨むので、ヨーツェンはブルッと震えた。
「まさか! 獣人の族長は真綿にくるんで大事に育てた娘だと言っていましたから、そのような事はないはずです」
「じゃあ、なんで泣いているんだ!
だいたい……あの娘にしようと言い出したのはお前だろ?」
ヨーツェンは驚いたように羽を逆立てた。
「何をおっしゃいますか! 候補の娘たちの姿絵を見せた時に、キサ様の姿絵だけ離さなかったのは陛下ではありませんか!
私はあなたがお小さい頃から仕えているので分かります!
陛下は素直じゃありませんから、私が陛下の考えを代弁してあげたのです!
あなたはキサ様が一番良いと態度で示しておられました!」
「しかし、結果はこうだ! どうしてこんな事に……」
魔王は頭を抱えた。
ヨーツェンは頭を左右に行ったり来たり傾げながら答えた。
「たぶん……あれです。ホームシックというやつではないでしょうか?
獣人は情にあつい者たちです。きっと急に家族と別れることになったのが寂しいのでしょう……
お可哀そうに、キサさま……」
魔王は再びヨーツェンを睨んだ。
ヨーツェンは魔王に恐れをなして、後ろに飛んでソファの背もたれにとまった。
「陛下、逆に考えてください! これはチャンスです!」
「チャンス?」
「そうです! 家族との別れで傷ついておられるキサ様を陛下が優しく慰めるのです!
そうすることで、二人の距離も自然と縮まり……」
ヨーツェンは嘴の先を尖らせて、ちゅう口をしながら魔王に近づいてきた。
魔王はヨーツェンを鬱陶しそうに手で追い払った。
魔王はキサが自分に心を開き微笑む姿を想像した。
あの美しい髪を撫でたい。ピンと立った耳をくすぐってみたい。
いつの間にかキサと仲睦まじくする自分を想像していた魔王はぶんぶんと首を振って幻想を振り払った。
「分かった……明日は慰めてみる……」
「陛下、優しくですよ。優しく。陛下は顔が怖いから」
ヨーツェンはまた余計なことを言って魔王に睨まれた。




