第57話 ダンスレッスン
ユウが学校からいなくなり、先生たちから何か事情を聞かれたりするのかとメイ達は予想していたが、そんな事にはならなかった。
次の日のホームルームで三角帽子先生が「急ではありますが、ユウ・アンテアンさんのご家族から、退学の申請が届きました」とだけ説明があっただけだったので、拍子抜けだ。
ユウやあの子竜がどうなったのか、謎は残るが、ひとまずこれで一段落と考えて良いのだろう。
ただメイはユウが最後に言っていた言葉が頭にこびりついて離れなかった。
きっと、また何処かで対決することになるのだろう。今回は運よく生き延びることができたが、このままでは駄目なのだと、メイは強く心に刻んだのだった。
季節は冬になり、トーヤにも雪が振り始めた。校舎の周りにも雪がつもり、初等部の生徒たちが雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり、平和な日常が流れていた。
メイは食堂から、可愛い妹が中庭で友達と雪遊びをしている姿を眺めていた。
「メイ――メイ! 聞いていますの?」
ティナがメイに話しかけていた。
「ごめん。ソニヤが可愛すぎて、上の空だったよ。何の話?」
「だから、高等部のダンスパーティーのドレスは用意したのかと聞いているのです!」
「へ? ダンスパーティーって何?」
メイが間の抜けた顔で聞き返すので、ティナは呆れた。
「はぁ……そんなことだろうと思っていましたわ……
高等部はいつも十二月の始めにダンスパーティーがありますのよ。私達は初めての参加ですから、メイが分かっているか気になったのですけど、案の定分かっていませんでしたのね。
あと、一ヶ月しかありませんから、急いで実家に手紙を出してドレスを用意してもらいなさいな」
「それって……全員参加のやつ?」
「全員参加です!」
「そ、そうなんだ……」
目立つのが嫌いなメイは憂鬱だった。そもそもダンスなど踊ったことがない。
メイの気持ちを察したのか、ティナが色々と教えてくれた。
「これから、一ヶ月はホームルームの授業でダンスの練習がありますから、安心なさい。
メイがしなければいけないことは、ドレスを用意することと、パートナーを見つけること! この二つですわよ!
あと、メイはユオ様ファンクラブの定例会に参加していないので教えておきますが、ファンクラブ会員が自らユオ様をパートナーにお誘いするのは、会則違反ですわよ」
「え? ユオにお願いしようと思ったのに!」
メイは宛が外れた。
「駄目です。ユオ様が自ら会員をご指名された時にのみ、お答えして良いこととなっています。
大勢でユオ様に申し込みをしては、ご迷惑をお掛けしてしまいますから」
「なるほど……確かに、そうだね」
メイは入った記憶のないファンクラブではあったが、ユウとの決戦でファンクラブに命を救われて以来、会員ではないと否定しなくなっていた。
「ティナはドレスどんなのにするの? もう準備できてる?」
「もちろんですわ! 私の部屋にありますので、良ければ今晩見に来ます?」
「見たい!見たい!」
* * *
ティナの言っていた通り、午前中のホームルームはみっちりダンスレッスンが詰まっていた。
三角帽子先生がダンスも教えてくれるようだ。
「では、一ヶ月後に迫った高等部ダンスパーティーに向けて練習していきましょう。
先ずはお手本を見せます。ランデン嬢、パートナーをお願いできますか?」
「もちろんですわ、先生」
三角帽子先生とティナは組み合った。
「先ずは、このホールドという姿勢が大事です。肩に力が入ってしまうと、首が短くなってしまって美しくありません。
お互いの力を上手に利用してホールドをキープすることが大切です。
では、近くの生徒と適当にペアを作ってやってみてください」
三角帽子先生がそう言うと、クラスの生徒はぞろぞろと立ち上がりペアを作り始めた。
ユオからメイに声をかけてくれた。
「メイ、こっち来て」
「オッケー、まかせろ」
メイはユオとホールドの姿勢をとった。
ユオってこんなに腕に筋肉ついてたっけ?
メイは久しぶりにさわるユオにそんな事を考えていた。
ユオは相変わらず、メイに触られるのが嫌なのか、顔をしかめてそっぽを向いていた。
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