第56話 対決
「ユウ、話があるんだけどちょっといいかな?」
報告会議で決めた通り、メイは放課後に校庭にいたユウに話しかけた。
ユウはニコリと不気味に笑う。
「メイ……ちょうど良かったわ……
私もメイに話があったの……
ここだと人目が気になるから、向こうに行きましょう」
ユウに連れられてメイは人目のない校庭の端の方まで移動する。
人のいないところまで来ると、ユウは長い黒髪の毛先を指でくるくるしながら話し始めた。
「ねぇ…… 最近、リンド様もユオくんも見当たらないんだけど……
メイ、何かしたでしょ……」
ユウは眉をぴくぴくさせながらメイを睨みつけた。
相当苛ついているらしい。
「そうだよ。ユウは自分勝手にリンド先輩を付け回すから、隠れてもらったんだ。ユオもユウの事が苦手だから同じようにしたよ」
メイはユウのことが怖かったが、勇気を振り絞った。
「調子のんなよ、モブが!! 私のイベント邪魔すんなよ!!」
ユウは怒鳴り散らすので、メイは体がびくびくしたが目はそらさなかった。
「ねぇ、ユウ。聞きたいことがあるんだけど、あなたって以前アルトっていう冒険者と結婚した優香? あと、魔王とも結婚した優香なの?」
メイがじっとユウを見ると、ユウは鼻で笑った。
「ふん……メイはモブだから、教えてあげる。
そうよ! アルトと結婚したのも魔王と結婚したのも私! 私は神に選ばれた聖女なの!」
メイが予想した通り、ユウは優香だった。
「じゃあ……私のことも覚えてないの? あなたの娘のこと…… 覚えてない?」
メイは被っていたフードを脱いた。美しい金色の髪が校庭の風でそよぎ、夕日を受けて輝いていた。
メイはユウが自分の顔を見たら驚くかと思っていたが、ユウは一切表情を変えることはなかった。
「もしかして、あなたアルトとの間に生まれた子ども?」
「そうだよ」
「なんだぁ、じゃあやっぱりモブじゃない。私にとっては、自分と攻略対象以外は皆モブ。私には関係ない脇役だよ!」
ユウの物言いにメイは胸が締め付けられた。
ユウがメイのことを自分の娘だと気がついたら、少しは落ち着いて話を聞いてくれるのではないかと期待していたからだ。
この女は、私に一切の情がないんだ……
メイは泣きそうになるのを我慢し、顔をゆがませた。
ユウはメイの歪んだ顔見て、少し笑顔になる。
「あれれ、もしかしてショックだった? ママと感動の再会になるとでも思ってた?
あははは!うける! 子どものこと考えてたら、子どもを捨てて他の男の所に行くわけないじゃん!
ほんと、そういう能天気なところ、アルトにそっくり」
メイは悲しさと悔しさで目から涙があふれた。
「もう止めろ!」
【隠れ身のミサンガ】で姿が見えていなかっただけで、ユオとリンドとウィルもそこにいた。ユオが声を出したのでミサンガの効果が切れてしまったらしい。
ユオは怒りで肩を震わせている。
「あ! ユオくんとリンド様、みぃつけた! そんな所に隠れていたの? 探したんだよ」
ユウはユオに可愛らしくウィンクする。
「お前、さっきメイのこと覚えていないと言ったな。じゃあ、もちろん私の事も覚えていないんだよな? 私はお前が力を奪って転移させた、魔王の息子だ!」
ユウは今度はわざとらしく両手を口に当てて驚いた顔をした。
「えぇ! あの時の子どもがユオくんなの!?
そっかぁ、こんなにかっこよくなるんだったら、大事に育てれば良かったな。しっぱい、しっぱい」
ユウは自分の拳をこつんと額に当てて、舌を出している。ユウの罪悪感を一つも感じていない態度にユオは更に怒った。
「誰が、お前なんかに育てられてたまるか!! 私はお前に復讐する為に今まで生きてきたんだ!!」
ユオはいつものように剣を出し、剣に炎を付与した。剣からは大きな炎が上がり、ユオの怒りの大きさを表しているかのようだった。
ユオは一気にユウまでの距離を詰めて、斬りかかった。
ユウは余裕の表情で、シールドを張りユオの剣を受け止めた。ユオは力でシールドを破ろうとするが鍔迫り合いの様な状態で、どちらも引かない。
「ふふ、隙あり」
ユウは一瞬の隙を見て、ユオの唇にキスをした。
ユオは口を押さえて後ろへと下がった。
「あははは、おもしろい……その程度の力じゃ手も足も出ないよ。
あれ、もしかしてファーストキスだった? かわいいね」
ユオはショックと不快さで口を拭った。
毎年夏休みには一人でダンジョンにもぐり、レベル上げをしていたのに、ユウとの力の差に愕然とした。
メイとリンドとウィルも驚いた。パーティで間違いなく一番強いユオが戦闘中に遊ばれているのだ。ユウが自分たちでは敵わない存在であることを悟ってしまった。
「そっかぁ……皆、私の過去を知ってるなら、ユオくんもリンド様も攻略は難しいかな……
ま、でも全然いいよ。この世界、イケメンも王子様も沢山いるから、また時間を開けて再挑戦だね。
じゃ、色々知っちゃった人たちはリセットさせてね」
そう言うとユウは自分の手の上に黒く大きな炎の玉を作り始めた。5mくらいの巨大な大きさになった火球をユオ目掛けて投げた。
「危ない!!」
メイは体が勝手に動いていた。
ユオと火球の間に入り、盾になったのだ。
メイは火球が当たったと思い、ぎゅっと目を閉じたが、それは起こらなかった。代わりにユウの悲鳴が校庭に響いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
メイの胸ポケットについていた【守護のブローチ】が割れてなくなった。
ユウが黒い炎に包まれて、地面を転がっている。
「仕方がないね」
子どものような声がそう言った気がした。
ユウを包んでいた炎が消え、何処からともなくひらりとマントが1枚ユウの上に被さった。
マントの上に一匹の黒い子竜が、瞬きする間に現れた。
「僕の聖女さまをいじめないでもらっていいですか」
子竜はメイ達に明るい調子でそう言った。
状況が掴めず、あたふたしているうちに、ユウがマントを羽織ってムクリと起き上がる。
「メイ……お前のこと、まじで許さないから……覚悟しとけよ……」
ユウはそう言い残すと、ユウの周りが光出した。
「転移魔法だ! 逃がすか!」
ユオはユウに追撃しようと走ったが、間に合わず――ユウと子竜は忽然と姿を消してしまった。




