第54話 迷路
情報収集とミサンガ作りをファンクラブに任せたメイたちは、昼休みにウィルも誘い、作戦会議をする場所は何処がいいか相談していた。気配もなく現れるユウに絶対に聞かれたくなかったからだ。
こればっかりは、図書館の先生にも相談できない。
「ウィル、なんかいい場所知らない?」とメイはウィルに聞いてみた。
「前に魔法科の先輩が校舎横の庭園に使われてない東屋があるって話をしてたの聞いたことあるな。でも見たことないから、でまかせかもしれないけど……」
「え? あの迷路みたいになってる庭の所? あそこ、ちょっとのぞいたことあるけど、迷子になりそうで入ったことないんだよね」とメイはそこを見かけた時のことを思い浮かべながら話した。
「よし、じゃあ放課後4人で行ってみるか。僕達に見つけにくいってことは、他の人にも見つけにくいだろうから」とリンドが言った。
メイとユオとウィルは頷いた。
* * *
「ここだね……」
メイたち一行は放課後に庭園を訪れていた。バラやユキヤナギが迷路の壁の様に植えられていて、庭園の奥がどうなっているのか見えない。ユオを先頭にバラのアーチをくぐって庭に入った。
入ってすぐにユキヤナギの壁があり、道は左右に分かれていた。
「どっちに進む?」とメイ。
「迷路には、一般的に攻略法があるって言われてるんだ。片手を壁について進めば、必ずゴールに辿り着けるんだよ」
流石はウィル、博識である――とメイはウィルの回答に感心する。
「でも、それだと遠回りになるんじゃない?」とリンド。
「そうだね……いつかは辿り着けるだろうけど、この庭がどのくらいの広さがあるのかも、ここからは分からないから、下手したらかなり時間がかかってしまうかもね」とウィルも眼鏡を触りながら考えた。
「面倒だな。上から案内させよう。ヨーツェン」
ユオが名前を呼ぶと空中にぽっかりと黒い穴があき、小さな白鳥の様な生き物が飛び出してきた。
ヨーツェンは呼ばれることを予期していなかったらしく、長い首を背中に乗せて寝ているところだった。急に宙に放り出された、その生き物はなすすべなく地面にバタリと落ちた。
メイとリンドとウィルも、ユオがそんなものを呼び出すのを初めてみたので、ぎょっと後ろに下がる。
「痛い! もう、ユオ様! 急に呼ばない約束でしたよね!」
ヨーツェンは地面でユオの靴をつついて怒っている。
「ヨーツェン、いいから早くしてくれ。この迷路の中にある東屋に行きたい。案内してくれ」
「もう! あなたって人は鳥使いが荒いんだから!」
そう言うとヨーツェンは上空から東屋を探すために飛び立った。
「さっきの生き物なに?」
メイがユオに聞く。メイはユオがあんなものを呼び出すのを初めて見たので呆気にとられている。
「あれはヨーツェンだ。魔国にいた時に私の世話係をしていた魔獣だ。呼べばすぐ来る便利なやつだよ」
その言い方は可哀想ではないかとメイは思ったが、ツッコまなかった。
しばらくすると、上空からヨーツェンがパタパタ翼をはためかせながら戻ってきた。
「ユオ様、迷路の中央に東屋がございました。ご案内致します。ついてきてください」
一行はヨーツェンの案内で迷路の中を進んだ。ウィルが帰り道が分からなくならない様に、所々に葉っぱの色を変える魔法をかけてくれた。迷路はかなり広く、目的地の東屋に辿り着くまでに十分はかかった。
東屋の周りは白いバラが咲き乱れていて美しかった。
「わぁ! きれいだね!」
メイはこの場所が気に入った。迷路を進まないと辿り着けない感じも特別感があっていい。
ヨーツェンがメイの頭の上とまって羽を休めた。
「東屋の奥側の道からも先ほど入ってきた出口に出られます。二つの道は交わっていませんでした」とヨーツェン。
「じゃあ、両方の道に感知魔法でも仕掛けておけば、どちらかから人が来た時に反対から逃げられるね」とメイ。
「そうなりますね。してきましょうか?」
メイはヨーツェンの提案に目を輝かせて喜んだ。
「ありがとう! 是非お願いしたい!」
ヨーツェンはパタパタと飛び立ち、しばらくして戻ってきた。嘴には二つのベルを加えている。ヨーツェンはメイの腕にとまり、ベルをメイに渡した。
「手前の道に人が入るとこちらの赤いベルが、奥側の道に入ると青いベルがなります」
「すごい! ありがとう!」
メイは腕にとまっているヨーツェンを撫でた。ヨーツェンは気持ち良さそうにしている。
ムスッとしたユオがメイの腕にとまるヨーツェンをもぎ取った。
「ぎゃ! 何をするのですか? 私はこの優しいお嬢さんとの交流を楽しんでいたのに!」
「もう用はないから帰れ」
宙に空いた黒い穴にユオはヨーツェンを押し込んだ。穴の中から、ヨーツェンの叫び声が聞こえたが、黒い穴は無情にも閉じてしまった。
「ふわふわで気持ちよかったのに……」
メイも名残惜しそうにしていたが、ユオがキッとメイを睨んだので、メイはふわふわを諦めた。
「とにかく、これで秘密の会議場は確保できたね」
すこし険悪な雰囲気のメイとユオの間にリンドが割って入って、話をまとめた。
こうして一行は秘密の相談場所を確保することに成功したのだった。




