第53話 ユオが語る真実
「メイ! あの女が言っていた話ってなんのことだ?!」
ユウがいなくなったのを見計らって、ユオがすぐにメイに聞いた。
「……ちょっと場所を移そう」
メイは食堂で話をすると他の人に聞かれてしますので場所を変えることにした。ユオとリンドを連れて人気のない中庭の噴水まで移動する。
「見てもらった方が早いから【記憶の水鏡】っていうスキルで過去の映像を見せるね」
メイは噴水の水の中に【記憶の水鏡】を使って、昨日の出来事とアルトと優香の映像も二人に見せた。
「……アルトっていうのは、私のお父さんで、優香は私のお母さんなの」
映像を見たリンドは顔の血の気が引いて青い顔をしている。
「おいおい……ユウとメイのお母さん、瓜二つじゃないか…… どういうことだ? おんなじ人ってことか?」
「私は、そうなんじゃないかと思ってる…… 年のこととか、分からないことが多いんだけど……」
メイとリンドが腕を組んで考えこんでいると、ユオが重い口を開いた。
「メイ、リンド……実は私も黙っていたことがあるんだ……」
ユオは眉間にしわを寄せて、苦しそうな顔をしながら打ち明けた。
「私も【記憶の水鏡】を使ったほうが早いから、見てほしい」
ユオはそう言うと、噴水の水をかき回した。ゆらゆらと映像が映り始めた。
* * *
「父さま!母さま!」
五歳くらいだろうか。小さなユオが走って、父と母に抱きついた。ユオの頭には猫のような耳が生えていて、尻尾まで生えている。まるで、その姿はいつもの人型のユオと猫のユオを足して二で割ったそうな姿だった。
ユオが抱きついたうちの一人は黒髪で頭にヤギのような角を生やした男性で、もう一人は白くて長い髪を後ろで美しく結ってある女性だった。頭には猫耳、腰からは長いふわふわの尻尾が生えている。ユオと同じ輝く金色の目を細めて笑っている。
「この角……ユオって、もしかして魔族なのか?」とリンドがユオに聞くと、ユオはゆっくり頷く。
「私の父は、魔王と呼ばれ、魔国を統べる王だった」
メイとリンドはユオの告白に驚いた。
ということは、ユオは魔王の子どもということ……?
メイは驚いたが、同時に納得もしていた。ユオはとても博識で、剣や魔法がとても上手かったのには、そういうことが関係しているのかもしれないと思ったのだ。
水鏡が揺らめいて、次の場面を映し出していた。
メイは目を大きく見開いた。
そこに映っていた、間違いなく自分の母親の優香だった。
魔王が優香の肩を抱いて、ユオの母とユオの前に立っていた。優香は満面の笑みでそこにいた。
メイはいてもたってもいられず、ユオに聞いてしまった。
「どうして優香がここにいるの!?」
「魔王が、聖女を側室に迎え入れると言って連れてきたんだ。
私と母さまは反対したんだけど、代々の魔王は沢山の種族や職業の女を妻にして繁栄してきた習わしがあるからと言って、聞いてくれなくて……」
ユオは【記憶の水鏡】を消して、その後は見せてくれなかった。
「あの女が、私の力を奪って、私を魔国の外へ転移させたんだ。
フィンド王都の郊外に飛ばされた私は、あの女と似た気配のするメイの所に現れたんだ。
最初は良いように利用してやろうと思って近づいたんだ……メイ……悪かった……」
ユオは顔を顰めながらメイに謝ってくれた。
「ううん、気にしないよ。最初はどんな理由であれ、私はユオに沢山助けてもらったから…… 今も嫌な気持ちで一緒にいるんじゃないんだよね?」
メイの問いにユオはしっかりと頷く。
「なら、全然大丈夫だよ。
むしろ、私のお母さんが勝手なことして、ユオに嫌な思いさせて、ごめんなさい……」
メイはユオの手を取り握手した。
「それこそ、メイのせいなんかじゃない。私は今はメイが大切な存在なんだ。これからも一緒にいたい」
メイとユオは互いに笑顔で見つめあって頷いた。
リンドが話を戻した。
「で、あの聖女は一体何者なんだ!?
こんなに長い期間、見た目が変わらないなんておかしい! 魔族だって、普通の人より寿命は長いけど年は取るぞ!
それこそ、さっきの【記憶の水鏡】とかいうやつで調べられないのか?!」
「私もやった事はあるが、できなかった」
ユオは再び、噴水の水に手を入れて掻き回したが、何も映されることがなかった。
「どうして、見ることができないの?」とメイが聞く。
ユオは首を横に振った。
「分からない……でも、神と同等の権利を持つものが制限をかけているとしか思えない。このスキルはそういうものだから」
一知半解で、なかなか議論が進まなかった。
分かったことも多いが、より謎が深まってしまった気もする。
「私、ユウを止める…… 好き勝手してたら、また不幸になる人が増えちゃうかもしれない」
「止めるって…… 一体どうするんだ?」とリンド。
メイは腕を組んで頭を悩ませた。
「ユウが人間なのか調べたい。もし、魔物か何かなら、乱暴だけど討伐するって方法もあると思うんだ。先ずは、ユウのこと、徹底的に調べてみよう」
メイの決意にユオとリンドは頷き、協力することを二人とも誓った。
メイは二人の申し出に胸の中が暖かくなるのを感じた。
「よし!そうと決まれば、協力者を集めよう!」とリンド。顔が生き生きとして、なんだか少し楽しそうだ。
「他の人に危険がないか心配だけど……」とメイはリンドに聞く。
「だけど、四六時中、僕達だけで見張るには無理がある。協力者は多いほどいいと思うけどな。メイが作ってくれたミサンガも分担して皆で作れば増産できるだろ?」
リンドの意見にも一理あるとメイは感じた。
「確かに、三人だけだと、限界があるかもしれないですね……
見張ったり、情報収集だけなら人数がいてもいいかも。
ウィルとか誘ってみたら、きっと力になってくれるんじゃないかな?」
ユオとリンドは頷いた。メイと同意見のようだった。
「他は誰がいいかな」と一同で考え込んでいると、急に後ろから声がした。
「話は全部聞かせてもらいましたわ!」
メイたちが振り返ると、そこにはティナとアイニとエイネが腕を組んで立っていた。
「ティ、ティナ!? それに、アイニとエイネも!」
「私達も、微力ながら力になりますわ。
ユオ様もお困りのようですし、ユオ様ファンクラブ会長として放ってはおけませんわ。もちろん友人でファンクラブNo.4のメイのこともです」
メイはそんなファンクラブに入った記憶はない。
ユオとリンドがメイを見たが、メイは事実無根であるとぶんぶん首を横に振った。
「私達ユオ様ファンクラブ会員は、皆メイのことを尊敬していますのよ。こんなに美しいユオ様が近くにいるのに、適度な距離を保ち、黒子に徹する姿は本当に素晴らしいですわ……」
メイは、他の女子の敵意が怖いのと、純粋にユオが嫌がると思って近づきすぎないようにしていただけなのだが、ファンクラブ会員からはその態度が高評価だったらしい。
「だから、私達が名誉会員No.の4番にメイを任命したのです。
ちなみに、No.1が私、No.2がアイニ、No.3がエイネですわ」
「あ、そうなんだ……」
メイは若干ティナの勢いに押されている。
「私の人脈を使って、リンド様ファンクラブにも声をかけてみますわ。彼女たちも聖女の身勝手な振る舞いにかなり怒っていましたから。
ユオ様ファンクラブとリンド様ファンクラブ、総勢約100名の力を合わせれば、聖女の情報収集など朝飯前ですわ」
そ、そんなにいるのか……
メイはファンクラブが想像以上に大きな組織だったことに恐怖した。
ユオとリンドも同じ考えのようで、少し震えている。
「情報収集とミサンガ作りは、私達の数の力と財力にお任せください」とティナは誇らしげに胸を張って笑った。




