第51話 聖女と王子とメイ
「まいったよ……勘弁してほしいな……」
ランチタイムに中庭の木陰の席に座っていたメイとユオの向いの席にドカッと腰掛けたリンドはそう呟いた。
「先輩、どうかしたんですか?」
リンドのただならぬ様子を心配してメイが声をかけると、リンドは何かに隠れるように小声で返事した。
「あの聖女様だよ…… 付きまとわれて困ってるんだ……」
メイとユオは納得した。確かに最近ユウはリンドの金魚の糞の様になってついて回っていた。
「聖女様、先輩のこと好きなんじゃないですか?」とメイ。
リンドは深くため息をつく。
「別に好きになるなって言ってるんじゃないんだよ。一応、僕も王子の端くれだし、見た目が良いことも自覚している。好きになってしまうのは、女子の本能として仕方がないと思うんだ」
「その言い方は鼻につくな」とユオ。
リンドはユオの反応に軽く声を出して笑う。
「ごめん、調子のった。で、話を戻すけど、他の女子は付きまとったら迷惑だって分かってくれてるから、皆遠巻きに見るだけなんだけど、聖女様は元平民のせいか、その辺の線引きが分からないらしくて困ってるんだ。僕のこと見つけたら、ずっとついてきてしまって……」
「モテる男は大変ですねぇ」
メイは何処か他人事のような返事をした。
「真面目に聞いてくれよ! 本当に困ってるんだ! もし、聖女様と僕が付き合ってるなんて噂でも流れたら国政に影響が出るかもしれないんだ。貴族同士の派閥問題もあるし、次の王位継承にも絡んでくるかもしれない。
僕たち兄弟の中では、長男のクルト兄さんが王位を継ぐことで意見が一致してるんだ。波風立てたくないんだよ……
貴族の女の子たちは、その辺りの事情をちゃんと分かってくれてるんだけどな……」
リンドのファンの女子たちが、リンドに話しかけないのを不思議に思っていたメイであったが、そういった事情があったのかとリンドの話を聞いて納得した。
「見つけた。隣に座るね、リンド様」
メイはびっくりして呼吸が止まった。ユウが気配もなく背後に現れたのだ。メイは声をかけられるまで全くユウの存在に気が付くことができなかった。
満面の笑みでユウはリンドの隣の席に勝手に腰掛けるもんだから、リンドは冷や汗をかいている。
ユオも相変わらずユウが苦手なようで、すぐに猫になった。
仕方がない……
リンドが相当困っているようだったので、メイはいつもお世話になっている先輩のためにひと肌脱ぐことにした。
「先輩、生徒会役員の方が呼んでいたのではありませんでしたっけ? 聖女様とは、私がお話しますから、ユオを連れて行ってきたらどうですか?」
リンドはメイの機転を察して立ち上がり、ユオを抱っこした。
「あぁ……そうだった、そうだった……
聖女様、申し訳ないけど、そういう事だからしばらくメイと話をしていてくれ」
リンドはメイの耳元で「ありがとう」と小さく呟いて逃げていった。
リンドに笑顔で手を振っていたユウだったが、リンドが見えなくなりメイと二人きりになるとその態度が豹変した。
「メイ……あなた、大分目障りだわ」とユウが言うのだ。いつものにこにこした明るい笑顔はどこにもなかった。まるで、人が変わってしまったみたいだ。
メイは驚きと恐怖で体に力を入れた。
「モブの癖にイケメン侍らせていい気になるんじゃないわよ……」
ユウはメイを鬼のような形相で睨んでくる。
メイはユウが怖かったが、リンドが困っていることを丁寧に説明して理解してもらう事にした。
「モブって、何のことか分からないけど……
リンド先輩はエーデン王国の第三王子だから、女の子との噂がたったら困るんだって。リンド先輩は王位を継ぐ気がなくて、波風立てたくないって言ってたよ……」
「はぁ!? そんなこと、知らないんだけど! リンドは私のために王様になってくれないと困るの!」
「え? どういうこと?」
「リンドは私と結婚すると、聖女と結婚することになるから王位を継ぐの! それで、私はエーデン王の后になるのよ!」
ユウの勝手な物言いに、メイは理解が追いつかなかった。
「自分が王の后になりたいから、リンド先輩を利用するってこと?」
「まぁ、それもあるわね。でも、こんなの普通でしょ? 勇者と魔王を攻略したんだから、次は王子様ってなるでしょ」
「勇者って……」
メイは勇者と聞いて、記憶の水鏡で見たアルトのことを思い出した。
やっぱり、この人……私の母親なのではないだろうか……
「とにかく、あなたは目障りだからさっさと消えて……
私、邪魔な女はどんな手を使ってでも排除するから……そのつもりでいてね」
ユウはそう言い残すとメイを残していなくなった。
メイは気がつかないうちに汗をかいていた。
自分の手を見ると、手が震えていた。
「お姉さま!」
遠くから声がして振り向くと、小さな妹がメイに抱きついてきた。
「お姉さま、大丈夫? 何か怖いことがあった? 震えてるよ……」
たまたま通りかかった妹がメイのことを心配して駆けつけてくれたらしい。
メイは、妹のソニヤをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、ソニヤ。ソニヤが来てくれたから、元気が出たよ」
ソニヤはにこにこの可愛らしい笑顔でメイの頬にキスをした。
本当に可愛らしくて、メイも自然と笑顔になる。
メイはソニヤの顔を見てオルガを思い出した。
さっきのユウの言葉が心に引っかかった。
もし、ユウが優香だったとしたら……
自分だけじゃなくて、オルガにそっくりなソニヤにまで何かをしてくるかもしれない……
メイは、それだけは何としても阻止しなければならないと、強く心に誓うのだった。
作者より感謝を込めて
いつも、私の拙作をお読みいただき、ありがとうございます!
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