第5話 冒険者ギルド
平野に出ると街道があるので、メイは街道まで歩く。街道は平らに削られた石が敷いてあり、行商の馬車が頻繁に通る街道として整備されていた。
街の入り口には大きな門があり、兵士が立っている。身分証のない人間はこの街に入ることができない。
メイはローブのポケットから冒険者ギルドの登録証を出した。銀色のプレートで
冒険者ランク:Fランク
名前:メイ
登録ギルド:フィンド王国冒険者ギルド
と書かれている。
メイは門の前の兵士にプレートを見せて、さっと街の中入った。
後ろから兵士たちの会話が聞こえてきた。
「先輩! あんな小さい子、そんな簡単に入れてしまっていいんですか?」
先輩と呼ばれた兵士は答えた。
「新人。あの子は、いいんだよ。毎週金曜日に来るから覚えておけ。あれでも冒険者ギルドお抱えの薬師だ」
「え!?」
新人と言われた兵士は驚いてメイの後ろ姿を見返していた。
メイはまっすぐ街の冒険者ギルドへ向かった。そこに自分で作った薬を売りに行くのだ。
冒険者ギルドへ入ったメイは、慣れた様子で受け付け嬢に声をかけた。
「こんにちは! ローラ」
メイの声で気がついた、ローラと呼ばれた受け付け嬢は立ち上がり、カウンターの前に立つ小さなメイを覗き込んだ。
「あら、メイ! 待ってたわ。ちょうどポーションの在庫が切れそうだったの。中に入って」
ローラはメイをカウンターの内側に招き入れてくれた。カウンターの内側は書類が入った棚や職員のデスク、簡単な応接テーブルなどがある。
メイは応接テーブルの前のソファに腰掛けた。
「先週頼まれていた、低級ポーション50本持ってきたよ。確認お願いします」
メイはカバンの中から、小さな小瓶を1本ずつ出した。カバンは魔法カバンになっていて、普通のカバンよりも多く物が入り、重さも感じない優れものだ。オルガが持っていた物をお下がりでもらったものでメイはとても気に入っていた。
ローラはメイが出したポーションの数を確認し「ちょうど50本。今代金を持ってくるわね」と言って、ギルドの奥に消えた。
ローラと入れ代わりで、顔に傷のある大男がメイのところにやってきた。
「おう! メイ! いつもポーションありがとな!」
この男は、この冒険者ギルドのギルド長をしている――ゴードンという名前で、オルガとは旧知の仲らしい。オルガがメイをゴードンに紹介してくれたおかげで、メイはギルドの登録証も貰えたし、仕事ももらえているのだ。
ゴードンはメイの向かいのソファにどかっと腰掛けた。
「オルガは、まだギルドに薬を売ってくれないのか?」
ゴードンはメイが来るといつもこの話をしてくる。オルガは何年もギルドに薬を売っていないらしい。
メイはゴードンの質問に渋い顔をした。
「毎回聞いてみてるけど、無理なんだって」
そう答えると、ゴードンは舌打ちをした。
「まだ薬屋が来てるのか!」と言い、苛立っている様子だ。どうもゴードンは薬屋が嫌いらしい。
「うん。そうみたいだよ。じゃ! 他にも寄るところがあるから、行くね!」
苛立ったゴードンは話が長くなるのが常なので、メイは逃げるようにローラから薬の代金の袋をもらい、冒険者ギルドをあとにした。
後ろからゴードンが大声で「メイ! オルガに、また頼んでおいてくれ! ギルドでは、またオルガの薬を売ってくれるのを待ってるからな!」という。
メイは、「はいはーい」と振り返らず適当な返事を返した。
ゴードンはいつもそのことをメイに頼んでくるので、メイもオルガに伝えてはいるが、オルガは冒険者ギルドには絶対に自分の作った薬を売るとは言わなかった。
メイは、なぜ冒険者ギルドに薬を売らないのかオルガに尋ねたが「そういう契約だから、仕方ないのさ」と少し悲しそうな顔で答えるだけだった。
そういう時、オルガはきまって自分の左手首にある入れ墨のようなものを、右手で握るように擦るのだ。




