第48話 初心者狩り【番外編】
ダンジョンに入るのも、新人指導員がいないと入れないだろうということで、ちょうどこれからダンジョンに入る予定だったエルメルのパーティもユオに同行してくれた。
「ユオ、紹介するよ。うちのパーティメンバー」
弓術士と黒魔道士と神官だろうか。エルメル以外は全員女性のパーティだった。
ユオは、眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした。
「お! ユオも男だな! 美女を三人も連れていると、大抵皆そんな顔になるんだよ。強い冒険者の特権だぞ」とエルメルは得意気だ。
「私はそういうのは嫌いだ……」
ユオは思ったことを口にした。自分の父親を見ているようで、嫌だった。
エルメルは、わしゃわしゃとユオの頭を撫でた。
「ま、ユオがもし、うちに入りたいって言ったら、女の子じゃないけど大歓迎だけどね」
エルメルはイタズラっぽく笑って、ユオの肩に手を置いた。
「遠慮しておく……」
ユオはエルメルの手を避けながら、そう答えた。
ダンジョンの入口は石造りの寺院のような形をしていた。
入口には、ギルドの職員と思しき人物が入場受付をしている。エルメルがなぜなのか理由を説明してくれた。
「何ていう名前の冒険者がダンジョンに入ったか、記録してるんだ。もし、予定滞在日数を超えても帰って来なかった、捜索隊を派遣するんだ」
エルメルの説明に納得したユオは頷いた。
ダンジョンは、本来それだけ危険な場所なのだ。学年末テストのダンジョンは教師によって管理されたままごとに過ぎない。
「俺たちは一週間潜るつもりだけど、ユオもそれでいいか?」
受付をする際にエルメルがユオに確認してくれたので、ユオは頷く。
簡易的な携帯食と水、野営グッズはアイテムボックスに詰めてきてあった。
「じゃあ、一週間後の正午にここで待ち合わせね。出る時も一緒じゃないと出られないから」
エルメルたちは五十階層に飛べる転移魔法陣に入り消えた。
ユオは一階層から順番に進む為に階段を下った。
一階層に入ると、そこは開けた草原になっていた。建物の中に入ってきたはずなのに、天井はなく空が広がっていた。
ゆっくり進もう。一日一階層踏破を目標に進めよう。
「メイがいないから、無双しても問題ないな」
ユオは【気配察知】を使い、目を閉じた。
一階層にいる魔物がどこにどれだけいるのか、ユオの脳裏には手に取るようにその気配が伝わってきた。
失敗した……
ユオの気配を感じ取ったのか、魔物の気配が二階層の入口に向かって逃げているのを感じた。
このレベルのダンジョンは魔物も賢いらしい。勝てない敵から逃げるのは当たり前だった。
「こっちを使わないといけなかったか……」
ユオは【気配遮断】を使う。
指を鳴らして、愛用している黒い剣を出した。
* * *
一階層の草原エリアで、虱潰しのように魔物を狩っていたユオだったが、入口から一直線にユオ目掛けて近づいてくる気配を感じた。
隠れてやり過ごそうか……返討にしてやろうか……
こういう奴らは放っておいたら、同じことを繰り返すだろうと考え、ユオは返討にすることにした。
近づいて来たのは三人組の男たちだった。ユオを見つけてニヤついている。
ユオが男たちの出方を伺っていると、男の一人が話しかけてきた。
「おい! 持ち物全部、おとなしく置いていけ! 言う事を聞くなら、命だけは助けてやろう」
武器も全て渡したら、普通の初心者は生きて帰れないだろう。こいつは最初から、ユオに死ねと言っているようだ。
すると、さっきの男とは違う男がユオの顔を見て、何かに気がついたように声をあげた。
「こいつ、さっきエルメルに冒険者登録してもらってた新人じゃないか!?
こいつが死ねば、エルメルも冒険者登録取り消しだろ!!最高じゃねぇか!!
あいつ、いつも女連れでムカつくんだよ!」
どうやら、この男たちもさっき冒険者ギルドにいたらしい。
男たちは、腰に下げていた剣を抜いた。
男の一人が容赦なくユオに斬り掛かってきた。
もちろん大人しくやられてやる気のないユオは相手の背後に回り込んで、首に手刀を入れた。一人が泡を吹いて倒れる。
残りの二人がユオの動きを見て呆気に取られている隙にユオは残り二人の首にも手刀を入れた。
二人とも呆気なく倒れてしまった。
「弱いな……リンドとメイより弱いんじゃないか? もう少し、楽しめると思ったのに期待外れだ……」
ユオは三人の剣を足で踏んで折った。これで、他の新人が襲われることはないだろう。
「運が良ければ、生きて帰れるかもな」
ユオは三人を残して、魔物狩りに戻った。
* * *
ユオの【気配察知】に、思いの外魔物が逃げてしまったらしい。二階層の入口前に立つフロアボスまで早々にたどり着いてしまった。大きな狼の魔物が一体。その周りに一般的なサイズの狼が十匹、二階層入口を守っていた。
ユオと目が合うと、狼たちは素早くユオを取り囲んだ。ユオの隙をみて、狼たちがヒットアンドアウェイを繰り返してくる。ユオは全て剣でいなしていくが、きりが無い。
ユオは剣で狼たちをさばきながら、左手で大きな水球を作った。ユオは不敵な笑みを浮かべている。
本能的に危険を察知したのか、狼たちは後ずさり、逃走を始めた。
「追いかけっこだ。せいぜい頑張って逃げろ」
水球が十一たちを追いかけた。狼たちは右往左往と逃げたが、追尾する水の矢に追いつかれて、一匹、二匹と脳天を撃ち抜かれて倒れていった。一番大きな狼は最後まで、逃げ惑っていたが、最終的には追いつかれて倒れた。
大きな狼は倒されると大きな魔石に姿を変えた。金色の美しい魔石だった。
ユオは魔石を拾い上げて、空の光を透かしてみた。光を通すと魔石はキラキラと輝いた。
メイにあげたら、喜ぶかな……
「手紙でも書くか……」
ユオは、ダンジョンで綺麗な魔石が出たので、手紙につけて送る旨を手紙にしたためた。
白い封筒の中に手紙と魔石を入れて封をした。
「来い、ヨーツェン」
ユオが名を呼ぶと空中にぽっかりと黒い穴があき、中から一匹の生き物が飛び出してきた。
白い翼を羽ばたかせて空中を飛んでいる。形だけで言うなら小さな白鳥の様な生き物だったが、体の至る所にキラキラ光るライトブルーの宝石の様なものがついていた。
「ユオ様!! いったい今までどこにいらっしゃったのですか!? 我々がどれ程、貴方様をお探ししたことか!!」
ヨーツェンと呼ばれた生き物はまくし立てるようにユオを責めた。
「悪かった。あいつに力を奪われて連絡できなかったんだ。
そんな事より、配達を頼みたい。フィンド王都のメイまで、この手紙を届けてほしい」
ユオの態度にヨーツェンは不満そうだ。
「久しぶりに会った部下にそれはないのではありませんか?
ほら、熱い抱擁を交わして、泣きながら『ヨーツェン、会いたかった……』ってしてくれても良いではないですか……」
「ヨーツェン、早くしてくれ。メイに早く渡したい。喜んでいたかも確認してきてくれ」
ユオはメイに手紙を渡すことしか考えていない。
ヨーツェンは渋々手紙を受け取り、再び空いた黒い穴に吸い込ませて消えた。
作者より感謝を込めて
いつも、私の拙作をお読みいただき、ありがとうございます!
最新作はカクヨムで公開中でございます(^^)/
ご興味のある方は、ぜひご一読ください!
https://kakuyomu.jp/users/kusapom




