第46話 夏休みの予定
ユオを先頭に一行はものすごいスピードで森の中を進んでいた。時折、アルキキノコなど魔物が、一同の行く手を阻むことがあったが、瞬殺であった。
「こっちだな」
ユオの案内に従って走っていると岩だらけの開けた場所に出た。中央には大きなヒカリダケが生えている。
足を踏み入れると大きなヒカリダケは動き出した。ヒカリダケに足が生え、立ち上がって攻撃を仕掛けてきた。
「皆、気を付けて! アルキキノコの変異種みたいだ! 奴の胞子に当たっちゃ駄目だよ!」とウィル。
早速アルキキノコは体を大きく震わせて紫色の胞子を出してきた。一同はアルキキノコから距離を取り、胞子を避けた。
アルキキノコは警戒しているのか、胞子を出す手を緩めない。
「近寄れないね……どうしようか……」とメイ。
「ウィル、風魔法は使えるか?」
ユオがウィルに聞くと、ウィルは頷く。
「では、ウィルはずっと風魔法で胞子を飛ばし続けてくれ。何分位できる?」
「連続での使用だと、もって五分て所かな五
「よし、十分だ。その間に私とリンドで奴を倒す。
リンド、アルキキノコは弾力があるから袈裟斬りは通りにくい。真っ向斬りか突きで攻撃するんだ。
メイは、【加速】を使ってくれ。随時【癒しの粉】とシールドを使い分けて使ってほしい。できるか?」
「がんばります!」とメイは力強く頷いた。
「では、作戦開始だ!」
ユオの合図で全員が動き出した。
ウィルが風魔法で、アルキキノコの胞子を後方へ吹き飛ばした。
メイは再度【加速】の魔法を全員にかけ直す。
ユオとリンドが左右に分かれて、アルキキノコの前に立った。リンドが剣に雷の魔力付与を行うと、アルキキノコはリンドに向かって走り出した。
ユオは、その隙に高く飛び上がり、アルキキノコに真っ向斬りを御見舞した。大きな茸の笠に大きな裂け目ができた。アルキキノコはバランスを崩したのか、切られた方とは反対側に倒れ込んだ。リンドはその隙に魔力付与した剣で、アルキキノコの足に逆袈裟斬りで斬り込んだ。
アルキキノコの足が一本、宙を舞った。
その後、アルキキノコはバタバタと抵抗していたが、立ち上がれず、ユオがとどめを刺した。
「やったー!!」
メイは初めてのボス討伐に興奮していた。
巨大アルキキノコは大きな魔石を残して消えた。メイは大きな魔石を持ち上げ、魔法カバンにしまった。
アルキキノコの後方にヒカリダケの群生地があり、一同は黙々とヒカリダケを採集した。
「あ、ヒカリダケについてる光る虫も捕まえて。
ヒカリムシって言ってとっても珍しい虫だよ。乾燥させて粉にすると装備を発光させる道具が作れるから、高い値段で売れるんだよ」
メイはオルガに教わった知識で、ヒカリムシも瓶に捕まえていった。
「まだ、時間に余裕があるから、帰り道は素材を採集しながら、戻ろうか」とウィル。
「さんせーい!実は行きも採集したいものがたくさんあって気になってたんだ!」とメイ。
メイの【真実の瞳】には素材の鑑定の能力もあるらしく一同はメイの指示で、薬草やら茸やらを採集しながら戻った。
* * *
「せんせーい! 取ってきたよー!」
一同は時間内に集合場所まで戻ってきた。
メイは眼鏡先生に駆け寄り声をかける。
「先生! ダンジョン初めてきたけど、すごすぎ! 貴重な素材がたくさん取れたよ!」
眼鏡先生はメイの頭を撫でてくれた。
「試験官の先生から報告で聞きましたよ。ボスも討伐したらしいですね。試験で採集した素材は、学校の売店でも買い取りできますし、自分たちで加工しても構いませんよ。自由に使ってください」
* * *
「ぐぬぬ……同点だと」
メイとユオとリンドは学年末テストの結果が張り出されている掲示板の前に来ていた。
学年末テストの結果は、メイとリンドは満点の引き分けだった。リンドはメイに勝って優越感に浸りたかったので、同点で苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「ふん! 私だって、やる時はやるんですよ」とメイは得気な顔をしている。
「あ! メイ、こんな所にいましたのね! 探しましたわ」
ティナが小走りで駆け寄ってきた。
リボン盗難事件以来、ティナとメイは普通に話をする仲になっていた。ティナとはお互いに家族の話をしたり、他愛もない話をしたりしていた。
「どうしたの?」
「夏休み中に私の家でガーデンパーティをしようと思っているのだけど、メイも誘ってもいいかしら?」
「もちろん! 行ってみたい!」
「それは良かった! ユオ様も是非いらして。お菓子をたくさん用意いたしますわ」
「私は行かない」
「え?」
即答だったことにメイは驚いた。隣にいたリンドも驚いている。
ユオならお菓子に釣られて喜んで行くものと思っていたからだ。
「まぁ、残念ですわ…… 差し支えなければ、理由をお聞きしてもよろしくて?」
「先日の学年末テストでダンジョンに潜った時、体が大分鈍っていた。夏休みの間に、一人でダンジョン巡りでもしようかと思ってな。
せっかく誘ってくれたのに悪いな」
ゆ、ユオが謝っている!
メイはまた驚いてしまった。あんなに偉そうだったユオも最近少し柔和になってきた気がする。
「ユオ様は志しが高いのですね! 流石ですわ!
また、機会がありましたらお誘いするので、その時また考えてくださいませ。
では、失礼いたしますわ」
ティナは用事があるのか、パタパタと走り去っていった。
「ユオ! ダンジョンに一人で行くって何? そんな話聞いてない!」
メイはユオに文句を言った。リンドも便乗する。
「そうだよ、ユオ! せっかく行くなら、またテストの時のパーティで行けばいいじゃん!」
リンドの提案にユオは首を横に振った。
「リンド、悪いな。一人で行きたいんだ」
メイはショックで涙ぐんでいた。
「年末年始の休暇もユオがいなくて、すっごく寂しかったのに……
夏休みは一ヶ月もあるんだよ! ずっと会えないの寂しいよ……」
メイの顔を見て、ユオは眉間にしわを寄せた。
「メイ…… ごめん……
手紙を書くよ。返事書いてくれるか?」
ユオは考えを変える気はないらしい。
メイは渋々頷くのだった。




