第45話 学年末テストというものがあるらしい
「メイ! 勝負だ!」
筋術の授業の時、リンド先輩がメイに勝負を仕掛けてきた。
今はタンクトップ先生の命令で、メイとユオとリンドの三人はスクワット中である。メイも流石に一年も筋トレを続けてきたので、筋トレ中でも余裕でお喋りを楽しめるまでに成長していた。
「今度はなんの勝負ですか?」
メイはリンドとのやり取りに若干うんざりしていた――というのも、リンドは事あるごとにメイに勝負を仕掛けてきたからだ。しかも、だいたいリンドの勝ちで終わる勝負だ。リンドはメイに勝負で勝って優越感を味わう遊びにはまっているらしい。
「もう少しで学年末テストだ! どっちが高い点数を取れるか勝負しよう」
「学年末テストってなんですか!? 初耳なんですけど!!」
三角帽子先生はまた大切なことを説明していないらしい。メイはお迎えテストの時の苦い記憶が蘇った。
「学年末テストは、一年間の成績が決まる大事なテストだよ。テストの結果で五段階評価で成績がつくんだ。五が一番良くて、一がだめだめ。分かる?」
メイは頷く。
「魔法剣専攻の生徒は座学のテストと、実技のテストがある。
座学はホームルームで受けてる内容が出るテスト。
実技は他の剣術学科とか魔法学科の生徒と混ざってのテストだよ。四人でパーティを組んで、ダンジョン踏破を目指すんだ。初等部と中等部と高等部で入るダンジョンがちがうんだよ」
「生徒だけでダンジョンに入るってことですか? 危なくないの?」
メイは不安になってきた。
「大丈夫。先生たちが見ててくれてるから。ピンチの時はダンジョンから離脱できる転移の魔法石も貸してもらえるよ」
「ふむふむ。四人のパーティはどうやって決めるの?」
「基本は自分たちでパーティメンバーを決めるんだよ。どうしても見つけられない生徒は先生がマッチングしてくれる。
今年はメイとパーティ組んであげてもいいよ? 僕は先輩だからね」
リンドはいつもメイに対して偉そうだ。
「えぇーーどうしよっかなぁーー。リンド先輩と歩くと女子のヘイト集めちゃうからなぁーー」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。僕のこと好きな女の子たちは大抵、領地経営学科の貴族の女の子だから。実技テストにはいないから大丈夫」
「え、先輩、自分の支持層把握してるんですか?」
「当たり前だろ! こう見えても、僕は王族だからね。リスクマネジメントの一環だよ」
メイはてっきりリンドはそういったことには興味がないのかと思っていた。
「それに、実技テストにはそもそも女の子少ないから、他の女の子も男の子と普通にパーティ組んでるよ」
「そうなんだ! なら、安心だね! 他の人はどうする? ユオはいい考えある?」
メイはユオにアドバイスを求めた。
「四人パーティだと、前衛二人に後衛二人が一番バランスが良いだろうな。私とリンドで前衛をして、メイが最近、回復魔法が使えるようになったから後衛をすればいい。あともう一人攻撃魔法が使えるのがいると良いかもな」
「じゃあウィルを誘うのが良いんじゃない? 黒魔道士だし。私、今度の魔法の授業の時誘ってみるね」
* * *
――学年末テスト、実技試験当日。
「誘ってくれてありがとう。去年と一昨年は魔法科の友達とダンジョン行ったから、バランス悪くてあんまりいい点数取れなかったんだよね」
ウィルは喜んでパーティに加わってくれた。
「ウィル、こちらリンド先輩」
メイはリンド先輩をウィルに紹介した。
「うん。知ってるよ。というか、同学年だからホームルーム一緒なんだ」
「そうか! ウィルがあんまりしっかりしてるから……」
「それ、どういう意味?」とリンドがメイを睨む。
メイは口笛を吹いて誤魔化した。
今日は全員、制服ではなくダンジョン攻略用の装備に、身を包んでいた。メイはいつもの黒いフード付きケープ。黒のチェニックに黒のレギンスパンツとひざ上のロングブーツという出で立ちだ。
初等部の実技テストを受ける生徒は全員校庭に集められていた。魔法の授業の眼鏡先生が試験の説明をしてくれるらしい。
「全員いますね。では本日の実技試験について説明します。
今日行くのは、初級ダンジョンの『シエニの森』です。茸系のモンスターが多く生息している初級ダンジョンです。皆さんも授業で習って知っていると思いますがダンジョン探索は一般的なフィールドワークとは全く違います。入ってしまうと、そこはもはや異次元です。現実とは違うダンジョンのルールが存在します。気をつけて課題をこなしてください。
皆さんからは見えませんが、各パーティに一人ずつ試験官が同行し、採点と安全確保を行っています。
ダンジョンに入ったら、一時間以内にヒカリダケという茸を採集して、集合場所に戻ってきてください。
他のパーティを邪魔したり、攻撃することは禁止とします。説明は以上です。全員、校庭に描いた魔法陣の中に入ってください」
石灰の粉で描かれた魔法陣の中に全員がおさまった。すると魔法陣が緑色に光って、一同は姿を消した。
* * *
一同は、霧のかかった薄暗い森の、一部ひらけた場所に転移していた。校庭と全く同じ魔法陣が描かれている。
「それでは今から一時間後がタイムリミットです。それまでにこの魔法陣の中に戻ってきてくださいね。はい、はじめ!」
眼鏡先生の合図で全員が動き出した。初等部の中でも上級生のパーティは急いで走っていった。
ユオは大きく深呼吸して、珍しく笑っていた。金の目を輝かせ、猫のような目の瞳孔が開いている。いつもと違う様子のユオにメイが声をかけた。
「楽しそうだね」
「数年ぶりのダンジョンだからな。楽しむなと言う方が無理だろう」
「そ、そうなんだ……」
いつもと違う様子のユオを見て、メイは少し不安になった。
「ユオ、お願いだから、一人で無双とかしないでね?」
メイのお願いを断れないユオは、明らかにショックを受けている顔をしている。どうやら図星だったらしい。
「さ! 急がないと加点が狙えないよ!」とウィル。
リンドとウィルが小走りで走り出したので、メイとユオも後を追った。
「ウィル、加点ってなに?」
メイは走りながら、ウィルに質問する。
「ヒカリダケを採るだけだと、半分しか点数がつかないんだよ。僕も一年の時は課題をクリアしたのに半分しか点数が取れなかったんだ。
先輩たち、皆走ってたでしょ。ダンジョンボスの討伐を狙ってるんだよ。去年ボスを倒したパーティは満点を取ってたよ。」
「な、なるほど……」
メイは納得した。ヒカリダケを採るなんて、随分簡単な試験だなと思っていたが、加点を狙うなら、それだけではだめということかと納得する。
リンドはさらに補足する。
「しかも、ダンジョンボスは一時間に一回しか出てこない。早いもの勝ちだ」
ユオの瞳孔が再び開いた。
「それは、おもしろそうだ」
「そういうことなら、こないだ習得した新しい魔法を披露するね」とメイは剣を縦に構えて魔法を発動させた。薄青色の光の筋が四本出てきて、全員の足の周りをくるくる回った。
「お! 早く走れる!」
リンドが喜んで飛ぶように走っている。全員の走るスピードが上がった。
「今日のために眼鏡先生に伝授してもらった【加速】の魔法だよ。なかなかいいでしょ」
「よし、このままボスエリアまで突っ切る。【気配察知】を使うから、ついてこい!」
ユオは意気揚々と先頭を走った。




