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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第3章 トーヤ大学入学

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第40話 見つからないユオ

 メイは剣術の授業も飛び級してリンドと同じクラスだった。

 ユオがいないので、メイはリンドを頼って授業に参加することにした。

 剣術の授業は基本、座学がなくて、実技メインの授業だ。

 校庭で先生が来るのを待っていたメイは、現れた先生の恰好を見て目を見開いた。先生は大柄な男の先生で常にタンクトップを着ていたからだ。黒く日に焼けた姿は明らかに異様。メイは先生のあだ名を筋肉先生にしようか、タンクトップ先生にしようか悩んだ結果、タンクトップ先生と名付けていた。


 今日の剣術の授業はタンクトップ先生の指示で生徒たちはひたすらに筋トレをさせられていた。タンクトップ先生の授業は剣術の授業なのに、なかなか剣を触らせてくれない。この授業は剣術ではなく、筋術の授業だとメイは思った。


 今は一人100回×3セットの腹筋を命じられ、ペアになってやっているところだ。メイは手でリンドの足を押さえて、リンドはひたすらに腹筋を繰り返している。


「リンド先輩…… 最近ユオに会いました?」


「え? 会ってないけど、なんで?」


「こないだ喧嘩しちゃって、いなくなっちゃったんですよ…… 全然帰ってこなくて心配で……」


「ふーん。はい、メイの番だよ。交代して」


 今度はメイが腹筋100回する番だった。メイは地面に寝そべって膝を立てて、足をリンドに押さえてもらった。


 剣術の授業はメイのクラスは女子生徒がメイしかいなかった。リンド先輩と安心して話ができるのは、そのおかげだった。


 メイはリンドみたいに余裕のある腹筋はできない。プルプル震えながらの腹筋だ。そんなメイにリンドが容赦なく話しかけてくる。


「明日から週末で休みだから、探すの手伝ってあげるよ」


「あ……あり……がとう……」


「でも、心配だよね…… 猫って、死ぬ時飼い主の所からいなくなるって言うじゃん……」


「え……えんぎ……でもない……こと…いわないで」


「ごめんごめん」


 リンドはメイが苦しそうに腹筋をしているのが面白いらしく、ニヤニヤしていた。




* * *




 次の日は朝からリンドと一緒にユオを探した。


「ユーオー、どこー?」


 塀の隙間や植木鉢の下まで――メイは学校の隅から隅まで探した。他の猫を見たら、もしかしてユオじゃないかと走って近寄ったが、猫は逃げてしまった。


 見つからない……



 メイはすっかり途方にくれてしまった。



「メイ、大丈夫?」とリンドが心配し、メイの顔を覗き込む。


「先輩……ありがとうございます…… もう門限になっちゃうから、今日は解散にしましょう……」


 リンドは元気のないメイを女子寮まで送って、自分も男子寮へ帰っていった。


 部屋に戻ると、部屋はいつものように誰もいない。帰ったら、猫のユオが部屋にいたりしないかと期待したがメイだったが、部屋は空っぽのままだった。


 メイはベッドにドサッとうつ伏せに倒れ込み、しくしくと泣いた。


 ユオがいないと駄目なのに…… 寂しいよ……


 メイはぽつりと呟いた。


「お願い……戻ってきてよ……ユオ……」


 しくしく泣いていると、後ろに気配がした。メイが顔だけで振り返ると人型のユオが立っていた。


「泣いてるのか?」


 ユオはメイが泣いていたことに驚いているようだ。

 メイは起き上がり、ベッドの上に座った。


「ユオぉ……生きててよかったぁ……」


「なんで死んだことになってるんだよ」


「だって……リンド先輩が猫は死ぬ前に飼い主の前からいなくなるって言うから……」


 ユオがため息をついて、メイの隣に座った。


「猫じゃないって言ってるだろ」


 今日は怒っていないらしい。ユオは優しく声をかけてくれた。


「もう……ユオの嫌がることしないから……ぎゅってしたりしないから……いなくなったりしないで……」


「……おう」


 ユオはいつまでも泣くメイの頭を撫でようとしたが、その手を引っ込めた。ひたすらにメイが泣き止むのを待つのだった。

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