第4話 おつかいの日の朝
五才になった頃からメイは週に一度の金曜日に近くの街までおつかいに行くことになっていた。
それまで、金曜日は二階の自分の部屋から出ないようにオルガからきつく言われて出られなかったのだが、退屈だったメイが自分からオルガに頼み込んで、そうすることになっていた。
「先生!行ってきます!」
「いってらっしゃい。暗くなる前に帰って来なさい」
「わかりましたー!」
メイは元気良く森の家を飛び出した。
オルガはメイにはっきりとは伝えていなかったが、なぜ金曜日に部屋から出られなかったのか、メイは予想がついていた。
金曜日には、「薬屋」が森の家に来るのだ。
メイは二階の自分の部屋の窓から、こっそりその男が来るのを見ていたことがある。
オルガと同じくらいか、少し年上のその男はスラッとした長身で切れ長の目。緑色の髪を綺麗に後ろでまとめていた。いつも上等なスーツを来て、森の家にやってくるその男をオルガは「薬屋」と呼んでいた。
森の家に来る人は、薬屋だけだったので、メイは薬屋が実は自分の父親なのではないかと考え、薬屋を始めて見た日の夕食の時間にオルガに尋ねたが、オルガは飲んでいたスープを吹き出して否定した。
メイが薬屋をこっそり見ていたこと、メイが薬屋を自分の父親なのかと考えたことにオルガは驚いたらしい。
「あいつが、お前の父親な訳ないだろう。まず、見た目も似てないでしょ」
とオルガは素っ気なく答えた。
メイはオルガが教えてくれないからか、色々想像してしまうのだ。オルガは否定しているが、実はオルガが自分の母親なのではないかとか、薬屋が父親なのではないかということをだ。
でも確かにオルガのいう通りで、自分の見た目はオルガにも薬屋にも似ていないのだから、嘘ではないのかもしれないともメイは考えていた。
結局は謎だらけなのだ。
メイは森の中を歩きながら、そんな事を考えていた。
三十分程歩くと、森から平野に出て、大きな石造りの城壁が見えてきた。




