第34話 ティナの誘惑
午前中は何かの行事がない限り、初等部は学年担任の先生の授業だった。読み書きや計算、歴史など一般常識を教えてくれる。
新入生の学年担任は三角帽子先生だ。新入生のホームルームに新入生が全員集まって授業を受けた。メイは授業中でもフードを被って気配を消した。
このホームルームの授業はやつがいるのだ。メイがこの学校で唯一明確に苦手な人物――ティナだ。
午前の授業が終わると、ティナがお供のお団子女子と背高女子を連れてユオに話しかけてきた。
「ユオ様、ごきげんよう。今日はあのメイとか言う女はいませんの?」
メイはもちろんユオの隣に座っていたが、フードを深く被っていたので、ティナは気がつかないようだ。
「面倒だから隠れていよう」と「フードを脱いで立ち向かう」の二択がメイの頭の中に現れたが、メイは前者を選択した。
「……」
ユオはデフォルトの顔をして、相手にしていない。
「お隣、失礼しますわ」とティナは勝手にメイが座っている側とは反対側のユオの隣に座った。
「ユオ様、クッキーはお好きですか? 私、実家から送られてきたものがありますの。良ければ、召し上がってくださいませ」
「……」
ユオは何も言わなかったが、ぴくっと動いて明らかに悩んでいるようだった。
この食いしん坊め!
「私はここだよ……ティナ」
メイは一瞬ちらっとフードを脱いで、ティナに顔見せた。
ティナは驚きのあまり立ち上がる。
「め、メイ! そんな所にいましたの!? というか、なんですの、そのフードは!?」
「そんなことはどうでもいい! ユオは私の使い魔だから、お菓子で誘惑するのは止めてもらおうか!」
「つ、使い魔!?」
ティナが驚いているので、ユオは猫型になってみせた。ティナはショックを受けているようだ。
「そ、そんな……ユオ様が人間じゃないだなんて…… 私たちの関係は禁じられた関係になってしまうの……?」
ティナはぶつぶつと何か独り言を言っている。
よし、こうなったら奥の手だ。
「ユオ、お願い。ぎゅーってさせて」
「にゃに!?」
猫の姿のユオは明らかに動揺していたが、メイのお願いは断れない契約だ。ユオは渋々メイの腕の中にジャンプし、おとなしく抱っこされた。
メイはユオの首のもふもふに顔を埋めて、くんかくんか匂いを嗅ぐ。いい猫臭だった。ユオはプルプル震えていた。
「な、なんてことを……」
ティナは顔を真っ赤にしている。
トドメはこれだ!
「この紋所が目に入らぬか!」
メイはセヴェリに持たされていたコンパクトの家紋をティナに見せつけた。
「そ、それは、ヴィーエラ商会の家紋! あなた、ヴィーエラの人間でしたの?!」
「どうだ。まいったか」
「く、今回の所は引き下がりますわ。でも、覚えてらっしゃい! 私が必ず、あなたの魔の手からユオ様を助け出して差し上げますわ!」
ティナと取巻きは教室の外へ逃げ出した。
メイはユオが逃げられないのをいいことに、猫臭を堪能していると、ユオがキレた。
「いい加減にしろ!」
ユオに怒鳴られたので、メイは渋々ユオを机の上に乗せた。
ユオはブルブルと体を震わせて、メイの顔でへこんでいた毛を元の形に戻した。
「お前には、恥じらいという気持ちはないのか!?」
「えーー! 猫を吸うことのどこが恥ずかしいの?」
「だから、猫ではないと何回言えば分かるのだ!」
「うーーん、でも友達だし……」
「ああもう! 分かった! ちょっとついてこい!」
ユオは人型になり、メイの手を引っ張って歩いた。
教室を出てすぐの人気のない階段裏にユオはメイを連れ込んで、ぎゅっと抱きしめた。
「きゃ!」
メイはびっくりして変な声が出てしまった。ユオはメイの首筋に顔を埋めて、メイの首筋に軽くキスをした。メイはどきどきして、腹がうずうずする感覚におそわれた。
ユオはメイを離した。メイは心なしかユオの顔が赤いような気がした。
「お前のしていることは、こういうことだ…… しばらく、一人にさせてくれ……」
ユオは猫型になり、どこかへ駆けていった。
メイは力が抜けて、その場に座り込んでしまった。




