第33話 魔法剣教室
午後からの魔法剣の授業は本校舎から少し離れた魔法剣教室で行われる。
校庭から校舎の裏側に回った所に、魔法剣専攻の教室があった。校舎の裏側なので日中でもあまり日は当たらず、少し涼しい。二階建てになっていて、一階は生徒たちが使う教室。二階はイライジャ先生の研究室兼私室になっているらしい。
メイとユオは、先輩たちに案内され、魔法剣教室に入った。前には黒板があり、教室には幾つかの机と椅子が置かれている。
教室ではイライジャ先生がもう待っていて、生徒たちが教室に来るのを待ち構えていた。生徒たちが教室に入ってくると明るい挨拶をしてくれた。
先生は黒板の前に立ち、今日の授業の説明をした。黒板には、
自己紹介
・名前
・出身地
・趣味
・将来の夢
と書かれている。
「では、今日から新入生がいるので、簡単な自己紹介から始めようか。
黒板に書いてあることを参考に自由に話してもらって大丈夫だよ。
まずは、私から。ええ、名前はイライジャで、出身地はここから大分遠いんだけどペイン王国の出身だよ。趣味は、魔法剣の研究で、将来の夢はトーヤ大学でじいちゃんになるまで教師をすることかな。あ、見ての通り獣人だ」
メイはおじいちゃんになったイライジャ先生を想像した。耳と尻尾ももふもふだけど、おじいちゃんになって髭を伸ばしたら、髭ももふもふして気持ちよさそうだ。
年功序列で、順番に自己紹介するようだ。
「次は俺だよな? 名前はドル。出身地は隣の国のエーデン。趣味は寝ることで、将来の夢は……まぁ、魔法剣で食っていければなんでもいいかなって思ってる」
「私はフラン。出身地は、ロマナ。趣味は魔石集め。将来の夢は、冒険者になって世界中の魔石を集めまくりたいかな」
リンドは先の決闘以来、少しおとなしくなっていた。
「リンドです。隣国のエーデン出身で一応第三王子です。趣味は特になくて、将来は……兄さんたちが優秀だから、魔法剣で国の役に立ちたいです」
フードを目深に被ったメイが立ち上がる。
「メイです。フィンド王国の王都の近くに住んでました。趣味は……本を読むこととユオと遊ぶことです。将来の夢は、まだ考え中だけど……育ての親の先生に恩返しがしたいです」
ユオ以外の全員の自己紹介が終わったところで、「君も自己紹介してくれるかな?」とイライジャ先生は、ユオにも声をかけた。
ユオは少し嫌そうな顔をしたが、立ち上がって自己紹介をした。
「ユオだ。メイの使い魔をしている。出身は、魔大陸だ。趣味は、食事。
将来の夢は、かつて私を嘲笑ったやつらに復讐することだ」
「え……?」
メイは驚いた。
全員がユオを見ていた。金色の瞳が赤く揺らいだような気がした。
メイはユオのことを、喋る珍しい猫くらいにしか思っていなかったので、ユオ自身のことを詳しく聞いたことがなかったのだ。
ユオの発言で和やかだった教室の雰囲気が変わった。
ユオもそれに気がついたのか、我にかえったように「冗談だ。忘れてくれ」と言って席についた。
イライジャ先生が手を叩いて、場を切り替えた。
「それじゃあ、まずいつものように魔力付与の練習から始めようか。
ここにいる生徒は全員魔力付与はできるが、ただできればいいと言うものではない。実戦で使うためには付与する速さや精度も重要となってくる。
ドルとフラン、リンドとメイとユオで組みになって、お互いの魔力付与にアドバイスしていこうか。
リンド、嫌そうな顔しない。後輩を教えることで、自分の上達にも繋がるから」
眉間にシワの寄っていたリンドにすかさず先生が釘をさした。
「お手本を見せるから、見てて」
リンドはメイとユオの方を向いて座り剣を自分の前で縦に構えた。
構えると程なくして、剣が電気を帯びて黄色く輝き出した。
メイは拍手をして、リンドを称賛した。
「先輩、すごい! 速いです! 私がやったら、もっと時間かかりますよ! ほら!」
メイは自分の剣も縦に構え、火の魔力付与を行った。剣の鍔の部分から始まり20秒くらいかかって、やっと剣先まで魔力が行き渡った。
「最初は、僕もそんな感じだったよ。何回も繰り返して、どんどん速くできるようにするんだ。それもできるようになってきたら、魔法の種類の切り替えの練習もする」
リンドは、次の練習の手本も見せてくれた。さっきまで、電気を帯びて剣が、冷気を出してカチコチに凍ったようになった。
メイは、また感激してリンドに大きな拍手を送る。
「先輩、かっこいい! なんでそんなに上手なんですか!?」
メイが、あんまり褒めるから、リンドも少し照れ始めた。
「ふん。その程度のこと」
見ていたユオが何故か魔力付与の練習に参戦してきた。
ユオも剣を出して、電気と冷気の魔力付与をチカチカと高速で切り替えた。
メイは又しても感激して「ユオ! すごすぎ!」と目を丸くする。
「かっこいいか?」とユオがメイに念押しした。
「すっごくかっこいいよ!」
ユオは鼻高々だ。
リンドもユオに負けじと張り合った。
「じゃあ、ユオ! これはできる?」
リンドは魔力付与を切り替えながら、空いていた左手で炎を出した。
「ふん。曲芸師じゃあるまいし、それでは実用性にかけるな。左手はこうするんだ」
ユオは魔力付与を切り替えながら、左手でシールドの魔法を、展開した。
二人の張り合いは授業が終わるまで続いた。
メイはその間、魔力付与を速くできるように、二人の張り合いには目もくれず、練習に励むのだった。




