第31話 お迎えテスト
――次の日、フランが言っていた通りの時間に迎えに来てくれた。
「メイ、おはよう。昨日はちゃん寝られた……って、何!? その格好!?」
メイは、制服の上から黒のフード付きケープを着ていた。フードもしっかりと被っている。
「フラン先輩! おはようございます! これは、昨日ユオの隣にいると、とんでもなく女子たちの敵意を感じたので、防衛策です! 私は今日から、黒子として生きます!」
ヴィーエラのお祖母様から、外での活動用にと頂いたケープだった。ビロードの生地で高級感がある。
お祖母様は「特注で作ったケープよ。肌が日焼けしないように、外に出る時には必ずつけるのよ。つけないと、嫁入り前にシミができてしまうからね」とどこぞの女優のようなことを言って持たせてくれたのだ。
正直つける気は全くなかったのだが、こんな事で役に立つ日がくるとは……
お祖母様、ありがとう……
「使い魔を猫にすればいいんじゃない?」とフラン。
「ユオは使い魔である前に、私の友達なんです。友達の意志は尊重したいです」とメイは答えた。
「ふーん、変なの。まぁ、メイが良いなら口出ししないけどさ。
さ、朝食終わっちゃうから、早く行こ」
※
食堂につくと、魔法剣専攻の男子たちはもういつもの席で朝食を食べ始めていた。ユオももちろん一緒だ。また口をハムスターにしている。
ユオとリンドは少し仲良くなったのか、一緒に話をしていた。周りの女子たちがその様子をチラチラ見ながらコソコソと話をしていた。
メイとフランはバイキングから好きなものを取り、合流する。メイとフランは専攻の皆に挨拶をしたが、メイは相変わらずリンドから無視されてしまった。
良いんだ……私は黒子……
メイは黒のフードをぎゅっと被り、寂しさを我慢した。
※
新入生は一案内表示を見て移動してください」と三角帽子先生。相変わらず、淡泊な説明である。
大抵の生徒が対応に困っていたので、試験官の先生が呼びに来てくれた。
メイはどこで試験を受ければ良いのか分からなかったので三角帽子先生に近づいて質問してみた。
「三角帽子先生? 私は魔法剣専攻志望なのですが、どこの試験を受ければいいですか?」
「三角帽子先生とは、なんですか? フィリップ先生と呼びなさい。
魔法剣専攻は魔法の試験と剣の試験、二つの試験を受験してください。あっちとあっちです。空いている方から受けるといいですよ」
三角帽子先生は指をさして教えてくれた。
「ありがとうございます! 三角帽子先生! 行ってきます!」
メイは指さされた方へと駆け出した。ユオも小走りでついてきてくる。後ろから三角帽子先生の「フィリップです!」の声が聞こえた。
魔法の試験の方が空いてそうだったので、メイは魔法の試験から受験することにした。生徒たちは一列に並んで順番を待っている。
前の生徒の魔法を見ていたが、なんでもいいから魔法を使えれば合格になるらしい。皆、杖から小さな火を出したり、水鉄砲みたいな水を出していた。
メイの番がきて、試験官の先生が試験の説明をしてくれた。眼鏡をかけた優しいそうな女の先生だった。
「使える魔法ならなんでも良いので使ってみてください。緊張しないで大丈夫ですからね。リラックスしてやってみてください」
先生、私読書家なので知ってますよ。ここで派手な魔法使ったら、悪目立ちして出る杭は打たれるんですよね! 私は黒子になりますよ!
メイは、心の中で変な意気込み方をした。
メイは他の生徒がやっていたように、剣を抜き、剣先から水鉄砲のような水を出した。
よし! 完璧だ! いい感じに調整できたぞ!
しかし、先生は首を傾げた。
「あれ? おかしいですね。あなたの魔力量なら、もう少しちゃんとした魔法が見られると思ったのですが……能ある鷹は爪を隠すって奴ですか? それをするなら、体の外に出ている魔力の調整も覚えましょうね。
はい、合格です。次の人」
恥ずかし過ぎる! 先生には全部お見通しだった!
メイは泣きながら、剣術の試験の列に並んだ。ユオがハンカチを貸してくれたので、メイは鼻をかんでユオに返した。
剣術の試験官は男の先生だった。しかも、猫耳とふわふわの尻尾が生えている。メイは始めて見たが、その先生は獣人だった。トーヤ大学は他国の学生や教員も受け入れているので、色んな種族の人がいるようだ。
「はい、次の人。名前を言ってください」
「メイ・ヴィーエラです。よろしくお願いします」
猫耳先生の耳がピコピコ動く。
「あぁ、君か。一年生で魔法剣専攻志望の子は。はい、じゃあ見るから、型を見せてくれるかな」
メイは昨晩ユオに教えてもらった一連の流れを披露した。
抜剣からの切り裂き、ステップで後ろにさがり、突きで前に出る。剣身で叩く動きを入れて、剣をおさめた。
メイは不思議なことに、一度教えられた型はすんなり覚えることができた。【武器︰全武器使用可】のスキルのおかげだろうか。
こちらは、手加減できる程上手くないので、全力でやった。
「ショートソードでバックラーを使わない型は珍しいけど、とても良くできているよ。ガードとパリィは魔法で対処しようとしてるのかな?」
「ごめんなさい、そこまではまだ考えていませんでした」
メイが正直に答えると先生は頷く。
「大丈夫。そこまで考えられる生徒は初等部にはいないから。上手だったから、聞いてみただけだよ。剣に魔力を込めるのはできるかな? 教えてあげるから、ちょっとやってみて。
火の属性の魔法がイメージしやすいから、火の魔法を剣の刃にまとわせるイメージで、剣に魔力を流して」
メイは先生に言われた通りにやってみた。すると、剣が赤くなり、刃全体から炎を出すことに成功した。さっきの剣の先っぽから水鉄砲を出したのとは違う、剣自体が強化されているのがメイには分かった。
「素晴らしい! 僕は、魔法剣専攻の教師をしているイライジャだ。これからよろしくな。午後からは魔法剣専攻の教室で授業だから、昼食を食べたら先輩に連れてきてもらいなさい」
イライジャ先生は手を差し出し、メイと握手した。
メイは、ハッとした。
やばい! 目立ってしまった!
メイはケープのフードで顔を隠しながら、逃げるように試験場を後にするのだった。




