第3話 弟子のメイと師匠のオルガ
「先生! 頼まれていた薬草取ってきました!」
長いブロンドを後ろに一つ三つ編みにした少女は、黒い瞳をきらきらと輝かせながら森の家に飛び込んできた。
「扉は静かに開けなさいといつも言ってるだろ!」
「だって! 早く薬の作り方を教えてほしいから!」
――少女の名前は、メイ。
ヤギの鳴き声のようで変な名前だが、母親の故郷では五月生まれの女の子に多い縁起の良い名前らしい。歳は五歳になったばかりだが、街にいる同じ年頃の子供よりはるかに賢く、この歳にして基礎薬学の材料を図鑑一冊分覚えてしまっていた。
「分かったから、少し落ち着きなさい。まずは、言われた薬草をしっかり取ってこられたか見てみないとね」
メイはそわそわと自分の両手を組み合わせながら、メイを叱った女の隣の椅子に座った。
女の名前は、オルガ。フィンド王国の王都からほど近い森の中に、メイと二人だけで住む変わった女だ。赤毛に深い緑色の瞳。歳は二十代中頃くらいだろうか。普通の二十代なら、こんな誰もいない森の中には住まないで王都で暮すはずだが、オルガはまるで人を避けるかのように過ごしていた。森の中で薬草やら、薬の材料となる魔物を狩って素材を集め薬を作っている。
そんなオルガの様子を毎日見ている弟子のメイは、自分も早く薬を作ってみたくて仕方がないのだ。
「どれどれ…… ホワイトクローバーにレッドベリーにアカツメクサ……」
オルガはメイが採取してきた薬草を丁寧にチェックした。
「どれもしっかり取ってこられたね。しかも状態もいい。良くできたね……」
オルガはメイが採取してきた薬草を見て驚いた。図鑑を一冊覚えているとは言え、一度で正しい薬草を取ってくると思っていなかったのだ。大人ですら慣れた薬師や冒険者でないと間違うことが普通だからだ。
メイは腰に手を当てて得意げに笑った。
「えへへ、外で草を見ると草の名前が頭に浮かんでくるんだ」
「それは、鑑定のスキルじゃないかい?! 驚いた…… 蛙の子は蛙だね……」
オルガは最後にぼそりと呟いた。
「え?蛙?」
メイはなぜ急に蛙の話になったのか分からずオルガに聞くが、答えは返ってこなかった。
メイは自分の生い立ちについて知らされていなかった。
メイは自分の父親や母親のことをよくオルガに訊ねたが、オルガはほとんど教えてはくれなかった。
教えてくれたのは、メイの父親がメイが赤ん坊のころに自分を預けたということだけだった。
「さあ、材料が傷まないうちに作ってしまおう。今日は簡単な回復薬の作り方を教えよう」
メイはまた目を輝かせ、オルガの話に聞き入った。




