第28話 入学
「入学の受付はこっちだよ」
校門前で止まった馬車から降りたメイとユオはウィルの案内で校庭に立てられた入学受付へと案内された。
受付には、上級生と思われる制服を着た女子生徒が座っている。三人が受付の前に立つと、女子生徒はにっこり微笑んで対応してくれた。
「こんにちは。入学許可証を見せてください」
メイは自宅に届いた入学許可証を受付の女子生徒に出す。女子生徒は入学許可証と机上の名簿を見比べて名前をチェックした。
「はい。確認できました。入学おめでとうございます。あなたも入学許可証を出してください」
受付のお姉さんはユオにも入学許可証を求めた。
つい一時間前まで猫だったユオは、当然入学許可証を持っていない。
ユオは息を吐くように嘘をついた。
「メイの使い魔のユオだ」
ユオは右手の指をパチンと鳴らす。すると、ユオの体は煙に包まれ、煙が晴れるとまた猫の姿に戻っていた。
「あぁ、成る程。人型になれる使い魔なのね。メイさんの学籍に一緒に登録しておくわ」
女子生徒はメイの受付記録にユオのことを書き加えた。
ユオはジャンプして人型に戻る。
そんなユオの大胆な様子を見てウィルははらはらしていた。メイは開いた口がふさがらず、ぽかんと口を開けている。
「じゃあ、僕は在校生の集合場所に行かないといけないから行くね……」
ウィルは心配そうに、そして逃げるように手を振っていなくなった。
メイは受け付けから離れた場所でユオに耳打ちする。
「ユオはいつから私の使い魔になったの?」
「ふん。そんなものになるはずないだろ」
(なぜ、この元猫はいつも偉そうなんだ?)
メイはユオの横柄な態度に顔をしかめた。
校庭に他にもたくさんの新入生が集まって列になっていた。メイとユオもその列の最後尾に並ぶ。
メイはなんだか視線を感じる気がした。あたりを見渡してみると、どうやら皆ユオを見てひそひそ話をしているらしい。
(成る程、ウィルが言っていたのはこういうことか。ユオのやつ、顔が良すぎるからざわつかれてるのか)
「ごきげんよう!あなた、名前はなんと言うの?」
声のした方へ振り返ると三人の女子生徒が立っていた。
真ん中の桃色の髪の女の子が話しかけてきたらしい。
「こんにちは。私はメイ。あなたは?」
「あなたに聞いたのではないわ。隣の男の子に聞いているの。私はティナよ。」
メイは又しても開いた口が塞がらない。
(この女子! 私には用はないってこと!)
メイは怒りを我慢してぷるぷると震えている。
「……」
対してユオはティナに何も返事をしなかった。いつものデフォルトの不機嫌そうな顔をしている。
たまらず桃髪の隣にいた、背の高い女子がユオに文句を言う。
「ちょっと! ティナ様が聞いているのよ! 答えなさい!」
背の高い女子の反対側にいたお団子頭の女子も加勢する。
「そうよ! ティナ様はフィンド王国の西の領地を治めるランデン家の子爵令嬢なのよ!」
「……」
それでもユオは答えなかった。無視で通すつもりらしい。
「ユオ、行こ」
「おう」
メイはユオを連れて避難することにした。ユオの手をとり、離れた列に並びなおす。
桃髪は悔しかったのか、ハンカチを噛んでいた。
しばらくすると、先生と思しき若い男性教員が現れた。つば広の三角帽子をかぶっていて、目に覇気がない。
「はい、静かにして」
しばらくざわざわしていたが、先生が何も言わないので、新入生は静かになった。
「はい、静かになるまで一分かかりましたよ。次からは先生が皆さんの前に立った時点でお喋りをやめてください」
先生はどこかで聞いたことがあるようなことを言った。
「では、これから入学祝いのパーティ会場へ案内します。各学科、専攻ごとにテーブルが分かれていますので、自分が入学申請を出している学科のテーブルに移動してください。一応ネームカードも置いてあるので、自分で探すなり、先輩たちに聞くなりして自分の席を見つけてください。分かりましたね?
はい、移動するのでついてきてください」
少し説明が雑な先生だった。新入生が先生の後を追って、ぞろぞろと移動を始めた。
学科ごとということはウィルとは別のテーブルだ。
メイが不安になってそわそわしていると、ユオが「ん」と言って手を出してきた。
メイはチラッとユオの顔を見てから、ユオと手を取った。ユオの手を握ると、手が温まり、少しだけ安心することができた。猫型もかわいかったけど、人型も手がつなげていいなとメイは思った。




