第27話 ユオの本性?
「メイ、準備はいい?」
ウィルは夏休みで王都へ帰って来ていて、先日のオルガの結婚式にも参列していた。この二年で目が悪くなってしまったのか、眼鏡をかけている。トーヤの制服を着たウィルの肩にはペットの白い毛玉が乗っていた。ケサランという魔法生物で、連れて歩くとラッキーなことが起こるらしい。
「うん! 忘れ物は忘れてみないとわからないからね!」
トーヤの制服を着たメイは、何故か手を腰に当てて威張っている。黒のブレザータイプの制服で、中に臙脂色のセーター、下は膝丈のプリーツスカートといういで立ちだ。髪は、オルガにもらったヘアゴムでポニーテールにしていた。
セヴェリが馬車の後ろに学校へ持って行く大きなスーツケースを積み込んでくれた。
オルガはメイと離れるのが寂しいのか、もう既に泣いている。そんなオルガの肩を抱いて、セヴェリはメイに手を振った。
「メイ、忘れないで。メイはもうヴィーエラの人間だから、何かあったら鏡を見せてね」
セヴェリがまたよく分からないことを言っているとクッカは思った。
「困ったことがあれば、鏡を見せればいいんでしょ。わかったから、もう行くね」
メイは、最後にオルガとセヴェリに抱きついた。
二人ともメイを抱しめかえしてくれる。
「それじゃあ、行ってきます!」
メイは勢い良く駆け出し、馬車に飛び乗った。中には既にウィルとユオが乗っていた。
メイとウィルは家族が見えなくなるまで、馬車の窓から身を乗り出して手を振った。
※
「ウィル! 学校での話聞かせて!」
メイはわくわくしすぎて、テンションがいつも以上に高い。
二つ年上のウィルは、優しくメイに学校のことを教えてくれた。
「学校では、個人の職業やスキルごとに自由に学科を選択して授業を受けることができるんだよ。メイはどこの学科に入るんだっけ?」
「私は剣術学科の魔法剣専攻だよ!」
「そうなんだ! 全ての授業が学年関係なくレベルに合った授業を受けられるから、魔法の授業はメイと一緒になることもあるかもね。
寮は男子寮と女子寮があって、寮母さんが怖いんだ…… ちょっとでも、門限を過ぎると鬼のように怒るんだ…… 先輩たちは寮母さんのことを地獄の門番って影で呼んでる。
あとは、ご飯は三食とも学校の食堂で食べられるんだよ。今日も入学歓迎パーティが食堂であるんだ。ご馳走がたくさん出るから、楽しみにしててね!
他にも、面白いことがたくさんあるんだけど、何か聞きたいことある?」
「トーヤには、猫は多いのか?」とユオは唐突に会話に参加してきた。
「ね、猫がしゃべった!?」
ウィルは驚いて、馬車の椅子に座りなおした。
メイも本当に驚いて動きが止まる。
(先生たちの前ではあんなに普通の猫を装っていたのに……)
「で、どうなんだ? 猫は多いのか?」
ユオは二人の驚きようを全く気にしていないようで、ウィルに再度質問した。
ウィルは、おどおどしながら答えてくれた。
「ね、猫は多いよ…… フクロウとか魔法生物も多いけど……」
「やはり、そうか…… 致し方ない」
ユオは馬車の椅子から、ジャンプして空中でくるんと回転した。
すると、そこにいたのは、ウィルと同じ男子の制服を着た黒髪の美少年だった。
「「えぇー!!」」
メイとウィルの声が揃う。
「ちょっと、メイ…… 説明して……」
ウィルはすっかり腰を抜かしていた。
メイはウィルにユオはしゃべったり魔法を使ったりする不思議な猫だという説明をした。
「ていうか……あなたユオだよね? ユオってほんとは猫じゃないの……?」
「今更何を言っているんだ。猫がしゃべったり、魔法を使うわけないだろ。
メイと出会ってすぐは魔力を殆ど奪われてしまっていて、猫の姿で燃費を節約していたのだ。
この二年間、メイの魔力で大分魔力も回復した。人型でも、問題ない」
メイとウィルはこの事態に気持ちが追いついていかない。
メイが美少年ユオに質問する。
「どうして、今なの?」
ユオの癖なのか、いつものように鼻で笑う。
「ふん。他の猫になめられないようにするためだ。それに学校に行ったら、猫に悪戯をする悪ガキもいるかもしれない。もちろん、返り討ちにしてやるが、そもそも相手をするのが面倒だからな」
ウィルはユオに遠慮があるのか敬語だ。
「面倒を回避するためって…… その見た目だと、より一層面倒が増えそうですが……」
このあと、ウィルの予想が大的中することになる。




