第24話 セヴェリの実家
職業診断の儀式が終わってから、メイとオルガは大忙しだった。
まず最初に取り掛かったのは、オルガとセヴェリの結婚の準備だ。メイとオルガは結婚の挨拶のためにセヴェリの実家を訪ねることになった。
セヴェリの実家は王都にあるヴィーエラ商店という大店である。オルガは知っていたがメイは知らなかったので、セヴェリの実家が大きな屋敷であったことに酷く驚いた。
「え……何これ…… 城?」
メイがセヴェリの実家を見て初めて言ったことがこれだった。
「し! 恥ずかしいから止めて、メイ!」
オルガは、屋敷の大きさに恐れおののくメイをいさめた。
セヴェリの案内で中に入ったメイとオルガを使用人やメイドたちが並んで出迎えた。
メイは小さな声でオルガに話しかける。
「先生……これ、本で読んだことあるやつだ……」
「し!」
オルガはまたしてもメイの言葉をいさめたが、セヴェリは、その様子を見てクスクスと笑った。
客間まで通されると、セヴェリの父親と母親はもう三人のことを待っていた。
「ああ、よくきてくれたね! さぁ、座って座って!」
セヴェリの父親は恰幅の良い男だった。セヴェリと同じ深いグリーンの髪色で口ひげが立派だ。母親の方はスラッとしていて背が高い。セヴェリは母親似のようだ。二人ともオルガとメイを笑顔で歓迎してくれた。
「父さん、母さん、こちら、前に話した。オルガとメイだ」
セヴェリが紹介してくれた。どうやら前もって話を通してくれていたらしい。
「はじめまして、オルガ・コラリと申します。不束者ではございますが、よろしくお願いいたします。こちら、私の娘のメイです」
オルガが丁寧に挨拶をした。メイも「メイ・コラリです。はじめまして」と一緒に挨拶した。
セヴェリの父親と母親は笑顔で挨拶を返してくれた。
「私の名前は、シバ・ヴィーエラ。妻のミイサだ。はじめまして。
詳しい事情はセヴェリが話してくれているから知っているよ。安心してね。大歓迎だから」
シバはにこにこしながら話してくれた。
「本当に、セヴェリったら、いつまでたってもあなた達のことを紹介してくれないから、私もいつになったら結婚するんだって、ずっと気になっていましたのよ。娘だけでなく孫まで一気にできるなんて、なんて素晴らしいのかしら!」
ミイサも笑顔だ。気を使っている訳ではなく、本心で喜んでいるらしい。
「さぁ、もたもたしていられないわ! 結婚式の日取りは決まっているの?」とミイサ。
「メイが8月27日には、トーヤで入学式があるから、その前にしようかと思っているんだ」とセヴェリが、説明する。
「まぁ! じゃあ、もう時間がないじゃない! ランパン! 急いで準備を始めて! 最優先事項よ!」とミイサは大慌てだ。
ランパンと呼ばれた執事長と思しきベテラン執事が、ミイサの指示で一礼して客間を出ていった。
ミイサがテキパキと指示を出していく。
「セヴェリは招待客をリスト化して、招待状の準備をして! あなたは教会の空いている日を確認してすぐに押さえて! オルガとメイは私とドレスの相談をしましょう!」
「母さん、落ち着いて。結婚式のことはオルガだって考えたいだろ?」とセヴェリがミイサの暴走を止めた。
「あらやだ! 私ったら、ごめんなさい先走ってしまって……気を悪くしていない?」
ミイサは申し訳なさそうに体を小さくしてオルガに謝った。
「全然気にしていません。むしろ歓迎して頂けて嬉しいです。分からないことばかりなので、一緒に決めて頂けるとありがたいです」
オルガは笑顔で返した。それに気をよくしたミイサはオルガを気に入り、上機嫌だ。
「今日、この後も時間あるかしら? 急いで、馴染みのデザイナーと仕立て屋を呼ぶから、ドレスのこと相談しましょ! メイちゃんのドレスも作りましょうね! あぁ、楽しみだわ!」
メイはオルガがウェディングドレスを着たら、どんなに綺麗だろうかと想像した。
「オルガさんのご両親は、この結婚についてどう言っているのかな?」
シバが落ち着いてオルガに聞いた。
「私は、両親に勘当されているので、式には恐らく来ないと思いますが、結婚することは手紙で伝えました。返事がもしくれば、結婚式にも来てほしいと考えています」
シバはうんうん頷く。
「分かったよ。それがいいね」
セヴェリの両親はおおらかでとても優しかった。こんな素敵な両親だから、セヴェリもいい人なんだと、メイはしみじみ考えたのであった。




