第20話 メイの誕生日
「うーん。よく寝たぁ」
清々しい朝だった。まだ朝は少し肌寒い季節だが、日が昇るとすぐに暖かくなる。
今日は5月のメイの7才の誕生日だ。
「今日もすごい寝癖だな」
ユオはぐぐっと猫らしい伸びをしながらメイの寝癖の話をした。
メイは自分の部屋のドレッサーの前に座り鏡を見る。髪がヒマワリみたいになっていた。
「確かに芸術的な形になってるね」
メイはブラシをとり、髪を整えた。
黒猫のユオと出会って以来、ユオはいつもメイの側にいてくれた。
初めて森の家に連れて帰った時、オルガに怒られることを覚悟していたメイであったが、オルガは怒らずにユオを受け入れてくれた。
ウィルが進学して、寂しい思いをしていたことを内心オルガも気にしていたのかもしれない。
ユオはオルガの前では喋らない普通の猫として過ごしていた。
なぜオルガの前で喋らないのか、メイが聞いたら、「猫が喋ったらきもちわるいだろ」とユオが言うので、「じゃあなんで私の前では喋るのよ!」と思わずツッコんでしまった。
「よし、きれいになったね」
メイは寝癖を直すことに成功した。
どこからともなく、卵が焼けるにおいがする。
「早く来ないと、メイの目玉焼き食べるからな」とユオが先にメイの部屋を飛び出した。
「あ! ズルい!」
メイも急いで階段を駆け降りた。
一階に降りるとちょうどオルガが焼けたばかりの半熟目玉焼きを、メイのトーストに乗せているところだった。
メイは急いで、食卓の椅子に座ってオルガに「おはようございます!」とあいさつすると、オルガも笑顔で挨拶を返す。
「おはよう、メイ。今日はしっかり寝癖直して来たのね」
「いただきます!」
メイは大きな口を開けてトーストを食べ始めた。
ユオは横で嫌そうな顔をしながら煮干しを食べていた。
メイの髪の毛に半熟卵がつきそうになるので、オルガは慣れた手つきでメイの髪の毛を三つ編みに結った。
それからオルガもメイの向かいに座って、卵の乗ったトーストを食べ始めた。
「先生、今日が何の日か覚えてる?」
メイは朝からわくわくしている。
「当たり前だろ。今日はメイの7才の誕生日だ。おめでとう」
オルガは笑顔でお祝いの言葉を言ってくれた。メイは何とも言えない満たされた気持ちになり、自然と顔が緩んだ。
「えへへ。ありがとう」
「昼ごろ、薬屋が来るから、3人でお祝いをしようね。薬屋がとびきり美味しいケーキを買ってくるって言って張り切っていたよ」
最近では、オルガとセヴェリの仲はかなりいいようにメイは感じていた。
二人で話しているところに、メイがこっそり近づいてみると、オルガはぱっと顔を赤らめて、セヴェリと距離を取るのだ。非常に怪しい。
結婚するのも秒読みに入ったのかもしれないとメイは思っていた。
「セヴェリに会えるの楽しみ! また、たくさん話したいです! ごちそうさまでした! お昼になるまでユオと遊んできます!」
※
「いっくよー!!」
メイは木の枝を手に持ち魔法の練習中である。
朝食を食べ終わったメイは森の外れにある川まで来ていた。大きな岩がたくさんあり、的にしやすいのだ。
メイの頭上に五個の水の球が浮かんでいる。
メイが木の枝を一振りすると、水の球から高圧力の水が勢い良く吹き出し10m程先にある岩に穴を開けた。
いつも練習の的にしているのか。岩は既に穴だらけだった。
「どう! 上手になったでしょ!」
メイは得意気にユオを見た。ユオは日当たりの良い岩の上で丸くなり、大きな欠伸をしている。
「まぁまぁだな。せっかく五つも展開できるようになったのだから、一つの的を狙うのではなく、別々の的を狙って使えるようになった方が実戦では有用だろう。まぁ、そこまで考えが至らない点で、まだまだお子ちゃまのお遊びの域を出ていないといったかんじか」
「むきー!!」
ユオの小馬鹿にした態度に、メイは怒り心頭である。
「そんな事言うなら、お手本見せてよ!」
「ふん」とユオは鼻で笑って、自分の頭上に十個の水球を出す。そして一気に射出して、九つは周りにある岩に当てて穴を開け、一つは茂みに潜んでいたうさぎの脳天を貫いた。うさぎは咄嗟に逃げようとしたが、ユオの水魔法が逃げるウサギを追いかけて仕留めていた。
「今日の昼めしに間に合うように血抜きしといてくれ。私が仕留めたのだから、必ず私の分の食事も用意するのだぞ。毎回煮干しじゃ味気ない」
そう言うと、ユオは温かい岩の上でコクコク眠り始めた。
ユオと出会ってから、メイはユオから魔法の指導を受けるようになっていた。初めてユオに会った時に使っていたアイテムボックスを自分も使えるようになってみたかったからだ。
オルガから薬を作る指導もされていたが、こちらは伸び悩んでいた。せいぜい低級ポーションか中級ポーションを作るくらいはできるようになったが、オルガのような強力な薬を作ることはできなかった。挑戦はするが、成功しないことが続き、少し心が折れてしまったのだ。
そんなメイをオルガは優しく励ましてくれた。
「低級、中級ポーションでも食っていくには十分な実力だ。薬師ギルドや医局なら仕事に困ることはないだろう。子どもでここまでできるのだから十分すごいことなんだよ」と。
それでも、メイは物足りなさを感じてしまう。
それに反して魔法はめきめき上達しているのが自分でも分かるから、やってて楽しいのだ。
「よーし!次は別々の的を狙って練習してみるよ!」




