第2話 先生と弟子
「ままぁ」
美しいブロンドの髪に黒い瞳という珍しい組み合わせの女の子。親の話では先日1歳になったばかりだと言う――その赤子が始めてオルガに言った言葉がこれだった。
「ママじゃない」
オルガはしゃがみこみ、目線を合わせて赤子に諭すように言った。
——お前のママは私じゃない。私の嫌いな、あの女だ。
「ままぁ」
赤子は分からないのか、オルガをまだママと呼ぶ。
——あの時、アルトと上手くやっていれば、私にもこんなにかわいい赤ちゃんがいたりしたのだろうか。
そんなことをオルガは考えていた。いつの間にないものねだりのような考えを抱いていた自分が馬鹿らしくて、オルガはフッと笑った。
「ママじゃない…… そうだな…… 先生とでも呼びなさい」
「しぇんしぇー?」
赤子は——これで合ってる?——とでも言いたげに首を傾げる。1度言われて覚えるとは、なかなか物覚えの良い赤子だ。
「そうだ、先生だ」
赤子は——しぇんしぇ、しぇんしぇ——と嬉しそうに繰り返した。
赤子の笑顔が愛らしくて、オルガはついつい頬が緩んだ。
「この家に来てから、まだ何も食べてなかったね。パン粥でも作ってあげようね」
オルガは昨日夜なべして作ったおんぶ紐で赤子を背中に背負いキッチンに立った。




