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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第1章 先生と弟子

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第18話 セヴェリの戦略【番外編】

「さっきは、ありがとうございました。おかげで命拾いをしました」


 セヴェリは少し冷静さ取り戻していた。しかし、オルガと呼ばれた女性を諦める気はこれっぽっちもなかった。


 オルガの隣にぴったり座っている不愉快な男。

 この男は、オルガと付き合っていると言っていた。オルガも否定していなかったし、これだけ近くに座っている様子を見ると嘘ではないのだろう。


 (絶対にオルガを振り向かせてみせる……)


 セヴェリの心の中では、小さな炎がめらめらと燃え上がっていた。


 (この男、さっきは分からなかったが、顔もいいし体つきもいい。見た目で自分に勝ち目はない。でも、俺にはトーヤ大学で首席を取った頭脳がある。戦略的に動くのだ!)


 セヴェリは心の中で自分に言い聞かせていた。


「気にしないでください。困った時はお互い様です」


 オルガは、セヴェリに優しく微笑んだ。


 (本当に天使のような人だ)


「自己紹介させてください。王都のビーエラ商店のセヴェリと言います。お名前をお聞きしてもいいですか?」


 邪魔な男が会話に入ってきた。


「アルトだ。王都のギルドで冒険者をしている。職業診断では勇者と診断されている」


「あぁ、そうですか。」


 素っ気なく答えたが、内心ではかなり焦っていた。


 (ゆ、勇者だと!?伝説の職業じゃないか!!)


「それで、あなたのことも教えてください。」


 セヴェリはオルガを見つめる。


「私はオルガと言います。同じく王都のギルドで冒険者をしています。職業は薬師です」


 オルガの返答にセヴェリは驚いた。

「え? あなたも冒険者なんですか? 私はてっきり薬を作って商売をされているのかと思いました!」


 オルガは少し困った顔で笑った。


「よく言われます…… アルトのパーティに入れてもらって、パーティの回復係をしたり、簡単な攻撃魔法も一応使えます。あとは医療のスキルも持っているので、それを応用して敵の弱点を見つけたりとかしてます」


「へえ! すごいですね!」


 お世辞ではなく、本当にすごいと思った。そもそも、非戦闘職の人が冒険者をしているなんて始めて聞いた。きっとはたから見ただけでは分からないような苦労があるのだろうとオルガの表情から簡単に想像することができた。


「あ、僕はロンと言います。黒魔道士で冒険者です」


「あ、よろしくお願いします」


 馬車の御者をしている人間がいたことに、その時始めて気がついた。





 オルガ一行はセヴェリを王都の入口まで運んでくれた。


「本当にここでいいんですか? 店まで送っていかなくて大丈夫ですか?」


 オルガはセヴェリを心配しているようだ。


「ありがとうございます! でも、ここからは自分で帰れますから」


 セヴェリはオルガの手を半ば強引につかんで、握手した。


「ぜひ、今回のお礼をさせていただきたいのですが?王都の冒険者ギルドに行けば、また会えますか?」


 アルトがオルガとセヴェリの間に割り込み、セヴェリを睨む。


「お礼とかいいから。本当にもう会いに来ないで」


「もう、アルト。失礼だよ。そんなこと言っちゃだめ」とオルガは小声でアルトをたしなめる。


「普段は冒険者ギルドにいます。行商の際の護衛も承っていますので、お気軽にご依頼ください」


 オルガはにこやかに答えた。


「それはありがたい! では、これで失礼させていただきます。今回は本当にありがとうございました」


 セヴェリは、オルガたちと別れたあと、急いで銀行に行き、金をおろした。ロンが貸してくれたマントを羽織っていたが、セヴェリはほぼ裸である。そんな怪しい男が身分証を持っただけで現れても対応してくれるのは、ひとえにヴィーエラ商店の力によるものだろう。

 銀行はセヴェリがヴィーエラ商店の跡取り息子だということを分かっていて、すぐに応接室に通してくれたし、簡単な軽食と着替えまで用意してくれた。


 (こんなところで父親の偉大さを感じるとは思わなかったな……)


 セヴェリは実家の店のある方角を見て、父親の幻影に感謝の祈りを捧げた。


 (待っててください!オルガさん!)


 セヴェリは王都の比較的安い宿に部屋を手配し、薬屋を始めるための準備を始めた。

 王都にある薬屋を片っ端から調べ、商品の種類やどんな薬が売れるのかを調査した。


 (だめだ! こんなことじゃオルガさんの役には立てない!)


 王都には、もう既に多くの薬屋が存在したし、恐らくそれを卸している卸業者や薬師がいるのだろう。


 (新規販路を開拓せねば!)


 セヴェリが当たったのは、大学時代の級友たちだった。

 一番に訪ねたのは、城内で兵士の治療をする医者の仕事についたラーカリという友人だった。

 ラーカリは中等部を卒業して以来会っていなかったセヴェリが訪ねてくれたことを喜んだ。そして快く相談にのってくれた。


「どんな薬が欲しいかかぁ…… そうだな。飲みやすい薬がいいかな」


「飲みやすい薬?」


 ラーカリは頷く。


「王城勤めの兵士たちって、あんなにでかい体なのに苦い薬とか結構嫌がってさ。自然治癒でもいいんだけど、傷口から感染症になることもあるから、薬しっかり飲んでほしいんだよね。いかつい顔して、苦いの苦手とか笑っちゃうだろ?」


 そういえば、盗賊に襲われた時にオルガが飲ませてくれた回復薬はさわやかな味で飲みやすかった。


「いや、凄く参考になった! ありがとう! 飲みやすい薬だったら、城で買ってくれるか?」


「上司に掛け合っておくよ。用意できたら試供品で何本かほしいな」


「ありがとう!」


 セヴェリは軽快な足取りで王城をあとにした。


 (オルガの薬をいかす方法はこれだ! 他の製品との差別化。価格帯、客層を他の業者と変えてやるんだ!)



 次に向かったのは、同じくトーヤ大学時代に知り合った友人のところだ。北部のルンタ地方を治めるロスカ伯爵の次男のルミだ。

 今はちょうど社交の季節で王都にある別邸にいると、手紙をもらっていたのだ。


「おお! セヴェリ! 久しぶりだな! とうとう実家を継ぐ気になったのか?」


 学生時代のセヴェリを知るルミはニヤニヤしながら、応接間でセヴェリを出迎えた。


「まぁ、そんなところだ。連絡もなく来て悪かったな。ちょっと相談があるんだ。薬屋を始めようと思うんだが、どんな薬なら貴族は買うと思う?」


 ソファに座っているルミは足と腕を組み考えた。


「うーん…… 薬屋の領分かどうか分からないが、化粧品とかなら売れると思うぞ。肌が綺麗になるとか、髪が綺麗になるとか。貴族の女は美しくなることに関して財布の紐が緩い。今は外国産の化粧品が主流だから、自国で生産するようになったら、送料も安くなるしいいんじゃないか?」


「化粧品か…… 確かに肌の治療薬なら化粧品としても販売できそうだな!」


 ルミはニヤリと笑う。


「金の匂いがする。うちの領にも1枚かませろ。最近うちの領でかなり香りの強いバラができたんだが、香りが強すぎて少し使いにくかったんだ。だが加工品にするならちょうどいいかもしれない。そのバラを使って、うちの領もついでに宣伝してくれ。バラの材料代と使用料で売り上げの1割をもらおう。そしたら、社交の時にセヴェリの商品を他の貴族に宣伝しといてやるよ」


 セヴェリもニヤリと笑った。


「よし、それで手を打とう。契約書を用意する。バラはいつもらえる?」


「今、この家にサンプルが何株かあるから、好きなだけ持って行けばいい。あ、そういえばこないだのパーティーでセヴェリの話をしたら、何人か貴族の令嬢がセヴェリのこと紹介してほしいって言ってたぞ。いいね。モテる男は自分から探さなくても女の方から寄ってくるんだから」


 セヴェリは実はかなりモテる方だった。身長は高い方だったし、貴族ではなかったが、大店の跡取りで、その辺の貴族と比べても遜色のないほど裕福だったためか、学生時代から女で困ったことは一度もなかった。


 セヴェリはルミの誘いを丁重に断った。


「今は、そういうのはいいんだ。今は仕事に集中したいから」


 オルガに振り向いてほしいという下心は顔に出さないように努めた。


 ルミは「ほんとに変わったな! 学生の頃とは大違いだ! やっと大店の跡取りとしての自覚が芽生えたんだな!」と言って驚いた。


 そういう訳ではなかったが、あえて否定はしなかった。








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