第17話 セヴェリとオルガの出会い【番外編】
「俺……ここで死ぬのか……?」
セヴェリは、森の中でパンツ一枚であおむけに寝そべり、天を仰いでいた。
なぜこんな状況になったかを説明するためには、しばらく時をさかのぼる必要がある。
※
セヴェリはフィンド王国の王都にあるビーエラ商店という大店の長男だった。
周りはセヴェリが、大店を継ぐことを期待していたがセヴェリ自身は商売には全く興味がなかった。
職業診断の儀式では、商人の診断結果を受け、がっくり肩を落とした程だ。
そんなセヴェリを見た、セヴェリの父親は焦りを感じたのか、セヴェリをトーヤ大学初等部の商業科に入学させた。
家業を継がせるなら、自分の店で見習いをさせても良かったのだが、全くやる気が無さそうだったので、ひとまず家から出すことにしたのだ。
学校で先生や級友との交流を通して、商売の楽しさに目覚めてくれ……
それが、セヴェリの父親の願いだった。
父親の願いも虚しく、セヴェリは初等部を卒業し、中等部も卒業したが、商売の楽しさに目覚めることはなかった。頭は悪くなかったので、成績は優秀だったが1番重要なやる気は湧いてこないのだ。
父親は高等部には進学させず、セヴェリを実家へ連れ戻した。その時、セヴェリは十五歳になっていた。
「私は少しお前を甘やかし過ぎたようだ。セヴェリよ。馬と馬車と金は用意してやる! 一人で儲けを出せるようになるまで、帰ってくるな!」
「へ?」
セヴェリにとっては、寝耳に水であった。フィンド王国の平均月収半年分くらいのお金、馬一頭、小さな荷馬車を持たされて、実家を追い出されてしまったのだ。
セヴェリ父の『獅子の子落とし』作戦、決行である。
追い出されたセヴェリは、仕方がないので行商を始めた。何が売れるのか分からなかったので腐ったり傷んだりしない物を王都で少しずつ仕入れ、馬車で2日かかる王都の隣町まで売りに行くことにしたのだ。馬の餌代や自分の食料、仕入れた品の金額を帳簿の支出の項目に書き入れ、いくらで売れば儲けが出るのか考えながら馬車を走らせた。
一応、大学で商業について勉強していたので、始めてさえしまえばどうとでもなるとセヴェリは高をくくっていたのだ。
しかし、セヴェリには絶対的に足りないものがあった――経験だ。
セヴェリが馬車を走らせていた森は盗賊が出る森だったのだ。
案の定、森に入ってすぐに盗賊に襲われた。
殺されこそしなかったが、馬と馬車とせっかく仕入れた商品が盗られた。資金の多くは王都の銀行に預けてあったが、身ぐるみをはがされ、暴力をふるわれ、身動きがとれなくなってしまった。
足が折れているのか、左足がいつもとは違う方へ曲がっていて、酷く痛んだ。
意識もなんだか朦朧としてきた。このままここにいれば、魔物の餌になってしまうだろう。
「俺……ここで死ぬのか……?」
※
「大丈夫ですか?分かりますか?」
どれくらいの時間がたっただろう。意識が飛んでいた。
肩を叩かれて目が覚めると、赤毛に緑色の瞳の美しい女性がセヴェリを心配そうに覗き込んでいた。
ついに、女神様がお迎えに来たのか?
セヴェリはまだ意識が朦朧としていた。
その人は目を覚ましたセヴェリを見て急いで治療を開始した。カバンの中から、液体の入った小瓶を出して、セヴェリをゆっくり起こし、液体を飲ませる。
するとどうしたことだろう。痛みがすっと消えて、変な方向を向いていた足が自然と元の形に戻ったのだ。
「大変でしたね。もう大丈夫ですよ。私の作った薬はよく効くんです。怪我はこれで治りましたから、安心してください。アルト、この人を馬車まで運んで」
その時、セヴェリは自分の頭上で鐘の音がなったような気がした。
「綺麗だ……」とセヴェリが小声で呟いた。
「え?どうかしましたか?」
その人は聞こえなかったようで、セヴェリに聞き返した。
「結婚してください」
(あぁ、女神様。やっと分かりました。自分が商人に生まれた理由は、この人に出会うためだったんですね。この人が作った薬を売るために、自分は商人という天職を授かったんだ)
セヴェリはその人の手を握った。
「あなたは俺の運命の人だ。結婚してください」
手を握られた人はびっくりして固まってしまった。
「ちょっと離れろ」
一人の男が間に割り込んできた。
(誰だ、この男は。邪魔するな)
セヴェリは男を睨んだが、男も怒っているようだった。
「オルガは、俺と付き合ってるから他をあたったくれ」
そう言うと、男はセヴェリをひょいと抱えて馬車にドスンと落とした。




