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天才薬師と弟子  作者: ポムの狼
第1章 先生と弟子

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第15話 オルガの葛藤

 七才になったオルガとアルトは職業診断の儀式を受けた。


 オルガの診断結果は薬師で、オルガの両親は大喜びだった。

 職業診断の儀式では他にも、こんなスキルがあることが分かった。


【調合】

 特定の素材を組み合わせて、薬を作ることができる。

【薬品改良】

 調合を続けていると、薬品を改良する方法が分かるようになる。

【健康診断】

 直接見た生き物の不健康なところが、すぐ分かる。



 両親たちが特に驚いたのは、【薬品改良】のスキルだった。オルガの両親は、もとはトーヤ大学で病気や薬品の研究者をしていたのだが、こんなスキルを持った薬師には出会ったことがなかったからだ。


 オルガも尊敬する両親の跡を継ぐことができると胸を躍らせていた。









 一ヶ月遅れて、アルトが職業診断の儀式を受けた。

 アルトの職業診断の結果は勇者だった。


 勇者は100年に1度しか出ないと言われている職業だった。


 エテランの街は、勇者が我が街から出たことを祝って祭りを開催した。アルトも皆に祝福されて、嬉しそうにしているように見えた。





 祭りも夜になり、アルトが見当たらないことが気になったオルガはあちこち歩き回り、街のはずれの砂浜にひとり座って海を眺めているアルトを見つけた。


「アルト…… どうしたの? お祭り終わっちゃうよ」


 オルガが心配して声をかけたが、アルトは海を見るばかりで、何も言ってくれない。


「アルト、何かあったの? 困ってることがあったら言って。私、いつもアルトに助けてもらってるから、私もアルトの力になりたいの」


 オルガは根気強くアルトに声をかけた。








「怖いんだよ……」


「え?」


「勇者になるのが怖いんだ…… 勇者はまず冒険者にならなきゃいけないだろ…… 大好きなこの街も出なくちゃいけない…… 家族にも、友達にも会えなくなる……

旅の途中で死んでしまうかもしれない……

不安ばかりが、頭に浮かんでくるんだ……」


「アルト……」


 オルガはアルトが気の毒でならなかった。いつも笑顔で元気いっぱいのアルトが今にも泣き出しそうな顔をしている。見ているオルガも辛くなった。


「なぁ、オルガ。一緒についてきてくれないか?」


 アルトは涙を流しながらオルガに言った。


 ――アルトは、私が困っていた時、いつも助けてくれた。


 オルガは決意する。


「分かった。私がアルトのサポートをする。アルトがどんな怪我をしても、私が絶対に直してあげるから安心して」


「ありがとう……」


 アルトはぽろぽろと涙を流したので、オルガは優しくアルトを抱きしめるのだった。





「冒険者になるだと!!?? ふざけるな!!!」


 いつも厳格なオルガの父親が怒りで顔を真っ赤にさせて机を叩いた。

 オルガはアルトと一緒に冒険者になることを、両親に伝えたのだ。


「勇者に薬師がついて行くなんて無謀よ。住む世界が違うの。諦めなさい。お父さんも、あなたが病院を継がないことを怒っているんじゃないの。あなたに危ない目にあってほしくないから言っているのよ。わかるでしょ?」


 オルガの母親が諭すように言った。


「オルガ。お前のスキルは普通の薬師とは違う。【薬品改良】はかなり特別なスキルだ。お前は国一番…… いや、大陸一の薬師になれる! たくさんの人のためになれるんだ!」


「それでも、私は冒険者になります!」

 オルガは決心を曲げなかった。


 しばらく、喧嘩が続き、オルガの父親が先に折れた。


「冒険者になるなら勘当だ! 二度帰って来るな!」


 父親は怒って自室にこもってしまった。母親も頭を抱えて、どうしてこんなことになってしまったのか嘆いていた。

 オルガはそんな両親を見て、申し訳なさで胸が締め付けられる思いだった。





 旅立ちの日、王都の冒険者ギルドから新人教育のためのベテラン冒険者が2人派遣されてきた。新人冒険者はそのベテランたちとパーティを組んで旅をし、研修してもらうのだ。


 勇者の見送りに街中の人が集まったが、その中にオルガの両親はいなかった。


 オルガは涙をこらえて、アルトの後ろをついてを歩いた。

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