第13話 初めての契約
「では、契約から始めよう。どういった契約がいいだろうか……」
黒猫は首を傾げて、何かを考えている。金色の目を細めて、どこか遠くを見ているような顔をしている。
「契約って、もしかして契約魔法?」
メイはオルガにされた話を思い出して聞いてみた。
「そうだ」
「やったことないんだけど、それってどうやるの?」
「まず、紙に契約事項を書き出す。術者と契約者が互いに問題がないか確認する。今回は、私が術者で、お前が契約者だ。ここまで分かるか?」
猫はメイの目を見て丁寧に説明してくれた。
メイも不思議と猫の金目から目が離せなくなり、話に聞き入ってしまった。
「うん、分かる」
「最後に術者が契約者に、契約魔法を施したら、契約完了だ。難しいことはないだろ?」
猫はニヤリと笑い、メイは頷く。
メイの反応を見て、了承だと判断した猫は軽々と跳躍し、空中で一回転した。
すると、回転したところから紙と羽根ペンが現れた。猫はすとんと地面に降りたが紙と羽根ペンは宙を漂ったままで落ちてこない。
メイはびっくりして、すぐに猫に聞いた。
「今のなに!? なんで、何も無い所から紙と羽根ペンが出てきたの!?」
猫はまた首を傾げる。
「ん? あぁ、人間では使う者はなかなかいなかったか…… アイテムボックスというスキルだ。異空間に物を保管することができる。魔法カバンと似たような仕組みのものだ」
「すごい!めっちゃくちゃ便利だね!」
猫は前足で耳をかいてから、話をもとに戻した。
「では、契約事項を決めていこう。お前にとって友達とはどういった存在なんだ? どんな事をして欲しい?」
メイは両腕を組んで考えた。
「そうだなぁ。特にして欲しいことがあるわけじゃないんだけど…… 寂しい時には一緒にいてほしいかな。あと、困った時は相談にのってくれて、助けてくれるともっと嬉しい!」
猫はふむふむ言いながら、羽根ペンに文字書かせていく。紙と羽根ペンは未だに宙に浮いていて、メイが言ったことを自動でメモしているようだ。
「他に必要なことは?」と猫。
「ないよ。大丈夫」とメイは頷いた。
猫はまた不気味に笑った。
「では、次にこの契約を守るための対価の提案だ。お前の魔力を毎日分けてもらうぞ」
「それだけでいいの?どうやってやるの?」
「私の手とお前の手を合わせるだけでいい」
猫が右前足をあげて、招き猫のような格好をした。
「簡単だね。いいよ。契約魔法だから、守らなかったら何かあるんだよね?」
猫は頷いてから、契約のレベルを確認する。
「4段階目の契約でどうだ? 私がお前の決めた友達ではないような素振りをしたら、お前の好きなタイミングで友達の任務を遂行するように命令できるんだ。命令されると、私は自分の意思とは関係なく、契約の内容を実行する」
「ちょっと乱暴じゃない? 私は良いけど、猫さんはいいの?」
「問題ない。よし、では利き手じゃない方の腕を出せ」
メイが左手を出すと、メイの左手首に猫が右前足を乗せた。
宙を飛んでいた紙がひらひらと落ちてきて、メイの手と猫の前足が重なったところに被さった。
「肉球ぷにぷにだね」
メイは感じたことをすぐに口に出す。
「余計なことを言うな。集中が途切れる」
猫はメイには聞こえない小声で呪文を唱えている。
猫の口がもにょもにょ動いているのかわいいなとメイが呑気に考えていると、猫の口の動きが止まったのと同時に紙の下が赤く光った。
「熱!」
メイは左手首に熱さを感じ、腕を引っ込めた。手でフライパンを触ってしまった時の感じに似ていた。左手首を見ると赤い火傷の様な状態で、文字と記号が焼き抜けられていた。
「もう!痛いなら先に言ってよ!」
メイは頬を膨らませて怒ったが、猫は全く気にしていないようで後ろ足で耳を掻いた。
「これから、よろしくな。そうだ、名前を聞いていなかったな」
「メイだよ…… 猫さんの名前はあるの?」
メイは左手首をさすりながら答えた。
「ユオだ」
猫は大きく伸びをした。




