第1話 消えた不滅の勇者
百年前、史上最強と謳われた「不滅の勇者」は、最後の戦いの後に忽然と姿を消した。
時は流れ、職業の最高位はSが限界となり、彼の存在はおとぎ話と化す。
しかし、彼は生きていた——不老不死のまま。
偶然、聖女となった王女を救ったことで、Eランクと鑑定された「謎の旅人」として王城に迎えられる。
誰も知らない。彼こそが、世界で唯一の∞ランクの男だということを——。
百年前——
この世界には、「不滅の勇者」と呼ばれる男がいた。
彼は人間でありながら、あらゆる種族——人間族、エルフ族、ドワーフ族、竜人族、果ては魔族にすら認められた、史上最強の存在。
その職業は、当時の鑑定術では測定不能——∞(トランセンドクラス)。
大陸規模の戦争すら、たった数日で終わらせる力を持っていた。
病にも老いにも侵されず、唯一の死は「殺されること」のみ。
しかし、最後の大戦の後——
彼は突如姿を消し、遺体も痕跡も残らなかった。
歴史から名が抹消され、やがて伝説は作り話と化した。
——そして百年後。
北方の森を一人歩く黒髪の青年。
二十代前半にしか見えない若々しい顔立ちだが、その瞳は深く、長い時を見てきた者の光を宿している。
「……百年か。随分と変わったものだな」
独り言を漏らしたその時——
――ギャアアアッ!
遠くから悲鳴。視線を向ければ、護衛を伴った馬車が黒装束の集団に襲われていた。
その中心には、金髪の少女——白いドレスを纏った気品ある少女の姿。
青年は一瞬で距離を詰める。
次の瞬間、敵の武器は全て弾き飛ばされ、黒装束たちは地面に伏していた。
「彼女に指一本でも触れるな」
淡々と告げるその声に、誰も反論できなかった。
「……あなたは?」と少女が問う。
「ただの旅人だ」青年は微笑んだ。