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臨界《リミット・ドライヴ》

 入道雲は雷を纏い広がる。まるで世界を飲み込むような暗雲に、地上は青空の輝きを遮られていく。


 そんな、暗闇立ちこめる地上にできた一際巨大なクレーター。


 そのに中心に出来上がった血溜まりの中で、俺は空を見上げていた。俺を地面に叩きつけた怪物。雷を纏ったその姿を。


 またしてもこの構図。まるで人と自分との格の差。残酷なまでの境界の差を様々と見せつけるように、竜は俺を見下ろしている。


 しかし今回、伸びる手はない。右手は消えた。他の四肢も動かず。そして一撃を受けた頭から血が止まらず、視界は赤く染まっている。

 動かない身体では確認できないが、深刻な状態なのはまず間違い無いだろう。


 しかし、この状態でも頭は働く。むしろどんどんクリアに、冴え渡っていくような感覚。


「やっ、、とか……ゴホッッ!!」


 久しく感じていなかった、この感覚。

 あぁ、これは───合図だ。

 

 魔力

 それは突如、星に現れた未知のエネルギー。

 

 魔力器官。

 それは空気中の魔力を取り込み、蓄え、自在に放出する。“第二の心臓”。


 魔法を自由自在に操るのことができる人間は皆、強力な魔力器官と優れた頭脳を合わせ持つ。


 どちらも欠けてはいけない。例え無尽蔵の魔力を蓄えれる魔力器官を持っていても、深いイメージ能力。魔法構築能力。緻密な魔力操作。そして何より常軌を逸した集中力が無ければ、決して一流には届かない。


 俺は並外れた魔力器官を持って産まれたが、それを扱うだけの頭脳が決定的に足りなかった。


 しかし、そんな俺でもある一定の条件下では魔法が魔力器官のスペック通りに操れる。


 その条件は身体が死に限り無く近づく時。

  

 極限、故に最良。

 俺にとって雑念の全く無い。ただひたすらに目の前に生に熱中する。産まれた瞬間の赤ん坊が空気を求めるように。


 そんな真っ白な状態でしか、俺は大規模魔法を行使できない。


 その兆しは見えた。が、未だ身体は癒えない。

 まだ俺には雑念が残っているらしい。


「もっ、とだ……もっ……と」


 人は地べたを這いずり血反吐を吐いてからが本領。

 痛みに耐え。感情を飲み。擦り減っていく身体。


 それでも尚、目の前の物を絶対に壊したい。手に入れたい。喰らいたい。守りたい。そんな原始的で純粋な欲望を持ち。立ち上がった人間だけが比類なき進化を遂げる。


 今が、その時だ。

 

 再び、大地に雷が落ち。雷鳴が轟く。

 俺の元へと降りてきた竜。そして言った。


「さて、勇者。今より選択肢の時だ。一つ、魔力の器を渡し、母の元へ還る。二つ、母の使徒となり、星を背負うか。二つに一つ。選べ、勇者よ」


 並べられる言葉たち。しかしもう、俺の頭には何一つその言葉は入っては来なかった。


 今感じるのは身体中に駆け巡る魔力の流れ。その脈動。

 

 身体から莫大な白銀の魔力が放出され空を穿ち蒼天を取り返す。魔力は四肢の痺れを無くし、右腕を生やし、頭の傷を癒した。ゾーンに入った脳は、何かを求めるように肉体へと急速に信号を送る。


「この魔力……そうかこれが器の力か。成程、母はこの力の源を求め、勇者としてここへ招き入れたのか」 


 またも声が響く。しかし俺の脳はもう、その声を情報として捉えていなかった。右から左からへと抜けていく雑音でしかない。


 脳にはもう、たったひとつの渇望しかなかった。

 

 常人はこの感覚をなんと呼ぶのかわからない。


 しかし俺はこう呼んでいる。


「【臨界】」

 

 爆裂する地面。衝撃で世界が揺れる。

 轟音が駆け、視界が光の流れに乗り、超速で処理される景色。


「貴様…………」


 背後から聞こえる、雑音に俺は振り返る。

 すると魔力を帯びて抉れた道と、クレーターの真ん中でこちらを見上げる竜。

 竜右頭部が抉れ、その頭にはついていた筈の竜角はすでに無かった。


「ハッ、案外脆いんだな。この角」  


 俺の手のひらに握られている黄金の竜角を砕く。


「くだらない事言ってないで、もっと俺を楽しませろ。マザコンが」


 交差する目線。静まる世界。高まる緊張感。


 竜の背負う魔法陣が廻りだす。描かれた12枚の花弁のうち、七枚が散る。すると瞬く間に蒼天が星々が浮かぶ夜空へと変わる。


 夜空へと飛翔する竜は言った。


「貴様に二つの選択肢以外の道はない。母の言葉を拒否するのならば運命は一つ────排除する」


「お前じゃ俺を縛れねぇよ。第三の選択肢だ。堕ちろ」


 互いから溢れ出る白銀と黄金の魔力が混ざり合うように衝突する。

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