雷竜
ぐるぐると回る視界を整える。竜に投げ飛ばさた、俺は凄まじい勢いに流されて地上を一望できるほどの上空へと到達する。しかし未だ勢いは止まらない。
身体はぐんぐんと上へ進んでいく。
それに俺は抵抗せず身を任せ、改めてこの世界を見渡した。
「おお、これは壮観。入った時も思ったがスケールが段違いだ」
ボス部屋は大抵、ボスのコンセプトに合った地形で構築されているが、この場所はまるで……本物の惑星のようだ。
先の見えない高さ、広さ。空気や匂い。魔力量に大きな違いはあれど、視覚以外の俺の五感の全てが、ここは地球と遜色ないと判定している。
世界構築。まさかダンジョンがこんな馬鹿げたスケールのものを作れるなんてな。
あの竜……いやさっき母がどうとか言ってたな。
となると、あの竜の上がいるのか。そいつがこの作ったのか? 他にも、勇者やら魔力やら意味がわからない事をうわごとのように繰り返していた。
どの発言も気になる。しかし、この思考の時間は、もう終わりらしい。
視界の端に一つの巨大な姿が映し出される。
それは俺に一直線、まるで雷のように超速で迫る、生命体。雷撃を纏った黄金の竜。
「なるほど。空中で身動き取れない俺をサンドバッグにしようってわけか。面白い」
すでに地上は遥か彼方。
勿論、こんな空中での戦闘の経験はない。だが負けるつもりはもっと無い。
俺は体勢を整え。体の勢いを完全に止める。
直後、頭上に刺す影。顔へと振り下ろされる竜爪。
「二度目だ。そう簡単に捕まらねぇよ」
俺は空中に展開した魔力防壁を蹴りつけ後ろに飛び、竜の爪を躱す。すると目の前にバリバリと空気を裂く雷撃が通り過ぎ、地上へと落ちていった。
地上には、ここからはっきり目視できる程に巨大なクレーターが出来上がっていた。
「コイツは当たれば火傷するなんてもんじゃねぇ、な!!」
再び迫る超速の竜爪を、首を振り身体を左へ逸らして回避する。再び雷鳴が轟くも俺は気にせず竜の懐に飛び込み、腹部に向かって全力の拳を叩き込んだ。
空気が破裂し、巻き起こった烈風が辺りの雲を散らし空を晴天へとかえる。
───しかし。
拳の先からは、血潮をが飛び散り、渇いた金属音が響くだけだった。
竜の腹には傷一つなく。それどころか俺の手首から先が消失していた。消えた拳のあった場所からは大量の血が吹き出してた。
「ハッ、マジかよ……!!」
思わず笑みが溢れた。俺の全力の拳が、ただの肉体強度に敗れ、砕けた。地上の時とはまるで違う。
俺の予想を遥かに超えたその高度。雷を纏うその身体は、まさに金剛不壊。
「先とは違う。この程度で我の鎧は砕けない」
頭上で声が響く。見上げた先。雷撃と神秘を纏った竜がその竜爪を神の鉄槌の如く、俺へと振り下ろした。
「堕ちよ、勇者。選択の時間だ」
上空、約六千メートル。
竜の渾身の一撃を受けた俺は、そこから一気に地上へと巨大な雷撃と共に墜落した。