邂逅
人はいずれ死の先で、進化を遂げる。
◇ ◇ ◇
ダンジョン。
それはあまりに突然に世界中に現れた未知の建造物。
建造物といってもその形は様々だ。しかしその中には必ずゲームやアニメでしか見たことの無い生物、所謂モンスターと呼ばれる存在たちが蔓延っていた。
そのモンスターたちは魔石を、人々は魔力を〜なんてありふれた説明は省く。ただなんやかんやあってこの世界はファンタジー物の世界に様変わりした。それだけ。
そんな世界で俺は、今ダンジョンに来ている。
それも世界に十八しかないSランクダンジョン〈死星の顎〉。
「相変わらず洞穴みたいな入り口からは想像出来ない広さと明るさだな」
ただ明るいのは上層だけだ下層に行くにつれてスキル必須の暗さになる。完全に闇の世界だ。探索者であっても一定以上の能力を持っていないと歩くことすら難しい。
まぁ力を持ってない人間はこんな所に来ないし、来れないが。
何故ならこのSランクダンジョンにはランク制限がある。一定のライン(探索者ランクA以上)に到達していない探索者は入る事すら許されない。
そんな過酷で苛烈な異界に、今から俺は挑む。と言っても二度目だが。前回は110階層のボス部屋ぽい、扉の前で引き返してしまった。理由は飯を食いたかったのと楽しみは取っておくタイプなだけだ。
それで今日の前回の続き。
目指すはモンスターを生み出すダンジョンの核。ダンジョンコアの完全破壊。
そしてSランクダンジョンのボスの撃破。
「一体どんな奴が待っているんだろうな」
前人未到。
迫り来る未知との死闘の予感に俺の心はまるで子供のように踊っていた。
◇ ◇ ◇
〈死星の顎〉 第百十階層
「よし戻ってきたぞ。ボス部屋。エリアボス以外全スキップかましたのにここまで来るのに1時間以上掛かるとは……」
今、俺の目の前あるのは超巨大な扉。高さ四〇メートルは軽くある。
今までの階層と比べても、この層スケールが段違いだ。
それにここは膨大な魔力で満ちている。やっぱりこの先に俺の目的の物がある。
ダンジョンコア。そしてそれを守るダンジョンの主も。
今までのエリアボスモンスターもそれなり強かった。だがこの先にいるボスは扉越しでもわかる。次元が違う。今までの戦闘がお遊びに感じる程のプレッシャー。
一体どんなモンスターなのか。溢れる期待感が俺の身体を、今か今かと無理矢理に突き動かした。
未知への好奇心と心地いい緊張感を抱え。俺は扉へと手を当てる。そして万感の思いと共に扉の中央にある超巨大な魔宝玉へと魔力を流した
すると扉は音を立てて動き出し俺の視界には──常識を超えた光景が飛び込んできた。
「コレは……完全に別世界だな」
目の間に広がる。どこまで続いてるのかわからない地平線。まるで宝石のようにキラキラと鮮やかに光を反射する地面。高く、透き通る蒼穹と巨大な入道雲。
そして──天と地の境目に鎮座する。
太陽の如く眩い黄金の輝きを纏う一頭の黄金竜。
目算の体長は約25メートル前後。天を貫かんばかりの巨大な双角。背中には12枚の翼。そのさらに後ろに展開される七色の円環──いや巨大な魔法陣を背負った竜。
「ふむ……。竜ってより神のが近そうだな」
桁違いのスケール。辺りには今まで感じた事もない程の人智を超越した魔力が満ちている。
109階層までは暗くゴースト系のモンスターが多かった。 だがここは正反対。明らかに異様だ。根本から何かが違う。
ダンジョンには必ずコンセプトが存在する。道中のモンスターがゴースト系であれば、ボスもゴースト系のはず。今まで数多のダンジョンが攻略されたが、特殊ボスの情報はたったの数例。それもどれも下位ランクのダンジョンだけ。
しかし、あの竜は明らかにゴーストではない。見ればわかるほどに、いや見なくてもわかるぐらいに魔力に、生命力に溢れている。
「流石は前人未到のSランク。常識ってのは通用しないわけか」
何かがあるんだろう。今まで攻略されたSランクは七つ。その中にコンセプトを外れたボスが出るなんて情報は無かった。開示されてないと、言われればそれで終いだが、わざわざ探索者協会が依頼先の俺に攻略情報を隠す理由は無い筈だ。
「となると──ここは完全なイレギュラー。あの竜は特殊ボスってところか」
面白い。これは面白い。
Sランクのコンセプト外の特殊なボスとは。
これは間違いなく世界初の一大事だろう。どんな状況、条件で現れるか知らないが、確実に俺はついてる。
ダンジョンに潜り始めて一年。俺はさまざまな経験をした。だが、まさかこんな幸運に巡り会えるとは思わなかった。
視界の先。未だ不動を貫く竜を見据える。
心臓が激しく脈を打つ。高揚感が身体を駆け巡る。
予感がする。
あの竜は、俺に未だ経験したことのない死闘を与える。
あぁこの場所は、この世界は、俺の為だけに用意されたボーナスステージなんだ。
「俺に魅せてくれ、お前の暴力を!!」
俺は万感の思いを込め。竜へと向かい手を掲げた。
すると黄金の竜は首を起こし、こちらを見つめてきた。
そして世界は──白く染まった。