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ドタバタ

作者: 雉白書屋

「おい、てめえ、ぶち殺すぞ」


 なんて野蛮な始まり方だ、と彼は思った。

 この小説のことじゃない。彼は登場人物であり、そんなメタ視点など持ち合わせていない。この男、この部屋に来て、第一声がそれとは。なんて野蛮な話の切り出し方だ、と彼は思ったのだ。

 話の舞台は、とあるアパートの一室。夜、突然彼の部屋を訪ねた男は、彼の制止も聞かず部屋に上がり込んだ。男が床にドスンと腰を下ろすと、彼も静かに床に座った。そして、男の口からあの発言が飛び出したのだ。

 男が無理やり部屋に入ってきた時点で、彼がなぜ「警察を呼ぶぞ」などと強気に出なかったのかというと、彼には「殺すぞ」と言われる心当たりがあったからであり、それは……と、作者は花粉症で目がかゆい。今、目をこすっている間に男が包丁を取り出してしまった。

 

「殺す、殺してやる!」


 男はそう言って立ち上がり、ぬらりと彼のほうへ一歩、また一歩と近づく。鼻息を荒くして、まるで沸騰寸前のヤカンのようだ。彼は恐怖のあまり腰が抜けて立てず、ずりずりと尻を引きずりながら後退した。


「あ、あの、待って、は、話を聞いて」


 彼はそう言って……と、まだ目がかゆい。目薬があったかなと思いながら作者が部屋の中をうろうろしているうちに、彼が言い分を聞いてもらう時間がなくなってしまった。

 男が包丁を振った。肩を少し切られた彼は、まるで陸に打ち上げられた魚のようにばたばたと男から距離を取った。玄関に向かいたかったが、男に回り込まれ、部屋の奥に追いつめられてしまった。

 そばに窓はあるが鍵がかかっており、手が届かない。しかし、いつまでも腰が抜けてるなどと言っていられない。命の危機だ。先ほど体を切られたことがいい気付けになり、彼は闘う意思を固め、今立ち上がろうと……と作者は今、指を怪我している。だから、パソコンのキーボードに触れるたびに痛い思いをしているのだ。この指先の怪我というのが厄介なもので、シャンプーをするときなんか、もう沁みて沁みて、痛みがひどいのだ。しかも、患部を濡らすのは、あまりよいことではないだろう。絆創膏を貼ればいいのだが、あまり好きではない。貼らないに越したことはないだろう。まあ、そんなことを言っても仕方がないので、絆創膏を貼ることにした。しかし、絆創膏というのは外した時の匂いが独特で、それが嫌だけど、でもちょっと好きだったりもする。

 と、そうこうしている間に話は進み、男が彼に馬乗りになり、その顔に包丁を突き立てようとしていた。

 彼は歯を食いしばり、必死に抵抗する。と、男の体が少しいた。彼は片足をするっと男の股の間から抜き出し、男の腹の前に運んだ。そして一気に力を入れ、男を押しのけた彼は立ち上がろうと……ここで作者はトイレに立った。戻った。ただいま。時間にして数分。しかし、その間に物語は進行し、彼は反撃のチャンスを逃してしまったようだ。再び男に馬乗りされている。ああ、どうやらこの少しの間に殴られたようで、口の端が切れている。痛そうだ。かわいそうに。だが、すごい気迫だ。男の両腕を掴み、なんとか耐えている。がんばれがんばれ。お、上体を起こし、男の腕に噛みついた。男は堪らず悲鳴を上げ、その手から包丁を落とした。

 しかし、彼はそれで少し気が抜けたのだろう。男はその隙をつき彼の手と口を振り解き、彼の顔を殴りつけた。彼は手で防御しようとせず、男の攻撃をまともに食らったが、それには狙いがあった。

 殴られている間、彼は手をめいっぱい伸ばし、手探りで包丁を探していた。そして今、見つけた。彼の指が包丁の柄に触れた。彼は包丁を掴み、そして……眠くなってきたと思ったら、もうこんな時間だ。布団を敷こう。

 よし、敷き終わったぞ。今日は何だかうるさかったけど、ちょうど下の部屋も静かになったことだし、もうおやすみなさい……。

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