表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

7




 濃密だった入学式から、早くも1週間が経った。あの後、結局俺の頭では上手い言葉が出て来ず、ノックスに手伝ってもらうことになった。が、そこはお察し。同じく怒られ仲間であるノックスも早々に「無理」と放棄したため、最終的にシレンとアイクが手伝ってくれた。「まぁ、ぼくのためにしたことだしね」と言ってくれはしたが、なんで俺は反省する必要のないやつに反省文を書かせてるんだ!

 悶えていると、「俺はいいのかよ!」とノックスが声を張り上げる。どうやら口に出ていたらしい。「まぁまぁ」とアイクに宥められながら、4人で額を突き合わせて考える。

 なんとか間に合わせた反省文に目を通したヴェントス先生が、俺を半眼で見ていたのは見なかったことにした。



 ただ、文句も言わず反省文を考えてくれたシレンには、そっと何かを渡そうと思う。





 最初の2日間は、学院に慣れるために期間として設けられた。学院内を探検するもよし、友達と一緒に遊ぶもよし、問題を起こさなければ自由に過ごしていいと言われた。教壇で話すヴェントス先生の「問題を起こさなければ」に力が入っていたのは、気のせいではなかった気がする。

 とにかく学院は広いので、早速探検に向かった。やっぱり、見たことない場所というのはワクワクする。ネージュ先輩の案内は割とあっさりしていたので、その分、見てない場所がたくさんあった。グラウンドや武道場などは、特に心が躍った。まだ上級生は春休み期間なので授業はないが、数人が自主訓練を積んでいたのだ。木刀を振っている上級生が、こちらにチラッと視線を向けたが、特に気にした様子もなく、訓練を続けていた。見ていても怒られないなら、と割り切って、食い入るようにひたすら見入ってしまった。最後は、アイクに引きずられるようにしてその場から離されてしまったが。

 それでも、今後は自分があの場所に立って同じことができると思うと、期待をするなという方が無理な話だ。アイクから「そんなになりたいんだ」と驚き半分、呆れ半分の感想が聞こえる。



「なんだよ。アイクだってなりたいもんの1つや2つあんだろ?」



 そう言うと、アイクは少し悩み始めた。



「あるっちゃあるし、ないっちゃない、かな?」


「なんだそれ?はっきりしなくてスッキリしないなぁ」



 俺の反応に「まぁ、いいじゃない」とし、そのまま他のところも見て回った。他のクラスも1日は自由時間だったらしいが、2日目は教室の中にいたので、寮に帰ってからノックスに話を聞くと、事前学習という名のプリントが出たのだそうだ。内容は小学校で習った計算問題を解いたり、歴史の教科書を読んだりといったことらしい。4組はやっていないことを伝えると、そこは担任に一任されているらしく、4組がやらなかったのはヴェントス先生の方針だそうだ。ノックスからはとても羨ましがられたが、多分めんどくさかっただけだと思う。








 今日から学院は新学期を迎え、全学年が心機一転スタートした。今まで見かけなかった上級生がどっと増え、学院内に活気が満ち溢れる。そういえばリボンタイで学年がわかるとのことだったが、自分の白、5年生のネージュ先輩の赤しか正直わかっていなかった。それをみんなに言うと、アイクは知っていたようで教えてくれた。

 アイク曰く、リボンタイは学年が変わるごとに色を変えていくらしい。1年生は白、2年生は黄色、3年生は緑、4年生は青、5年生は赤、6年生が黒とのことだった。ちなみに寮は6年間同じだそうなので、俺は今の部屋で6年間を過ごすことになるのだそうだ。


 初めての授業は、魔法基礎だ。小学校に通っていても習うことのない科目に、朝から全員が色めき立っている。コールシュも同様で、魔法が使えるようになるということで、ワクワクが止まらない。



 始業のチャイムがなり、全員が席に着いて待っていると、ガラッと音を立てて担当教師が入ってきた。

 見た目は俺の母さんくらいの女性で、黒い髪の毛前髪から全部後ろでまとめて結んでいる。瞳も黒く、肌は白い。唇に塗られた真っ赤な口紅が異様に映える。服装も黒のシンプルな長袖のワンピースを着ており、このまま三角帽子でもかぶっていたら、『魔女』と言われるような風体だった。



「皆さん、おはよう。出席確認をします」



 落ち着いた声で話し始め、指示に合わせて全員が鍵穴に鍵を差し込む。俺はというと、一度やらかして悪目立ちしてしまった分、今回はすぐに行動できた。「全員いますね」との教師の声で、改めて全員の視線が教壇に注がれる。



「初めまして。魔法基礎を担当するアミテレ・マーガです。魔法とは不思議なもの、それと同時に恐ろしいものでもある。皆さんにはそれを知ってもらい、良い魔法を使える人となってもらいたいと思います」



 そう言うと、事前に配られていた教科書を開くように指示される。小学校の時より、並んでいる文字の大きさが小さいことに、なんだか気が滅入る。マーガ先生は教科書を音読しつつ、時折黒板に文字を書く。声のトーンが落ち着いていることや時折響くチョークの音がまた心地いいこともあって、自然と瞼が落ちてきてしまう。危うく眠りかけていると、その都度横からアイクが肘で腕を突いて起こしてくれるので助かる。


 半ば呪文のような音読が終わると、黒板に改めて表を書き始めた。半分眠っていたので、頭が空っぽな俺に、アイクが「ノートに写すんだよ」とアドバイスをしてくれる。慌てて開いただけの真っ白なノートに、自分しか読めない字で書き写すと、書き終わったところで丁度良くマーガ先生が話し出す。



「まず、この世界には魔法が存在し、6つの性質があります。火、水、雷、風、光、闇です。そして、このうちの少なくても1つを身に宿して、人は生まれてきます」



 「先日受けた検査結果がそれです」と話す声を聞きながら思わず、アイクに視線を向ける。この間の件以降、嫌味ーずは関わってはこないが、それでも偏見の対象となりがちな単一属性持ちにクラスメイトは自ら関わりに来ない。アイクもそれをわかっているようで、無理に他者と関わることはしなかった。また、そのような反応を示す生徒に対して、怒ることもしなかった。「彼らの反応は世間一般から見たら当たり前だよ」と言い、「それよりも気にせず話してくれる君の方が変わり者」と嬉しそうに笑っていた。

 こちらの視線に気が付いたアイクは、意図を汲んでくれたのだろう。苦笑混じりの笑顔を浮かべ、『大丈夫』と口元を動かす。



「持ち合わせた性質の魔力は、同じ性質の魔法を使う際に効果を発揮します。例えば、水の性質の方が火の魔法を使った場合が1とするなら、火の性質の方が火の魔法を使った場合は2、またはそれ以上の威力が出るでしょう」



 マーガ先生の話を聞きながら、自然と自分の手のひらを見つめる。このなんの変哲もない手に見えない魔力が宿っているかと思うと、なんだか不思議な感じがする。

 それは他の生徒も同じだったのだろう。同じく手のひらを見つめる者、キョロキョロと視線を動かして自分の体を見る者、ペタペタと体を触ってみる者など様々だ。



「ただし、今性質を持ち合わせていないからと言って、今後一生持たないとは言えません。途中で発現する方もいますし、逆に性質を失う方もいます」



 性質が増える可能性があると示唆され、喜んだのも束の間、失う可能性の話をされ、沸き立っていた空気が一気に冷え込む。

 アイクへの偏見が、一夜にして自らに向けられるかもしれない。それは、想像したくもない恐怖だ。不安を感じている生徒の中には、無意識であろうがアイクへ視線を向ける者もいる。すがるような視線が、励ましよりも心の中で悪態をつかせる。自分がその立場にならないと、相手の気持ちに寄り添えないのか、と。

 不穏な空気が漂う中、マーガ先生の声だけが教室に響く。



「今のは可能性の話です。今すぐに起こるわけではないですから、そう不安がる必要はありません」



 生徒達の雰囲気を察してか、フォローするように語りかけるが、その言い方はあっさりとしている。淡白な性格なのかもしれないと思っていると、「ただし」と付け加えられた。



「他人を見下している者は、その他人がいるから安心、と無意識に思って鍛錬や学習を怠ります。その間に追い抜かれて、自身が見下される側に立つことでしょう。私から言えるのは『見下す暇があるなら、自信を高める努力をする』ことをお勧めします」



 今のこの教室には、痛いほど響く言葉だ。別に名指しをされたわけではないのに、多くの生徒は気まずさから下を向いている。

 対してアイクはというと、いつも通りの表情で授業を受けている。マーガ先生が示唆した性質が増える可能性を聞いても、特に表情を変えることもなく、真面目にノートを取っている。シレンは見た目から大人っぽさを感じていたが、アイクは内面がとても大人びていると思う。だからこそ、マルス達の嫌味もクラスメイトからの視線も真正面から受け止めず、スッと受け流すことができているのかもしれない。


 教室の重苦しさはそのままに、授業は淡々と進んでいった。いつもなら眠ってしまいそうな授業も、今は眠気の訪れを感じず、ノートも撮ることができた。



「それでは、今日はここで終わります。次回は魔紙についての内容をお伝えします」



 「では」と言い、そのまま教室を後にする。マーガ先生の退室で、少し空気が軽くなったのか、はぁーっという息を吐く音が教室の至る所からする。自然と息を詰めていたんだろう。中には額に汗を滲ませている者もいる。


 あの後、気まずさに勝てなかった生徒の一部が、自らアイクに声を掛けにきた。内容は本当にくだらないもので、「次の授業はなんだっけ?」とか「さっきのこれなんだけど」など、どうでもいいことばかりだ。




「みんな現金だよな」



 俺の呟きに、アイクは「え?」と聞き返してきた。



「だってよ、アイクを勝手に見下してたのに、授業が終わったら「自分はそんなこと思ってないです」みたいに勝手にアピールしてきてさ。ほんと自己満足じゃん」



 自然と口先が尖っていく。勝手にバカにして、勝手にアピールしてくる。本当に頭にくる。そんな俺の様子に、アイクは少し考えるようなそぶりをして、「そうだね」と珍しくマイナスな気持ちを肯定してきた。きっとアイクのことだから、「そんなことないよ」と相手を庇うと思っていたので、少し驚いてしまう。



「人間は、その場の環境や自分の置かれた立場によって、言動を変化させる。特に、弱い立場の人や自分の意見が定まっていない人は、流される傾向にある。学院は、現代社会を小さな空間で再現した『擬似社会』だと思う。その中に、今まで大人に守られながら生きてきた子どもが、ぽんっと放り込まれるんだ。自分が攻撃される立場に立つなんて思ってもいない子が。____でも、子どもの中にもヒエラルキーはある。そんな時、どんな行動を取るか。それはとてもわかりやすい。自分が最下層に行かないように、必死に立ち回るんだ。だからこそ、今回のように自分が最下層に行く可能性を示唆されて、そうなっても身を守れるようにぼくに声を掛けてきたんだろうね」



 淡々と話すアイクは、今まで見たことのないアイクだった。元々、頭の切れる奴だとは思っていたが、こんな冷たい声は初めて聞いた。いつもはふわっとした雰囲気に、柔らかい語り口で、人を貶めるような発言はしない。でも今目の前にいるアイクは、冷たい笑顔をたたえ、まるで世間に揉まれてきた大人のような発言をしている。

 背筋に冷たいものが流れた気がするのは、気のせいではないだろう。思わずごくりと唾を飲み込んだ。


 





 あの後、すぐにいつも通りに戻ったアイクは、「次の授業は美術だったよね?」と言いながら、移動の準備を始める。俺も慌てて準備をし、アイクと一緒に美術室へ向かう。歩いている最中も、何人かの生徒からなんでもない話題を振られるアイクは、当たり障りのない返答をいつもの柔らかい雰囲気でしていた。

 美術室にはまだ若干の気まずい雰囲気が流れていたため、準備室から出てきたヴェントス先生が一瞬眉を顰めていた。それでも、問題はないと判断したようで、「じゃあ、出欠なぁ〜」と言って授業を始めた。


 ヴェントス先生は、教科書を開くと見開き1ページを丸々と読み、特に黒板に書くことはしなかった。「このまんまだ」と教師として有りなのかと思ってしまう言い方をしていたが、本人曰く、「俺は実践主義だから」とのことだ。今日は初授業であるため、実践を伴う教科も座学が中心らしい。座学はどうしても眠くなるので、早く体を動かしたいところだが、そこはなんとか耐え忍ぶしかない。




 午前中の授業がようやく終わり、ノックス、シレンと合流して食堂に向かう。中はびっくりするほど人がいて、果たして座る場所などあるのだろうかと言わんばかりの光景だ。流石に6学年が集うとなると、とんでもない人数になる。少し待っていると、端っこのテーブルが空いたので、早足でテーブルにつく。



「毎日これはキツいなぁ」



 ノックスの言葉に全員が頷く。食事を摂るにも、バタバタとするとなると、のんびりする時間は限られてくる。食事くらいはゆっくりと食べたいものだ。



「でも、ここ以外でどこで食べられんだよ」


「そうなんだよねぇ」



 寮の中にも食堂はあるが、基本は朝と夕しか食事はでない。学校がある日の日中は、学校の食堂でとる以外ないのだ。

 とりあえず今は、解決策を考えるよりも先に、腹を満たすことを優先させる。それぞれが鍵を取り出し、食事を注文する。暖かく美味い食事が、午前中目一杯使った頭に栄養を送っているような気がする。モヤモヤした思いや考えを溶かしてくれるこの食事達に、今は感謝して平らげるとしよう。





 腹が満たされ、フリースペースで残りの時間を潰そうと中に入ると、ローゼが2人の女の子達と談笑していた。こちらに気付くと、手を振って呼び込んでくる。女の子達もこちらに視線を送ってきている。側に行くと、空いている席に座るよう促された。



「なんか久しぶりだね!」



 ローゼが嬉しそうに話し掛けてくる。確かに校内見学以降、クラスが違うこともあり、ローゼとは顔を合わせる機会がなかった。俺達の話を聞いていた女の子の1人が「ねぇ、紹介してよ!」とローゼに声を掛ける。



「あっ!そうだよね。こっちの茶色い髪の子がコールシュ。オレンジ髪の子がノックス。彼らはわたしと同郷なの。それから、金髪の子がアイク。黒髪の彼がシレンよ」



 「2人は学院に来てからコールシュ達が紹介してくれたの」と話すと、「えぇ〜!いいなぁ!」と女の子達が口々に話している。これは俺に向けられた言葉ではないな。



「彼女達はわたしと同じクラスなの。ひとりぼっちでいたら、声を掛けてくれたのよ」


「だってめっちゃ可愛いんだもん!これは友達になるしかないっしょ!」



 「もぉ〜、何言ってんの!」とローゼは恥ずかしがりながらも、嬉しそうな表情を隠せていない。俺ともノックスともクラスが違うから、あまり積極的な性格ではない彼女は大丈夫だろうかと思っていたが、反対に積極的な子がアタックしてくれたようだ。口調も遠慮したところがないことから、だいぶ打ち解けているんだろう。



「じゃあ、こっちも自己紹介! あたしはクララ・ベーネっていうの」


「わたしはベル・ヒラリスね」



 クララは金髪の髪をツインテールにしており、明るいオレンジ色の瞳が印象的な子だ。クララの方は、亜麻色のショートボブに前髪には花のピン留めをしている。目は薄い紫色をしており、クララと2人揃うと、雰囲気だけでとても明るい子だとわかる。2人は同じところからスコーラに進学してきたらしい。偶然同じクラスになってはしゃいでいると、ポツンと席についているローゼが目に入ったそうだ。その雰囲気が儚げ美少女に見えたことから、これは守ってあげなくては!と思ったらしい。速攻で声を掛けて、その日のうちに友人になったとのことだった。


 短い時間ではあるが、7人で談笑し(シレンはほぼ喋ってはいなかったが)、1年教室前の廊下で別れた。同じクラスの女の子の友達ができる前に、他クラスの女子と友達になれたのはラッキーだと思う。モヤモヤした1日になるかと思っていた分、明るい話題が一層明るく感じたのだった。






最近ぽっちゃりガチョウを育ててます(無課金です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ