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 入寮からまもなく、ついに入学式となった。真新しい制服に腕を通すと、ついに自分も学院生になったのだと実感する。制服は紺色のブレザーで黄土色の縁取りがある。上着の下は白のカッターシャツで、首元に白いリボンタイをしている。ズボンはグレーの無地だ。初日に学院内をネージュ先輩の案内の元少し歩いたくらいで、それ以外は寮で過ごした。寝泊まりの部屋だけかと思いきや、談話室や遊戯室など意外と広い作りとなっていて、寮内だけでも楽しく過ごすことが出来た。セグニーティス寮監から「1年生のみの寮」と聞いていたこともあり、あまり意気込まず寮内で会う人に話し掛けることが出来、特に遊戯室で一緒に遊んだ面子とは仲良くなるまでに時間は掛からなかった。



「おーい!準備できたかぁー?」



 扉の向こうから、ノックスが呼び掛けてくる。鏡の前でリボンタイの最終チェックをし、部屋から出る。鍵はネージュ先輩にならって、革紐を使ってネックレス型にして首にかけている。



「お待たせ!」


「なんだぁ〜? 鏡に向かって「きゃ!かわいい!」ってナルってたのかぁ?」


「んなわけないだろ!!」



 ノックスのくだらない揶揄い文句に、拳をもって答える。頭を抑えて「いてーなぁ!!」と文句を言っているが、アホなことを言ったノックスが悪い。

 学院への入学は、俺達子どもにとっては大人への第一歩と言っていい記念すべき日だ。ちょっとくらい決めて参加したってバチが当たるどころか、縁起がいいと言える。



「そういうノックスこそ、何時から起きてたんだよ」


「俺はお前と違って、早起きなんだよ」



 そんなことを言っているが、小学校時代のノックスは遅刻常習犯だった。それが早起きなんて、何事かと思うのは当たり前のことだ。9時に各寮入り口集合となっているにも関わらず、彼がコールシュを呼びにきたのは6時。朝ごはんにもまだ早い時間で、コールシュはまだベッドの中だった。眠たい目を擦って扉を開けると、既にばっちりと制服を着込んだレックスがいたのだ。これを不審がらず、どうしろと言うのか。







 軽口を叩きながら寮入り口に行くと、そこは既に人でごった返していた。まぁ、寮にいるのは全員1年生なのだから当たり前である。とりあえず、入り口付近にいればいいので、人混みを避け、入り口が見える廊下に落ち着く。すると、人混みの中に見覚えのある顔が目に入った。それはノックスも同じだったようで、手を振って呼びかける。



「アイク! シレン!」



 ノックスの声に反応したとは、声の出所を探すようにキョロキョロと辺りを見渡す。ようやくこちらに気付くと、人混みをかき分けてこちらにやってきた。



「おはよう!」


「よお」



 柔らかい雰囲気のアイク・サーピエンスは、金髪碧眼のザ・王子様といった様相だ。本人曰く、低身長が気に食わないとのことだが、これから成長期に入るのだからどうとでもなると思う。

 もう1人のシレン・バラエナは、ハッキリとした色味の赤い髪に赤茶の瞳をしている。同じ12歳とは思えない大人っぽさがあり、それは160cmを超える身長も手伝っているのだろう。アイクが身長を気にする原因の一つは、確実にシレンにあると思う。



「2人ともゆっくり来たんだね」


「いやぁ、コールシュが鏡の前から離れなくてさぁ」


「ち・が・う!!!」


「ま、どっちにしろ遅く来た方が賢かったな」



 4人が談笑していると、先程まで騒がしかった生徒達が徐々に口をつぐみ始めた。周囲の変化に最初に気付いたのはシレンで、3人に向かってジェスチャーで静かにするよう促す。4人は話を止めて集団の後ろにつくと、前方に視線を向ける。どうやら案内役が来たらしい。



「1年生の皆さん、これより講堂に案内します。この寮以外にあと3棟寮があります。かなりの人数が一斉に移動しますので、こちらの指示をよく聞いて、スムーズな進行に協力してください」



 特に順番などは無いようで、三列になって歩くように指示が飛ぶ。先頭が進み始め、その歩みに合わせて後方の生徒達も徐々に前に行く。寮の玄関に近付くと、上級生が列整理を行なっていた。列からはみ出ている者を並ばせたり、死語をしている者を注意したりしている。

 郷に入っては郷に従え、だ。こんなところで目をつけられたら敵わない。4人は先程までのおしゃべりな口を閉じ、ただただ前方の生徒に続いて歩いていった。







 学院を正面から見た時、寮が左側に位置するのに対し、講堂は正面奥にあった。各学年の定員は180人となっており、それが6学年分も入るような場所とはどんなところかと思っていたが、納得の広さだ。今日は1年生とおそらく手伝いでいるのであろう上級生、それから教職員のみの参加のようだ。

 案内に従い、空いている椅子に着席する。長机に椅子が並べられており、椅子自体は自由に動かせる作りのようだ。全員が座り終えると、スーツに身を包んだ教師と思しき男性が、マイク越しに話し始める。



「それでは、只今より入学式を執り行います。まず、学院長からお言葉を頂戴致します」



 それを受けて、壇上に1人の老齢な男性が上がった。肩ぐらいまでの白髪に口髭を蓄え、眼鏡を掛けている。服装は白いローブの上にさらに金のマントを身につけている。講義台のところまでくると、ゆっくりと話し始めた。



「新入生諸君、ようこそスコーラ学院へ。わたしは。この学院の長を務めている」



 学院長が名乗ると、新入生達が俄かにざわざわとし始める。「え!あの人が!?」「本物?!」などの声が聞こえてくる。やはり学院長ともなると有名な存在なのだろう。隣に座っている生徒なんかは、目元が潤んでいる。


 まぁ、自分は全くその素晴らしさとやらを理解できていないんだが……。





「静粛に!!」





 凛とした声が響き渡り、ざわついていた会場に再び静寂が訪れる。



「ほっほっほ。じじぃの長話ほどつまらんものは無いからの。さっさと終わらせてしまうか」


「学院長!!」


「何を仰いますか?!」



 学院長の言葉に、教職員達が慌てて声を上げる。なんというか、軽いじいさんだと思う。こっちとしては、長話ほど眠くなるものは無いから大歓迎なんだけども。



「君達は6年間、この学院で寝食を共にする仲間じゃ。互いを認め合い助け合い、切磋琢磨して己の力を磨いてほしい。悩み苦しむこともあろう。その時は、周囲に目を向けてみよ。君達を教え導く教師、先を歩く上級生、共に歩く友がいるであろう。良き友を見つけよ。そして良き学院生活としてほしい」



 「以上じゃ」と言って、学院長はサッサと壇上から降りる。あまりにあっさりと去っていくので、みんなポカンとしていたが、慌てて拍手が起こる。拍手は次第に大きくなり、1分ほど鳴り止まなかった。






 学院長の話の後は、来賓やら代表やらの挨拶が続き、正直半分寝ていた。どうしても、こういった畏まった場は苦手だ。人数が少なければ注意されたかもしれないが、こうも人数が多いと紛れることも出来るのでありがたい。



「それでは、新入生は自分の鍵を机の鍵穴に差し込んでください」



 再び教師の声が響き、周りの生徒達がそれぞれ鍵を取り出す。コールシュもなんだか分かってはいないが、とりあえず周りに合わせて目の前の机にある鍵穴に鍵を差し込んだ。

 すると、目の前に光で出来た数字が現れた。不思議に思って手を伸ばして触ってみたが、すり抜けるだけで特段影響はない。なんとも不思議なものだ。



「今目の前に出てきた数字は、君達一人一人のクラス番号を示しています。今から数字を言いますので、自分の数字が呼ばれたら、指示に従い移動してください」



 なるほど。どのクラスか知らされていない中で、この人数をどうやって動かすのかと思っていたが、これは便利だ。コールシュの目の前に示された数字は「4」だ。つまり自分は4組ということになる。ノックス達とは座る時に離れてしまったのでわからないが、できるなら一緒のクラスであることを願う。



「それでは、「4」と表示された生徒は先ほど入ってきた入口へ移動してください」



 教師からの指示に立ち上がり、パッと周りを見ると同じように立ち上がるアレクの姿が見えた。アレクも同じタイミングでこちらを振り返り、軽く手を振っている。少なくともぼっちは回避出来たようで安堵する。移動しながらアレクのそばに立つと、アレクもホッとした顔をしている。



「よかったよ、コールシュと一緒で。シレンは2組で離れちゃったんだ」


「ノックスがどこか知ってる?」


「ノックスも2組だよ。僕より少し前の席に座ってたから、移動するのが見えた」



 お互いペア同士が離れて、同じクラスになったようだ。本当に寮の遊戯室で知り合って良かったと思う。割とコミュニケーションは高い方だが、全くの知らない土地でとなると尻込みしてしまう。遊戯室ではノックスがいたからこそ、いつも通りでいられたところもあるので、友は偉大だ。



「これから教室まで案内する。遅れずついてくるように」



 案内役は上級生のようだ。1年生はみんな白いリボンタイに対して、彼のリボンタイは赤だ。彼に続いて、右に曲がり左に曲がり、階段を登りと迷路のような道を進んでいくと「1−4」と書かれた教室についた。これはしばらく誰かと一緒に行動しないと迷子確定だ。



「それでは、扉に鍵を差し込んでから入室してくれ」



 また鍵穴だ。本当にしょっちゅう鍵を使うんだな。

 扉に一番近い生徒が鍵を差し込むと、『ノルマーリス・ムンダーノ、認証しました』といった音声が流れた。なんのことかわからず、その場にいたほとんどが困惑顔だ。



「今のはクラス登録だ。事前に登録されている名簿と、実際に入室する生徒が同じかどうか確認している。この教室は君達にとって本教室となるから、今後の入室での認証は不要だ。ただし、移動教室の際はその都度認証が必要になるので、鍵の差し込みを忘れないように」



 上級生の話を聞き、手元の鍵に目を移す。ただの鍵のようにしか見えないそれは、本当に様々な機能が組み込まれている。普通の鍵との違いなんて、持ち手中央にあるガラス玉くらいだ。誰がどうやって、ここまでの技術を詰め込んだものを作っているのだろう。しかも、このスコーラ学院は首都の学院ではない。つまり全ての学院でこのようなシステムを用いていることは、簡単に想像出来る。



「それから、席に決まりはない。その日その時の気分で座る席は変えても問題ない」



 その言葉を聞きながら、コールシュも教室の中に入る。教室の前方には教卓と黒板があり、それ以降は机と椅子が並んでいる。横に3つ長机が並んでおり、それが縦に5つ、計15ある。一つの机に2脚の椅子が置かれているので、30人が座れるようになっている。

 アレクしか知り合いもいないので、とりあえず後ろから二つ目の窓際の机に並んで座る。全員が着席するのを見届けると、上級生は「そのまま待っているように」と告げて教室から出ていった。






「それにしても、すげーよなこれ」



 胸元から鍵を引っ張り出し、コールシュはじっと見つめる。アイクは頷いて同意を示す。



「ほんと。こういうものがあることはわかってたけど、実際に目にするとやっぱりすごいって思うよ」


「えっ!アイク知ってんの、これ?!」


「え?うん。だって、事前の説明会で鍵についても説明されてたから」



 「コールシュは参加してなかったの?」と、純粋な疑問をぶつけられた。


 事前の説明会…………確かにあった。合格の知らせを受けて、母と一緒に一度王都まで足を運んだのだ。

 スコーラでやればいいのではという疑問もあるが、さまざまな地方や国からやってくる生徒のために、どの学院も王都での説明会を行なっている。王都なんて滅多に来られる場所でもないので、屋台の食べ物に目移りしたのを覚えている。でも、長ったるい話しを聞くのはどうも苦手で、話が始まって割とすぐに記憶がなくなった。説明会が終わってざわざわとし始めた頃、示し合わせたかのように意識が戻ってきたので、コールシュにとって事前説明会に赴いた王都の記憶は食べ物だけだった。



「………ほら、あれだよ」


「寝てたんだね」


「………」



 言い淀むと、あっさり見破られた。まだ数日の付き合いのアレクにさえバレるなんて、自分はどれだけわかりやすいんだろうか。返す言葉もなく黙っていると、「どうせ、これから嫌でも覚えるから」と慰めの言葉をもらった。





「この学院はこんな奴でも合格出来るのか?」


「どうせまぐれなんじゃないの?」



 突然、右側から敵意のある声が聞こえた。横を見ると、こちらを蔑むように見やる少年が2人。1人はくすんだ金髪をショートカットにし、長めの前髪の下にある深緑の瞳でコールシュを見下している。もう1人は灰色の髪の毛を肩くらいまで伸ばしており、前髪は眉上で揃えている。暗めの青い瞳が嘲笑うかのようにこちらを見ている。



「なんだよ、お前ら」



 明らかな悪意ある言葉を向けられたら黙ってはいられない。何しろこちらは、2人に対して話していたわけではないし、陰口を叩いていたわけでもない。それが突然口を出された上に馬鹿にされたら頭にもくる。



「隣から馬鹿みたいな会話が聞こえて耳障りだっただけさ」


「馬鹿みたいっていうか、馬鹿?」



 嫌味2人組はケラケラと笑いながら、コールシュを話しのネタに盛り上がっている。名前も知らない見ず知らずの人間に、こうも馬鹿にされてはたまらない。もうここは一発ぶん殴っとくか、とコールシュが拳を握り込むと、ツイッと自分の制服の裾を引かれた。振り向くと、アイクが横に首を振っている。揉め事を起こすな、ということだろう。だが、このまま馬鹿にされたままではコールシュも引き下がれない。険しい顔で首を横に振ると、2人に向き直って立ち上がる。



「お前ら、馬鹿にすんのもいい加減にしろよ!」


「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだ」


「その馬鹿と同じくらいの学力しかないから同じ学院に通ってんだろ!じゃあ、お前らも馬鹿じゃねぇかよ」


「何?!」



 まさか自分達が馬鹿にされるとは思っていなかったんだろう。先程までの余裕ぶった表情が、一気に怒りを孕んだものに変わっていく。前に出たのは金髪の方だった。



「お前! 俺が誰だかわかってて言っているんだろうな?!」


「知るかよ! こんな底意地の悪いヤツ!!」



 互いに立ち上がって睨み合う。「コールシュ!」とアイクの焦った声が聞こえてくるが、今はそんな声に構っていられない。見ず知らずの相手に急に喧嘩を売られたのだ。ここで引き下がってたまるか。2人は教室の後ろにあるスペースに睨み合いながら移動する。



 無言の睨み合いがどれほど続いただろうか。5分くらいかもしれないし、ものの10秒だったのかもしれない。どこからか聞こえたガタッという物音を合図に、2人の体が動く。コールシュは相手に向かってまっすぐ右拳を伸ばした。相手も同様に、右拳をコールシュに向かって伸ばしてくる。避けようと互いに動いてはいるが、当てようとする気持ちが強いからか、避けるのは間に合わないだろう。多少の痛みくらいなんてことはない。こっちは遊びを通しての喧嘩だって経験済みだ。相手の雰囲気から見て、どこかのお坊ちゃんだろう。人に殴られる経験なんてなさそうだ。ここでいっちょ、その鼻っ柱をへし折ってやる!




『当たる!』

 誰もが思ったその時だった。2人の間にどこからともなく突風が走った。



「「うわぁっ!!」」



 2人はバランスを崩して後ろに倒れる。尻餅をついて打ち付けた臀部をさすりながら目の前を見るが、何が起こったのかわからない。窓や扉はあるが、突風が吹くような天気でも環境でもない。何より、自分達の間のみで風が巻き起こったのだ。特に室内が荒れた様子はない。目の前の金髪を見ても、あっちも驚いた表情をしているのだから原因は別にあるんだろう。





「入学早々、元気だなお前達」



 耳慣れない声が、しんと静まり返った教室に響いた。






絵が描けるようになったら説明できるのにー!って常に思ってます。描いてやるよ!って方いたらお声掛けくださ(°ε°((⊂(*°ω°* ∩)

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