魔女の故郷
ヘラヘラ飄々とした魔女(※男) × 内気だけど頑固な世間知らずお姫様
密着しないと魔法が使えない二人がイチャイチャして美味しいものを食べながら
魔法とは何かを紐解くお話です。
#魔女リス
2023年6月17日〜6月28日の間で毎日19:00に更新中!
泊まらせてもらった家の家主は、”セラピ”という女性だ。私のお母さんくらいの歳、マギアを看病する数日、何も食べないで隣にいる私に、「連れの兄ちゃんが起きた時、アンタがガリガリになってたら私がどやされちまうよ」とサンドイッチを作ってくれた。
「お、おかえり!ちゃんと連れ帰ってきたね」
家に帰ると、セラピさんはにこやかに私たちを迎える。私もマギアも、「おかえり」なんて久しく言われていなかったから、顔を見合わせて照れてしまった。
「全く、困った迷子だね!」
「迷子って……」
「ふふ、ちゃんと見つけました」
マギアは頭をかく、彼がいなくなって数時間後に私は目を覚ました、体の調子も良く、下に降りるとセラピが「散歩に行ったきり帰ってこないんだよ」と心配そうに言うので、慌てて探しに行った。道に迷ったわけではないのは何となく察していたのだ。彼を村の路地で見つけたときはひどく安心した。彼の過去やこれまでのことをゆっくりと聞いた。彼に何度も助けられていたことを、私の魔力の元が彼だったこと、私を助けるために、彼の人生をめちゃくちゃにしたこと、そこでやっと知った。
私は、心臓がドキンドキンと鳴っていた。彼が私を力一杯その腕に抱いて、顔を埋めて、私が全身で彼を受け止めてから。なんだかまるで、彼の感情が魔力のように流れ込んできたような、そんな感覚だった。
横にいる彼の顔を見る、視線に気づいたようで、マギアは私と目を合わせた。それだけで、早鳴っていた鼓動は速度を増す。なんだかおかしい、マギアの顔なんてずっと見ていたはずなのに。
「そうだ、夕飯!ご馳走するよ」
「……え、いいんですか?」
「二人とも栄養つけないとまた倒れちゃうだろ?とは言っても3人分だから、手伝ってもらうけどね。今日はポトフとハンバーグにしようかなぁ」
ウインクをするセラピに、感じていなかった空腹を覚える。料理なら10年自分でやっていた。私にもできることだ。
「俺も手伝う」
「魔法は無しだよ」
「えっ」
「ウチのキッチンは魔法禁制なのさ!自分で作るのが楽しいんだから!」
「マギア、料理できる?」
「……した事ない」
過去の話を聞くと、まあ納得だ。私が手伝うからいいよと言ったが、彼も手伝いたいらしい。セラピは二人分のエプロンを貸してくれて、3人で立つには少し手狭なキッチンに立った。じゃがいもや人参、ブロッコリーと玉ねぎ、ニンニク、大きなベーコンもある。ポトフの材料だろう。セラピは挽肉を出して、ボウルに入れ始めた。
「私はハンバーグの準備をするから、二人は野菜を切ってね」
「はい」
「お、おう」
包丁を拝借して、玉ねぎから切って水にさらそうとしていると、マギアがあたふたし始めている。本当に何もわからないらしい、可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「マギアはブロッコリーを一口サイズに切ってくれる?」
「……」
コクリと頷いて、いそいそとブロッコリーと手に取り、そしてじっくりと見る。こっそり「《切って》って命令しろ」と言われたが、ニコリと微笑むだけにしておいた。眉を寄せたマギアは果物ナイフを手に取り、茎の下の部分に突き刺し始める。
「ま、マギア!?待って!何するの!」
「一口サイズに切る」
「なんでそれでナイフを突き刺しちゃうの!」
小さなナイフにブロッコリーが突き刺さり、まるで花束を持っているみたいになったマギアを見て、思わず吹き出す。なんでもできる魔法使いのマギアでもできないことがあるのを知れて、なんだか嬉しかった。マギアも、最初はむすっとしていたが、私が笑ったのを見てヘラッと笑う。
「もっと簡単なのならできる」
「でも皮剥いたりするの大変だよ?ほら、最初は手伝ってあげるから……」
マギアの後ろに回って、彼の両手に自分の両手を重ねる、茎は硬いから、まずは花蕾の部分を切っていった。マギアは恐る恐ると言った感じだが、少しづつ野菜を切っていく。ふと、自分がマギアに密着して手を重ねていることに気づいて、また心臓が鳴った。魔法を使うときにいつも体を近づけているのに、やっぱり変だ。
「よし、できた!見ろフィリア!一口サイズに出来たぞ!」
「ふぇっ!?う、ん、そうだね……!」
不恰好だが、ブロッコリーを切れたことに目を輝かせているマギアを他所に、顔の熱を深呼吸で整える。こんなことをしていたらセラピに「マギア!アンタがいたらこれ朝ごはんになっちゃうよ!」とどやされ、結局私とセラピで料理をすることになった。
残りの野菜を全て切り、油とニンニクを弱火で熱してからベーコンを焼く、焼き色がついたら取り出し、玉ねぎを入れて飴色になるまで炒めたら、火の通りにくい野菜からゴロゴロと入れていく。野菜が透き通ってきたら、水を入れて、調味料を入れて煮込む。鍋の加減を見にきたセラピはカウンターにある葉を一枚取り、鍋に入れた。
「葉っぱ……?」
「ローリエっていうんだ、これを入れたらぐんと美味しくなる」
「へえ……」
よく見ると、セラピの家には植物がたくさん置いてある。ハーブのような植木や、窓台にある紫陽花が綺麗に咲いていて、思わず見惚れてしまう。
「この村は植物と共に生きているんだ、私も花は大好きだよ」
「素敵な村ですね、お花も綺麗ですし」
「お!ここに住んでみるかい?」
「えっ!?」
唐突な提案に思わず素っ頓狂な声をあげる。そんなこと、考えたこともなかった。
「フィリアちゃんとマギア、なんだかのっぴきならない状況だろ?最初見たときになんとなくわかったさ」
「え、えっと……はい」
「行く宛がないならマギアとここに住んじゃいな!村の皆は自由人だがね、良い人ばかりさ……なんて、冗談だよ!そんなびっくりした顔しないでおくれ」
あっはっはと笑うセラピ。マギアと一緒にこの村に住む、そんな選択肢があるなんて思ってもいなかった。
マギアの旅の本当の目的が、「自分を救ってくれた私への贖罪として、私の魔力を元に戻す」だとわかった。それは即ち、マギアの最終的な目標は、私の中にある自分の魔力で封魔具を外し、彼のもう半分の魔力も取り戻す。というものだった。
……私の中の魔力は、マギアに返さなければならない、そしてそれを、マギアも望んでいる。
それは、膨大な魔力を手に入れたいとか、自分一人で自由に魔法を使いたいからとか、そんな自分勝手な欲望なんかじゃなくて、私のことを考えてくれた上での目的だ。
……彼が、一人で魔法を使えるようになったら、私は……
城を出た初期の頃も、同じことを考えた。あの時は、彼がいないと自分が何をして良いかわからなかったから不安になったのだ。……今は、きっと、違う。こんなことを、考えてはいけないのに。
──君を助ける。それまでは、俺の側にいてくれ。
マギアの声を思い出す、低くて優しい声。……それまでって、いつまで?
「フィリアちゃん!」
「わ、ご、ごめんなさい、ぼーっとしてて……」
「コラ!キッチンでぼーっとしちゃいけないよ!」
「ご、ごめんなさい……」
「ご飯できたから、マギアを呼んできな。二階にいるみたいだから」
「は、はい」
セラピの声で我に帰った私は、エプロンで手を拭いてから二階へ登る。そういえば、誰かに怒られたのも久しぶりかもしれない、なんだか嬉しくて、無理やりさっきのことは脳の奥に押し込めた。
二階のマギアが寝ていた部屋をノックしても返事がない、そっと開けると誰もいなかった。あれ?と思っていると、私が寝ていた部屋から物音がする。そっちをノックすると「何?」とマギアの声がした。
「マギア、ご飯できたよ」
「おー」
少しして、彼が部屋から出てくる、手には私がつけていたペンダントを持っていた。
「悪い、ちょっとこれ見るのに集中してた。今降りるな」
「うん、一緒に食べよ、お腹すいちゃった」
マギアはピタリと止まって、上から下、下から上へと私を見る。そして、口に手を当ててそっぽを向いた。彼のこの動作は照れているときだ。エプロンが捲れたり、はしたない格好をしているのかと慌てて服を見ても、特におかしいところはない。
「な、なに?」
「いや……なんか、一緒に住んでるみたいに錯覚した……ああごめん、この考えはちょっとダメだな」
「なっ……何言ってるの……」
彼のとんでもない発言に、私までなんだか照れてしまう。ご飯を作って呼びにきた私と、部屋から出てきたマギアと二人で食卓に降りる。そんな想像、さっきのセラピの発言と相まって幸せすぎてダメになりそうな妄想だった。振り払うために、マギアの腕をグイッと引いて下に降りる。下ではセラピが3人分の晩ごはんを用意していて、「遅い!」とプンプンしている。少し安心した。
「あったかいうちに食べるよ!」
「これ……魔法使わないで全部?」
「そりゃそうさ、マギアの不恰好なブロッコリーもあるだろう?」
「うぐ……本当だ……」
マギアと私は席に着く、デミグラスソースがかかったハンバーグに、付け合わせのにんじんとアスパラガス。ポトフも黄金に輝いたスープの中に、ゴロゴロと野菜が入っていて、コンソメの匂いが優しく鼻をくすぐった。手を合わせてから、まずはスープを口に運ぶ。口の中に野菜の旨味とベーコンの香りが充満して、飲み込んだ体がじんわりと温かくなった。じゃがいもも取って口に運ぶ、ニンニク、ベーコン、玉ねぎで美味しくした油を吸い、他の具材とたくさん煮込んだじゃがいもは、ほくほくと口でとろける。じゃがいも本来の甘さも相まって、うっとりとする味だ。ポトフは何回か作ったことがあるが、そんなのが全て霞むほど、美味しかった。
「なんだこれ……うま……」
隣のマギアも夢中になって料理を口に運んでいる。マギアが切ったブロッコリーも、形は歪だが、それ故に味がよく染み込んでいた。ハンバーグも丁寧に切ってパクリと食べる。歯で肉を押すと、じゅわっと肉汁が溢れて、思わず肉汁だけで飲んでしまう。噛むたびに肉が崩れ、デミグラスソースと肉汁と絡んでいく。こくりと飲み込んで、息を吐く。
「今まで食べてきたご飯の中で、一番美味しいです」
「あはは!大袈裟だねぇ」
「俺らにしたら真面目に一番かもな。クタリの飯も美味いが、これには負ける」
私たちは夢中になって料理を食べた。大食い大会であんなにたくさん食べてもお腹はいっぱいにならなかったのに、皿を空にする時には満足感と多幸感で一歩も動けなくなってしまった。
「フィリアちゃん、料理上手だね。このポトフ、おばさん真似しちゃうわ」
「あ、ありがとうございます」
「魔法が使えなくてもこんなに美味いもん作れるのか……」
「料理を出すとか魔法で料理とか、難しすぎだよ!おばさんができる魔法と言ったらね~ああそうだ、そろそろデザートが欲しくないかい?」
マギアは、尊敬した眼差しを私たちに向ける。自分でやるしかなかった料理も、そう言ってもらえたら覚えてよかったと誇らしくなる。セラピはキッチンからボウルを持ってくる、テーブルに置いて中身が見えた。甘い匂いがする、薄黄色の白濁した液体。
「牛乳に砂糖と卵黄、生クリームも入れたものさ」
「飲み物か?」
「ふふん、目を離すんじゃないよ〜」
セラピは窓台にある紫陽花を1つ摘んで取り、ボウルの上に持ってくる。「はいっ!」と言った声と同時にパン!と弾ける音がした。思わず目を瞑ってしまったが、次に視界に入ったものに、目を疑う。
「あ、アイスクリーム?」
「そう!凍らせて混ぜたのさ!簡単だけど美味しそうだろ?」
「すごい!セラピさんの魔法!」
それでも、やっぱり魔法は何度見ても不思議で面白い。ワクワクした目でマギアを見る。
マギアは、あり得ないといった表情で、目を見開き、セラピを見ていた。
「ま、待て、何をした?杖も振るわず、術式も書いていないし、魔法具だって使っていない!」
「あら〜なんだ、魔法具を知っているのかい」
「……え?」
「機械とは違うが、これさ。魔法具」
セラピは手のひらに枯れた紫陽花の花をのせている。先ほどの薄い青紫色をしていた花は、端が萎れていた。
「これが魔法具なのさ。道具を買ったり作ったりはできないからねぇ。小さな魔法だけど」
「……花が、魔法具?」
「ここら辺の田舎だとよくやってるよ。種に術式をこめ、魔力土や水に入れて花を育て、植物が育つホルモンに魔法を少しずつ入れ込むと、花が咲いたときに魔法具の役割をしてくれるのさ」
セラピは小さな杖をポケットから出して振る。すると、ヒヤリとした風が頬を撫でた。
「魔力や術式の限界で、普通に使うとこんなくらいしかできないんだけどね、毎日水をやるとき少量の魔力を、少しずつ入れられるから、花が咲いたときにはアイスクリームを作れるくらいになるのさ」
「お、おばさん!これ!」
マギアはポケットからペンダントを出す。中にはもう枯れているが、紫の小さな花が入っていた。
「フィリアは魔法を使えない、だが、このペンダントをしているとき一度だけ魔法を使えたんだ。初めは魔法具だと思ったんだが、水晶や金具、チェーンにも、術式が書かれている様子はない……もしかして、この花が原因か?」
「ふぅむ……魔力の流れはあるね。この花自体が魔法になるというよりかは、あくまでも補助的な感じだろうけど……」
「補助の魔法具……クタリが言っていたやつか」
「花の種類によって、相性の良い魔法があるのさ、私の紫陽花は物を冷やすのに向いている花、だから、その花もその魔法と相性がいいんだよ」
「世界中の本を読んでても、知らないことがたくさんあるもんだ……ということは、この花は魔力譲渡の治癒魔法と相性がいい。でも花の種類がわからねぇな……」
「綺麗な花だが、ここら辺じゃ見ない花だねぇ……」
「……ハーデンベルギア」
「え?」
「これ、ハーデンベルギアの花です」
======
ハーデンベルギア家、災厄の魔女を討ち取り、世界を救った英雄の家系。私の産まれたところ。その王族の名はとある花から名付けられた。
「昔、教えてもらったんです。『災厄の魔女』はとある花を大切にしていて、彼女を倒した証として、花の名前を家系に入れたのだと……それが、ハーデンベルギアです」
「なんでそんなこと知ってるんだい?」
「……隠していてすみません、私はハーデンベルギア国の第三皇女、フィリア・ハーデンベルギアです」
「へぇ〜!お姫様かい!」
「国が崩壊して、もうその肩書きも無いですが……」
マギアがバツの悪そうな顔をしたのでテーブルの下で手を繋ぐ。ビクッとして私を見るので、小声で「大丈夫」と言った。彼を恨んでなんかいない。全て私のためにしてくれたのを知っているから。
「ハーデンベルギア国は、『災厄の魔女』を討ち取り、魔法を嫌う国です。しかし、私は外で多くの素敵な魔法を見てきました。もちろん、悪い魔法や危害を加える魔法があるのも知っていますが、私自身は魔法が好きです」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいね!それより『災厄の魔女』かぁ懐かしいね、絵本持っていたよ」
「え?」
「私の妹が好きだったのさ、ちょっと待ってて、持ってくる」
セラピは2階から『災厄の魔女』の絵本を持ってきた。マギアは初めて見るようで、表紙の魔女をまじまじと見ている。黒くてウェーブがかった髪、赤い目、すらっとした細身。やっぱり、少し彼に似ている。
本を開く、何度も読んだお気に入りだから、内容も全て覚えていた。懐かしくなりながら、私はページをすすめる。
======
その昔、一人の魔女がいた。産まれながらにして膨大な魔力を持ち、人類も世界も脅かす程の魔法センスを持っていた。魔女は最初人のために世界のために魔法を使っていたが、次第に噂が流れるようになる。「彼女の機嫌を損ねたら殺される」「彼女の魔法1つで災害が起こせる」と……
噂は、きっと彼女をよく思わない人が立てた些細なもの、
しかし人々の心の奥で眠っていた小さな不安を煽るには十分だった。
しかし、それでも魔女を信じる青年がいた。
「彼女は魔法を使えるけど、優しい人だ。それで私たちに危害を加えたことはないじゃないか」
魔女も、青年のことを信じていた。しかし、青年は魔女の仲間だと、人間に殺されてしまった。
悲しみに暮れる魔女は世界に、人に絶望した。「私の魔法は世界を救うものではなかったのだな」
魔法使いは次の日、災厄を起こした。世界に大雨を降らせ、炎で包み、草木は枯れていった。
とうとう本性を表したと、人間は彼女を捕らえるために奮闘した、犠牲は数多く、しかし人々は負けなかった。
人々は魔法使いを縛り、魔法を、魔力を操作する術を覚えた。彼女の魔法は次第に弱くなり、遂に、魔女は魔法が使えなくなった。
彼女に献上していた装飾品は、彼女を縛る鎖へと変わる。魔力を奪う腕輪と、魔法を使えない首輪
人間は魔女の脅威を完全に制御することに成功し、彼女を人里から追いやった。
それから、人間は彼女を”災厄の魔女”と名づけ、二度と同じようなことが起きないように後世へと伝えるためにこの物語を書くことを決めたのだ。
======
「あ、れ……?」
おかしい、確か、彼女の悪い噂が流れた後は、すぐに魔女は災厄を起こしたはずだ。何度も離れの家で読んでいた絵本にはそう描いてあった。彼女を信じる青年なんていなかったはずだ。
……青年が殺されて、魔女は絶望した。白金の髪に、青い瞳の青年。
「……魔女は、青年が好きだったんだな」
マギアの呟きに、ドキンと心臓が鳴る。隣で読む彼の横顔は、節目がちで少し悲しそうだった。そのまま、最後のページをめくり、彼は手が止まる。私も覗き込んで、そこで目を疑った。
「この最後のページも、知らない……」
そこには、森の奥で涙を流しながら花を植える魔女が描かれてあった。文字はない、見開きいっぱいに花が咲くその絵は、思わず呼吸が止まる程美しかった。
ハーデンベルギア、災厄の魔女が愛した花。
「青年を助けられなかった後悔から作ったのが、魔力譲渡の治癒魔法……森に追われた災厄の魔女が作り、後世に魔力を分け与えた……それを補助するのが、このハーデンベルギアの花、魔法具の祖か」
マギアと顔を見合わせる。これまでの情報が全て『災厄の魔女』に繋がっていく。鼓動がどんどんと早くなっていった。それは、謎が解決する高揚感と、この旅の終わりが見えてしまったことへの……と、ここまで考えて思考をストップさせた。それは考えてはいけないことだったから。
「災厄の魔女の故郷……絵本に描かれてある森のことが分かれば、何か手がかりがあるかもしれない」
「それなら、この村の先にある森、ここに描かれてある大樹のような大きな一本の木が見えるんだよ。この村でよく行なわれている、魔法が入った植物や凶暴化した獣がいるとかなんとかで、村人は近づかないんだがね」
「行ってみるか、フィリア……おい、フィリア?」
「う、うん」
少し歯切れの悪い返事をしてしまう。だめだ、ちゃんとしなければ。マギアに魔力を返す、元々は彼のものなんだ。背筋を正して、マギアを見る、目があって彼も頷いた。
「魔女の故郷に行こう」
次回更新は 6月25日 19:00です。
作者Twitter(@maca_magic)でも更新お知らせしてます!