皇女の特技
ヘラヘラ飄々とした魔女(※男) × 内気だけど頑固な世間知らずお姫様
密着しないと魔法が使えない二人がイチャイチャして美味しいものを食べながら
魔法とは何かを紐解くお話です。
#魔女リス
2023年6月17日〜6月28日の間で毎日19:00に更新中!
なんだか、フィリアの様子がおかしい。
ピルニとクタリの家から出てから、街の探索をしようとしたところ、魔力譲渡の話をされてからだ。あの時は一国の猶予もない場だったとはいえ、彼女に魔力譲渡の方法を見られたのはしくってしまった。
魔力譲渡にはキスが必要、それも、長い時間をかける。俺は偶然子供の頃本で読んで知っていたが、そもそも術式を覚えられる人間が少なく使い方も特殊なために、魔法具が作られることもその魔法が広まることもなかった。
フィリアのことだ、自分に出来ることがあるとわかったら何をしでかすかわからない、無茶をされても困る。なんとかして、魔法具を見つけなければならない。クタリが言っていた、災厄の魔女が、後世の人間に魔力を分け与えるために森で魔力譲渡の魔法を作り、世界には魔法使いが生まれた……という話、あれが創作だとしても、事実を元にして作られているのだとしたら、彼女が全ての人間に魔力を分け与えるために魔法具を作っていてもおかしくない。俺は隣で俯いて黙ってしまった彼女を見る。……口元を見てしまうのは仕方ないだろう。ほんのりと赤く小さい唇が、俺の目の前に迫る想像を慌てて振り払った。
街は最初に降り立った露店が並ぶ通りに出る。何やら前に来た時よりも活気付いている気がする。串焼きの肉や雲のような白くて丸いお菓子をもつ子供が走っている。
「……なんだ、随分賑やかだな」
「お!お兄ちゃんいい時に来たね!今日からお祭りなんだよ!」
大きいサングラスをかけて浮かれた青年が話しかけてくる。どうやら、この街で代々行われる収穫祭が数日かけて行われるらしく、俺たちがピルニ達の家で過ごしていた間に準備が行われていたようだ。
「ピルニとクタリがどデカく魔法打ち上げてくれて、こっちでも大盛り上がりさ!」
「……っ!なんでそれを」
「ん?知らないのかい、ピルニとクタリの双子、アイツらは魔法具を作る魔法使いなのさ。アイツら隠してるつもりだが、街の皆は皆知ってる。親子代々隠し事が下手だからな」
「魔法、怖くないのか?」
「そりゃ全部平気ってわけじゃないけど、アイツらの親がずっとこの街で魔法について話してたから、昔は毛嫌いしていた人も多かったが、最近はアイツらの魔法なら大丈夫だろっていう人の方が多いぜ!ってことで、お二人も楽しみな!」
驚いた、街の人たちは彼女達を受け入れていた。確かに、二人とも嘘が下手で素直な子だ。あの敵襲の時、フィリアが花火を上げる提案をしていなかったら、きっと未来は変わっていただろう。相変わらず、先見の明に優れている。当の本人は特に話に参加ぜず、ぼーっとしているが……
青年は祭りに消えていき、二人になる。繋いだ手は離すとどこかへ行ってしまいそうだ。「見ていくか」と手を引いたら頷いたので声は聞こえているだろう。少し前のフィリアに戻ってしまったようで、少し不安になる。カラフルな露店を見ていたら、急に、フィリアの足が止まった。くいくいと手を引かれる。
「フィリア?」
「あれ出たい」
「あれ……って、え?」
そこは、少し開けたステージのような場所、ステージには大きく「大食い大会!」と垂れ幕がかかっていた。
ステージの上にはテーブルが複数置かれ、その上に大盛りのハンバーガーやカレー、ホットドックにショートケーキ……見るだけで胃もたれがしそうな料理の数々だ。
俺よりも二回りくらい大きなガタイをした人、おそらく参加者だろう人達が次々とステージに立っていく。よく見ると、さっきのメガネをかけた青年が声を張り上げてステージを盛り上げる。見に来ている観客のテンションも最高潮だ。
「毎年恒例!収穫祭で採れた食材を使用した料理で行う大食い大会!ペアで出場して一番多く料理を食べられた優勝者には豪華景品がプレゼントされます!」
「ペア出場だって、一緒に出よ?」
こんな目立つところに……というか、俺はそんなに量を食べれるわけじゃない。地下牢暮らしが長かったから、なんなら少食の部類だ。フィリアは俺の顔をじっと見て、お願いのポーズをしている。正直、彼女が何かしたいと自分から言い出すのは珍しいことだ、叶えてやりたい。
「……言っとくが、俺は戦力として期待するなよ」
「してないよ」
「あ?」
「大丈夫、私お腹空いてるから」
ふんす!と両手を握って胸の前に掲げる彼女。18の女性の「お腹空いてる」が、あのガタイに勝てるわけがないだろう!しかし、俺の言葉も待たず、フィリアは俺の腕を引いてステージへと向かってしまった。
「なんと!先ほどのお二人じゃないですか!観客席はあちらですよ!」
「いいえ、参加者です。私と、彼」
「へっ?……い、いけますか?」
「いけます」
「……はは、これは面白い!飛び入り参加のカップルだ〜!皆拍手〜!」
フィリアはいそいそと席を取り、隣へおいでと手招きをする。複数の料理が所狭しと並んだテーブルを目の前にすると、量に圧迫されるが、それと同時に美味しそうな匂いが鼻をくすぐる、思わず腹が鳴った。昼食は取ってないし、朝ごはんもパンを1つもらっただけだ。流石に、あの男達に勝てるなんて思わないが、フィリアが食べ切れなかったものくらいはもらってやろう。俺たちで参加者は最後だったらしく、司会の青年は大声で開始の合図を取る。
「それでは!一年に一度の大勝負!大食いバトル、スタートです!」
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ハンバーガーとホットドック1つ、カレー半分、ショートケーキは一口。俺の戦績だ。
「む、無理……こんな腹一杯食ったことない……」
秒で戦意喪失した俺は、他の参加者はどんどん胃袋に料理を押し込んでいるのを見守るしかなかった。
「おおお!前年度優勝のリトロン兄弟!今年もいい食べっぷりだ~!」
「オデ、ゼンブ、クウ」
「オデ、ゼンブ、クウド」
「どっちもそう言うタイプの兄弟なの珍しいな!いけいけ〜!」
その中でも、他の参加者よりまた一回りデカいガタイの男達が、倍くらいの料理を食べていた。どんどんと空いた皿が目の前に積まれていき、その度に料理が運ばれてきて、その様子にこちらまで腹が一杯になる。
フィリアが同じく満身創痍になってるだろうから、もうほとんど入らない腹に、彼女の残した料理だけは入れてやると、ふと彼女の方を見る。
「……え」
「ちょっと待ってください……!リトロン兄弟と良い勝負、いや、食べる手は止まるどころかスピードが増してるぞ!?最後の参加者の彼女!どんどん料理が口に入っていく〜!」
フィリアは涼しい顔で大皿のカレーを完食しているとことだった。それに加えて、彼女の前の皿はハンバーガーもホットドックも全てなくなっている。どんどんと来る料理が追いついてない。
「あ……マギア、それ食べられない?カレーとケーキ」
「え、あ……お、おう」
「食べていい?まだ料理来てないから」
「……うん」
大皿を彼女に渡すと、大きな一口でカレーを美味しそうにぱくぱくと飲み込んでいく。苦しんでもない、ただ食事を楽しんでいた。
「ア、アノオネエチャン、スゴイド!」
「オデタチ、モウ……オナカイッパイ……」
いつの間にか、俺たちとリトロン兄弟の一騎討ちになっていた中、リトロン兄弟の完敗宣言で勝負は決着した。フィリアは、最後の楽しみと言わんばかりにショートケーキを嬉しそうに口に頬張っている。
「オネエチャンがチャンピオンド~!」
リトロン兄弟は尊敬の眼差しでフィリアを見る。ハンバーガーとホットドックを20個ずつ、カレーを5杯、ショートケーキは50個一人で平らげた彼女は、お腹も膨れずケロッとしている。観客は予想だにしていなかった下克上に大いに湧いた。優勝商品はこの街のレストランで使える食事無料券。副賞は水晶のペンダントだった。
「あの、私達は旅の途中なので、これよければ……」
「エ!イ、イイノ?」
「はい」
「オネエチャン……イイヤツ……」
フィリアは大会が終わった後、優勝賞品の無料券をリトロン兄弟に渡していた。ますます彼女がこの大会に参加した意味がわからない。リトロン兄弟は俺にも嬉しそうにブンブンと手を振り、人は見かけによらないというか、この街は中々良い街だ。フィリアはリトロン兄弟と別れ、俺に方に走ってくる。そもそもあんなに食べたのに走れるのすら意味がわからない、俺はまだ腹が苦しいというのに。
「ごめん、お待たせ」
「よかったのか?賞品」
「うん。それと、これはマギアにあげる」
キラリと彼女が大会副賞のペンダントを俺に渡す。チェーンの先に双六角錐の水晶がついている。中は空洞で半分ほど水が入っており、花がひとつ浮いていた。
「……綺麗だな」
「もらってばかりだから、あげる」
……もしかして、彼女の本当の目的はこのペンダントを俺に渡すためだったのではないか?たくさんもらってばかりだと彼女は言っていた、気にしていたのか。フィリアを見る、ニコッと微笑む彼女に俺まで口元が緩んでしまう。ありがとうとお礼を言おうとしたら、ぐううとお腹の鳴る音がする。俺じゃないってことは……
「フィリア、お前……」
「大丈夫、さっきまでは具合悪くなるくらいお腹空いてたけど、今は普通にお腹空いてるくらいだよ」
「な、何を言ってるんだコイツ……」
どうやら、最初彼女の様子がおかしかったのは空腹だったから、らしい。そういえば、彼女の魔力を結構使っていたことを思い出す。魔力が膨大だから、それが一気に無くなる分空腹になってしまうのかもしれない。先程までの様子がおかしいことへの真相が分かりホッとする。
「このペンダント、フィリアが持ってろ」
「え、でも……」
「俺は首輪がもう付いてるんだし、お前の方が似合う」
留め具を外して、彼女の首につける。陽の光に照らされて、キラキラと光るそれは美しかった。
「じゃあ、お昼食べに行こっか」
「まだ食うのかよ!」
次回更新は 6月22日 19:00です。
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